認定特定非営利活動法人シェア=国際保健協力市民の会(東京都台東区)(国際協力 / 多文化共生 / 保健・医療 )

「地域に飛び出す市民国際プラザ」 団体活動インタビュー

認定NPO法人シェア=国際保健協力市民の会(東京都台東区/2018年6月12日)

自治体とNGOの連携で、外国人を結核から守る
~東京都外国人結核患者治療服薬支援員養成・派遣事業~

東京都とシェア=国際保健協力市民の会では、外国人の結核患者のための治療服薬支援を行っています。自治体とNGOの連携事業としても、それぞれの強みを生かした、先進的かつ優れたモデル ケースです。
シェアと東京都福祉保健局の職員の方よりお話を伺いました。

多言語リーフレット


多言語の結核啓発リーフレット


2006年より東京都からの委託を受ける形で、シェアでは通訳養成、通訳のコーディネートと派遣や、保健所で 実際に対応する保健師の方々の支援まで行っています。開始当初は4言語だったところ、現在は中国語、タガログ語、タイ語、英語、ミャンマー語、韓国語、スペイン語、ポルトガル語、ネパール語、インドネシア語、ベトナム語、 フランス語、ヒンディー語、モンゴル語、ベンガル語、クメール語と実に多くの16言語に対応、42名の通訳が活躍しています。外国籍の方も少なくありません。医療機関で結核の患者さんが出た場合、感染症法に基づいてその情 報が保健所に届きます。その際、日本語でのコミュニケーションが難しい患者さんの対応が必要な場合に、東京都を経由してシェアに連絡が行き、通訳が派遣される仕組みです。

結核は感染しているだけでは発病せず、発病しても他者に感染させない状態や、咳や痰などを介して他者に感染させる状態など、様々だそうです。結核の治療で大切なのは、適切な薬を適切な期間服薬し、治療を完了させることだそうです。途中で服薬を止めてしまうと、ご本人が多剤耐性結核となる可能性が高まるだけでなく、周囲に感染を広げることにつながります。そうした事態を防ぐために 保健師が適切な指導を行う上で、通訳による正しい情報伝達が不可欠であるため、通訳の果たす役割は重要です。

外国人の場合 、治療の途中で帰国し、再来日することもあり、それが本人の意思だけでなく、就労先の都合であるケースもあるため、就労先や、留 学生の通う日本語学校などへの啓発も重要とのことです。保健師の方が単なる服薬指導だけでなく、就労先とのコミュニケーションを 含む生活全般の包括的な支援を行なうことが治療の効果を更にあげているということですね。

更に、通訳の派遣を調整するコーディネーターの役割も重要です。通訳の方が日本の地理や地図に精通してい ない場合は派遣先に正しく行けるようなきめ細かいサポートも必要です。医療という繊細な内容の通訳には言葉 の問題だけでない様々な困りごともあるそうです。通訳が役割を果たすための多面的なサポートを行うのもコーディネーターの役割です。国内の結核患者総数自体は年々減少しているのに、全体に占める外国人の罹患が止まりません。また、この 10年で高齢者の患者は減少しているのに、20代の患者は増えているそうです。なぜでしょうか? それは、 外国人で青年層の患者が多いからで、理由としては、来日する外国人の年齢層(留学や技能実習生等とし て来日)はそもそも青年層が多いためであると推測されます。結核は感染しても発病率がそれほど高く無いものの、環境の変化や厳しい生活状況により免疫力が下がったときに発症するため、出身国で感染者が元々多いこ ともあり、発症に至るのではないか、とのことです。

外国人人口の多い東京都では必然的に患者数も多くなり、 全国の外国出生結核患者の約4分の1は東京都在住者とのことで、東京都の対応がいかに重要であることが分かります。結核は感染症法による公費負担制度があり、国や自治体の医療費補助が受けられ、在留 資格に関わらず外国人にも適用されるとのことです。言語の壁や、生活するコミュニティの範囲によっては情報へのアクセスが不足することも想定されますが、シェアでは、2013年に東京都とその 周辺の県に在住する外国人を主な対象とした多言語の結核啓発リーフレットを、また東京都では、2018年に対策として多言語の結核啓発リーフレットと映像を作成しています。結核の症状 、治療法、問い合わせ窓口の情報などを記載して、外国人の方々に結核に関する正しい情報が届くように工夫しています。映像は、近々東京都のウェブサイトに公開されるとのことです。百聞 は一見にしかず、映像資料は効果が高いですね。

最後に、東京都とシェアによる素晴らしい取組みは、今後是非、全国にも広まってほしいと願いますが、東京都に続いて大阪でも 取り組んでいるとのことです。課題としては、医療通訳の待遇は会議通訳、司法通訳に比べて制度化や待遇の保障が整備されて いないこともあり、通訳の方々の善意やボランティア精神に支えられていたり、そもそも希少言語の通訳の確保が困難であったり、 行政やNGOとしても予算の確保という課題も抱えているとのことです。外国人の健康を守り、結果として社会全体の健康を 守る重要な取り組みが今後も継続されるためには、国を始めとする各種法的、制度的整備のみならず、こうした取り組 みへの市民の理解も大切ではないかと感じます。


多言語動画


7言語による結核啓発動画(東京都)


ウェブサイト: コチラ から
◇ 関連情報: コチラ から 「自治体国際化フォーラム 第355号 現場レポート」 
 「東京都との連携で目指す外国人結核患者の治療完了」