特定非営利活動法人中信多文化共生ネットワーク(多文化共生/子ども支援/教育/多言語相談)

「地域に飛び出す市民国際プラザ」 団体活動インタビュー

◆特定非営利活動法人中信多文化共生ネットワーク (2025年12月3日) 長野県松本市

地域に根ざし、未来をつなぐ多文化共生 ー中信多文化共生ネットワークの歩みとこれから ー

今回は信州大学グローバル化推進センター教授で、長野県松本市の中信多文化共生ネットワーク(以下CTN)理事長の佐藤友則さんにお話を伺いました。

対話から始まった市民のネットワーク 
 CTNの始まりは、2006年にさかのぼります。信州大学国際交流センター(当時)が、松本市中央公民館に対し、「両者が連携して、日本語ボランティア向けの日本語教育指導講座を開設してはどうか」と提案したことが最初のきっかけでした。この提案に対し、中央公民館から返ってきたのは、さらに一歩踏み込んだ問いかけでした。「単に大学と公民館で事業を始めるのではなく、これまで松本市で多文化共生に関わってきた市民団体の代表者を集め、まずは話し合う場を持ってはどうか」。信州大学側もこの考えに賛同し、対話の場づくりが動き出しました。

 その後、大学、公民館、市内で多文化共生に関わってきた関係者による話し合いの場が継続的に持たれました。現場で感じてきた課題や問題意識が丁寧に共有される中で、参加者の間には次第に信頼関係が育まれ、「この地域に本当に必要な多文化共生の形とは何か」を共に考える土壌が形成されていきました。同時に、行政や教育関係者からは、多文化共生に継続的に取り組む市民団体の設立を求める声が寄せられるようになります。こうした要請を受け、話し合いの場は市民団体設立という具体的な方向へと収斂していきました。CTNは、対話と合意形成を重ねた末に生まれた、市民によるネットワーク型の団体なのです。

子どもセンター
松本市子ども日本語教育センターでの日本語指導の様子

「子ども」を軸に広がる実践
 CTNの活動の中心には、設立当初から一貫して「子ども」があります。外国にルーツを持つ子どもたちが、言語や文化の違いによって学びや生活の機会を狭められることなく、自分の可能性を発揮できる環境をつくること。そのために、日本語教育や学習支援、学校との連携に力を注いできました。しかし、子どもへの支援を続ける中で、家庭の状況や保護者の困りごと、制度の分かりにくさといった課題が浮かび上がってきます。

暮らし全体を支える「多文化共生プラザ」と相談支援
 CTNの活動は、子どもへの支援を起点としながらも、次第に地域に暮らす外国にルーツを持つ住民全体の課題へと広がっていきました。その中核となっているのが、「松本市多文化共生プラザ」の相談窓口です。CTNは、松本市の委託を受け、このプラザを拠点に、生活、就労、教育、医療、行政手続きなど、幅広い分野にわたる相談に対応しています。子どもに関する相談はもちろんのこと、大人の生活上の困りごとや家族全体の課題に寄り添う点に、この取り組みの特徴があります。

 相談支援の中心を担っているのは、アメリカでソーシャルワーカーの資格を取得したコーディネーターです。個別の事情を丁寧に聞き取りながら、必要に応じて行政機関、学校、医療・福祉機関などと連携し、住民が地域で安心して暮らし続けられるよう伴走型の支援を行ってきました。この実践は高く評価され、こちらのコーディネーターは後に長野県に設置された多文化共生相談センターのアドバイザーも務めています。松本市で積み重ねてきた現場の知見が、県レベルの多文化共生施策にも活かされているのです。

プラザ松本多文化共生プラザでの相談の様子


行政とともに「仕組み」を育てる
 CTNは、行政との協働を通じて、多文化共生を一過性の取り組みではなく、地域に根付く「仕組み」として育ててきました。現場で見えてきた課題を共有し、改善策を提案しながら、制度や運用のあり方を共に考えていく。その姿勢は、単なる受託団体ではなく、地域のパートナーとしての立ち位置を築いてきたと言えるでしょう。一方で、行政委託に依存する運営の難しさや、人材確保・育成といった課題にも直面してきました。

こいこい松本「第15回こいこい松本」参加スタッフの集合写真

地域の経験を価値に変え、次の展開へ

 CTNが今後見据えているのは、活動を単に「良い実践」として続けることではありません。これまで地域の現場で蓄積してきた知見や専門性を、社会にとって持続可能な価値としてどう位置づけるかという点に、より強い意識を向けています。多文化共生の現場では、語学力だけでなく、制度理解、教育現場との調整力、相談支援の専門性など、高度で複合的なスキルが求められます。CTNは、こうした専門性を「ボランティア精神」や「善意」だけに依存させるのではなく、正当に評価され、循環する仕組みとして成立させる必要があると考えています。そのため、これまでの教育支援や相談支援の実践を基盤に、研修事業や人材育成、日本語教育、企業へのコンサルテーションなど、事業性を持った展開にも取り組み始めています。

 これは、営利化を目的とするものではありません。現場で必要とされる支援を、質を落とさずに継続するための「経営的選択」です。行政委託だけに依存しない収入構造を持つことで、組織としての安定性を高め、人材の育成や定着にもつなげていく。その先に、地域の多文化共生を支える中間支援組織としての役割強化があります。

 また、松本地域で培ってきた実践は、他地域にとっても再現可能な知見となり得ます。CTNは今後、自治体国際交流協会や他のNPOと連携しながら、事例共有や伴走支援を通じて、「多文化共生を担う組織づくり」そのものを支援する立場へと役割を広げていくことも視野に入れています。

 地域に根ざした実践を、次の地域へ。現場で積み重ねた経験を、社会に還元できる事業へ。CTNは、「すべての子どもが可能性を発揮できる社会」という原点を守りながら、活動と経営の両立に挑み続けていきます。


中信多文化共生ネットワーク ウェブサイト http://ctntabunka.jp/