令和元年度 地域国際化ステップアップセミナーin愛知 開催報告書をUPしました
お知らせ
2020.03.29
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土井佳彦氏『人間』を受け入れるということ~乳幼児期と老年期の暮らしを考える~
各務元浩氏「愛知県における多文化共生の取り組み~乳幼児期と老年期を中心に~」
【日時】 2020年1月23日(木)13:30~17:30
【場所】 名古屋国際センター別棟ホール
【参加者】 80名(自治体、国際交流協会、NGO・NPO他/クレア職員・スタッフ含:90名)
【後 援】 愛知県、名古屋市、(公財)愛知県国際交流協会、(公財)名古屋国際センター
【企画・運営協力】 (特活)多文化共生リソースセンター東海
【主 催】 (一財)自治体国際化協会 市民国際プラザ
【プログラム】
13:30-13:35 |
挨拶 一般財団法人自治体国際化協会 多文化共生部多文化共生課 課長 藤波香織 |
13:40-14:05 |
導入講義 『人間』を受け入れるということ~乳幼児期と老年期の暮らしを考える~ 土井佳彦氏 特定非営利活動法人 多文化共生リソースセンター東海 代表理事 |
14:10-14:40 |
取組紹介1 「愛知県における多文化共生の取り組み~乳幼児期と老年期を中心に~」 各務元浩氏 愛知県県民文化局県民生活部社会活動推進課 多文化共生推進室 室長補佐 |
14:45-15:15 |
取組紹介2 「多言語・多文化保育の実践から」 加藤順彦氏 一般社団法人多文化リソースセンターやまなし 代表理事 |
15:20-15:50 |
取組紹介3 「多言語・多文化介護の実践から」 呼和德力根氏 特定非営利活動法人 神戸定住外国人支援センター(KFC) ゼネラルマネージャー |
15:50-16:05 |
休憩 |
16:05-17:25 |
パネルディスカッション パネリスト:各務元浩氏、加藤順彦氏、呼和德力根氏 コーディネーター:土井佳彦氏 |
閉会 |
◇導入講義
『人間』を受け入れるということ~乳幼児期と老年期の暮らしを考える~
土井佳彦氏 (特活)多文化共生リソースセンター東海 代表理事
労働力ではなく、「人間」
スイスの作家マックス・フリッシュ氏は、日記の中にこう記したそうです。「スイスの経済は労働力を呼び寄せたのだが、やって来たのは人間だった」と。外国人労働者であっても、一人の人間としていろいろな生活があって、そこへの対応ができていなかったという反省を込めた一言だと思いますが、今の日本社会でも改めてこの観点から見つめ直す必要があるだろうと思います。
「多文化共生」と「総合的対応策」
2006年3月、総務省は「地域における多文化共生推進プログラム」をまとめ、各自治体に多文化共生の社会づくりを推進していくよう通知を出しました。そこには、本セミナーのテーマである、在日外国人における乳幼児期及び老年期への施策も明記されています。さて、これらの施策がこの14年間で、各地でどのように、どのくらい進められてきたのでしょうか。個人的な感覚では、義務教育年齢を中心とした学齢期や労働者への施策、そして年齢を問わない情報の多言語化や災害時対応などは比較的施策が展開されてきたように思いますが、就学前の乳幼児期やリタイアした後の第二の人生、そして終末期における施策というのはまだまだ手付かずになっているところが多いのではないでしょうか。
昨年12月に発表された「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(改訂)」を見てみると、乳幼児期については「外国人の子供に係る対策」の中で施策項目も増え、充実した記載内容となっています。保育園や幼稚園、そして放課後の子どもたちのケアにおいても「多文化対応」が必要だと書かれています。一方で、高齢者施策については、一言も触れられていません。「総合的」に対応するという中に、外国人高齢者が直面する課題等への対応は何も講じられていないのです。「新たな人材」を受け入れるということだとしても、目先の対応だけを考えていては、その後に発生する課題への対応が後手に回ってしまいます。そして、すでに日本にいる外国人材への対応も合わせて考えなければ、「総合的」に対応することにはなりません。もう一度、マックス・フリッシュ氏の言葉を思い出し、同じ轍を踏まないようにすべきです。
3県の外国人状況
このあと活動紹介をいただく3名の方の活動地域である愛知県・山梨県・兵庫県の外国人状況については、お手元の資料にまとめておきましたのでご参考ください。いくつかポイントをあげると、3県に共通して言えるのが2008年秋のリーマンショック以降に外国人数が減少傾向となり、その5,6年後からは一転して増加傾向が続いています。在留資格別に見ると、どの地域も「永住者」、「特別永住者」、「定住者」、「日本人の配偶者等」といった資格が約7割を占めています。
