(特活)IKUNO・多文化ふらっと(多文化共生/子ども支援/まちづくり/調査・提言)
インタビュー
2025.01.15
「地域に飛び出す市民国際プラザ」 団体活動インタビュー
◆特定非営利活動法人IKUNO・多文化ふらっと (2024年11月22日) 大阪市生野区
~企業とNPOの共同事業体で、「誰一人取り残さない」多文化共生のまちづくりに挑戦~
大阪市生野区を拠点とする特定営利活動法人IKUNO・多文化ふらっと(以下、多文化ふらっと)は、多文化共生のまちづくり拠点「いくのコーライブズパーク」にて、「誰もが暮らしやすいグローバルタウン」をスローガンに活動しています。
事務局長の宋悟(そんお)さんにお話を伺いました。
「世界に最も近いまち」/課題先進エリア 生野区
大阪市生野区は、日本最大のコリアタウンを擁する町としても知られていますが、多国籍化が進み、今や区民の5人に1人以上が在日コリアンをはじめ80か国以上にルーツを持つ人々です。また、コリアタウンは年間200万人が訪れる人気スポットとなっている一方で、超少子高齢化、子どもの貧困化が進み、空き家が増加するなどの深刻な課題を抱える都市部における「課題先進エリア」でもあります。多文化ふらっとは、このような生野区において、寛容で包摂的な多様性があふれる地域社会、「誰一人取り残さない」多文化共生のまちづくりへの挑戦を開始しました。
前例のない企業とNPO共同事業体構想
きっかけとなったのは、生野区による小学校の統廃合と、御幸森小学校跡地を活用する構想です。2018年、この跡地活用に関するシンポジウムに森本宮仁子さん(現多文化ふらっと代表理事)と宋悟さんが招かれました。約100年の歴史を持つ御幸森小学校を閉校し、その跡地を新たな多文化共生のまちづくり拠点とする構想で、大阪市と20年の定期賃貸借契約を結び、毎年大阪市に賃料を払うとともに跡地活用のための初期改修費や維持管理費も原則すべて共同事業体が負担するという事業スキームでした。宋悟さんは、このスキームをNPO単独の力量では運営できないと判断をしました。しかし、この事業には必ず地域の視点が必要と感じ、仲間を集めて動き始めます。
2019年、森本さん、宋悟さんをはじめ生野区に縁のあるメンバーによって「多文化ふらっと」が設立されます。跡地活事業の経営の課題をどうするか? 検討を重ねた結果、NPOと企業による共同事業体方式に思い至ります。そして、パートナーとなる企業を探す過程で㈱RETOWNとの運命的ともいえる出会いを果たします。「食を通じたまちづくりを進めるRETOWNとの協力関係は非常にユニークで、多文化共生と経済活性化の両方を可能にすると考えました」と宋悟さんは語ります。
2021年には、御幸森小学校跡地活用の公募型プロポーザルに、RETOWNとの共同事業体提案が採択されました。両者が対等な立場で議論を行い、運営を行うという前例のない共同事業体構想で、学校跡地を地域再生の場へと転換する取り組みが本格始動しました。御幸森小学校跡地をリノベーションし、「いくのコーライブズパーク」(以下、いくのパーク/いくPA)として整備する過程では、学校の設備では電気容量が圧倒的に不足するため数千万円をかけて工事を行う必要も生じました。寄付、民間助成、クラウドファンディング、金融機関からの借入れ等で資金を獲得しながら2022年に完成、2023年5月にいくのパークがグランドオープンしました。
第8回いくの万国夜市
2024年11月17日開催
多国籍屋台やステージを約1700人の来場者が楽しみました
主催:(特活)IKUNO・多化ふらっと(株)RETOWN
いろんなことば&いろんなあそびdeいくのっこパーク
2024年11月17日開催
多言語の絵本読み聞かせやいろんな遊びを約400人の参加者が体験しました
共催:(特活)IKUNO・多化ふらっと/大阪わかば高校/生野区役所
多様な連携を通じた地域づくり
多文化ふらっとの事業は実に多岐に渡ります。市民団体、企業、行政等様々なセクターと連携しながら、200人を超えるボランティアと共に活動しています。生野区役所とは2021年に包括連携協定も締結しました。拠点であるいくのパークでは、学校を連想させる木製のオブジェの数々や、スタイリッシュな「いくPA」のロゴの看板が出迎えてくれます。かつての校庭には芝が敷かれ、プールはバーベキュー場になっています。パーク内はテナントのカフェ、レストラン、アートギャラリーなどもあり、気軽に立ち寄ることができます。
事業は大きく4つの柱で構成しています。
●いくのパーク事業
いくPA農園による学び、居場所としても重要な図書室ふくろうの森の運営、貸室。地域の重要な防災拠点
●こどもみらい事業
外国につながりのある子どもの学習サポート、日本語学習サポートなどの教育支援。子ども食堂、体験活動など。特に、外国につながりのある子どもたちのアイデンティティ形成や、「自己決定」を大切にしながら活動をしています。
教育支援事業は、宋悟さんが立ち上げたNPO法人クロスベイスと共同運営です。
●まちづくり事業
多文化クロッシングフェス、地域と大学との連携、いくのふらっと大学、JR桃谷駅周辺自転車整備事業の受託等
●ちょうさ・ていげん事業
体験活動DO/CO稲刈り体験
2024年10月13日開催
金剛山のふもとのひまりえんさんの田んぼで鎌での稲刈りを体験しました
主催:(特活)IKUNO・多文化ふらっと主催
調査、提事業を重要視する理由
前例の無い取り組みの数々にチャレンジしている多文化ふらっとですが、「ちょうさ・ていげん事業」は最も特徴的な事業の一つです。「私たちが目指しているのは、多文化共生×まちづくり。言い換えると、生野区における多化共生の地域内循環の社会的仕組みを作ることです。教育支援、相談事業などを個々に取り組む団体はありますが、並行して市・行政・企業セクターを越えた重層的なネットワークによる多文化共生のまちづくりを目指しています。多文化共生のまちづくりのためには、人々の意識変革と制度設計が両輪で必要と考えるからです」と宋悟さんはいいます。今年度は、公募プロポーザルを経て生野区の外国籍住民意識調査を受託し、現在その結果を取りまとめているところです。分析結果を基に生野区に対して施策提言を行う予定です。
課題、そして未来へ
現在、一番の課題は持続可能な運営のための財源の確保です。収益事業としてのテナント運営や委託事業の拡充を進めつつ、地域経済の中で自立するモデルを模索しています。また、外国籍住民の増加に伴い、区内保育園で外国につながる子どもも急増し、未就学児の更なる支援も課題です。多文化ふらっとで行っている多言語相談では、伴送型できめ細かい支援を行えるように事業の更なる拡充を図っています。
今後の展望について宋悟さんは「混沌と危うさを抱きしめながら進む勇気が必要です。多様性を受け入れ、地域全体で未来を築くことが重要だと考えています」と語り、課題の解決と、理想とする地域の将来像を描きながら、その実現に向けて困難に立ち向かう決意を新たにしています。多文化共生ソーシャルワークの実践を通して脆弱な立場に置かれがちな人々をエンパワーしながら、多文化共生の地域内循環を目指す多文化ふらっとのチャレンジに多くの注目が集まっています。
皆さんも是非一度、「いくPA」を訪れてみてください。
IKUNO・多化ふらっと:https://www.ikunotabunkaflat.org/
いくのパーク: https://ikuno-park.jp/ https://www.instagram.com/ikuno_park/