一方、国籍別割合では、愛知県ではブラジル、山梨県ではフィリピン、兵庫県では韓国が最も多く、また愛知県でも名古屋市は中国が、山梨県中央市ではベトナムが最多であるといった地域特性が見られます。さらに年代別で見てみると、3県ともに20代が最多であるものの、乳幼児期と老年期の人数も10年前に比べて増えています。ただし、一般に公開されている法務省のデータでは、居住地と国籍と年齢のクロス集計が上位5か国に限られているのですが、それだけを見ても、どの地域でどの国籍及び在留資格での年齢層の多寡が異なることがわかります。この後の3名の報告を聞く際には、こうした各地の基本的な状況を押さえておくとよいかと思います。
今後の多文化共生施策に向けて
愛知県では、2018年に「あいち多文化共生推進プラン2022」をまとめ、その中でライフサイクルに沿った取り組みの必要性を示しています。まさに、「揺り籠から墓場まで」切れ目のない取り組みがまとめられていることにご注目いただきたいと思います。本セミナーでは、「乳幼児期」と「老年期」にスポットを当ててみなさんと一緒に今後の地域づくりを考えていきたいと思いますが、特定の時期における課題に対して個別に対応していくのではなく、それはライフサイクルにおける他の時期にも大きく影響するものなのだという認識を忘れずに議論していきたいと思います。
取組紹介1
◇愛知県における多文化共生の取り組み~乳幼児期と老年期を中心に~
各務元浩氏 愛知県県民文化局県民生活部社会活動推進課多文化共生推進室 室長補佐
「あいち多文化共生推進プラン 2022」
2018年3月に、第3次となる「あいち多文化共生推進プラン」を策定しました。ここでは大きく3つの施策目標を設定しています。今回のプランでは、ライフサイクルに応じた継続的な支援が"肝"となっています。日本人も外国人も同じように、乳児期から老年期までさまざまな課題を抱えます。日本人に必要な支援は当然、外国人にも必要になります。加えて、外国人には「言葉の壁」、「制度の壁」、「心の壁」を認識した上で取り組まなければなりません。これらの課題解決をすべて多文化共生推進室で取り組んでいくということではなく、まず推進室でモデル的にやってみて、そこで得られたノウハウ等を元に他の部署や市町村等でも展開していただくというように考えています。
愛知県の外国人子育て施策
愛知県は、「日本語指導が必要な児童生徒数」が全国で最も多い県として知られてきました。その数は現在も毎年最多を更新しています。2006年に「プレスクール」のモデル事業を開始し、4年間の試行錯誤を経て「プレスクール実施マニュアル」を作成しました。現在、これをもとに県内各地でプレスクール事業が行われています。2015年からは、「あいち外国人日本語教育推進会議」の中で、有識者や実践者の方々からご意見をいただいていますが、その中で3歳ぐらいまでの子どもを持つ保護者が地域で孤立していたり、日本人・日本社会との関わりを持つための日本語の習得や子育て等に必要な知識を得る機会が持てなかったりすることが指摘されました。そこで、2016年に子育て中の外国人を対象とした日本語習得のためのモデル事業を開始し、現在は「多文化子育てサロン」という名称で各地のNPO等に委託して実施しています。
行政、特に現場を持っていない県としては、県民一人ひとりの細かなニーズを捉えるのは難しいことですが、会議等を通じて様々な方からご意見をいただき、施策に反映し、継続的に実施する中でトライアンドエラーを繰り返して少しずつ良い事業にしていくよう努めています。推進室では直接保育園を作ったりすることはできませんが、子育て支援センターや保健所等の関係機関と連携したり、モデル事業を通じて得られたノウハウをマニュアルにまとめて共有したりするのが役割だと考えています。現在のモデル事業は少なくとも2022年まで実施する予定です。外国人の保護者同士がいろいろな人と出会い、交流し、また図書館や子育てサロン、幼稚園・保育園等に一緒に行ってみることで、地域との関わりが増え、楽しく安心して子育てができるようになっていただきたいと思っています。
愛知県の外国人高齢者施策
県としては、今のところ外国人高齢者に特化した施策を行っていません。これまで、この分野における課題認識を持っていませんでした。そのような中、2016年に県内で立ち上がった「外国人高齢者と介護の橋渡しプロジェクト」という民間の活動で、介護通訳者の養成と福祉施設等への派遣を行ったり、外国人に対する介護保険制度の周知や、外国人高齢者のケアに関するセミナーを開催されたりしました。また、県内でNPO法人コリアンネットあいちという団体が、外国人を含む高齢者のデイサービスを行っています。こうした活動に触れることで、私たちも徐々に外国人高齢者やそのご家族が抱える課題に気づくことができました。
愛知県では、2012年度から「あいち医療通訳システム」の運営に取り組んでいます。先の橋渡しプロジェクトも、この通訳養成講座の修了生から生まれた活動です。介護の現場は、要介護度認定をはじめ、医療とは異なる制度や書類の手続き等に関する知識が必要になりますので、医療通訳システムの中に介護通訳も含めてやればいい、というような単純なものではないと思っています。専門的な部分も必要ですが、個人的には様々な言語でコミュニティ通訳を養成していくことも必要ではないかと思っています。今後、専門家の意見を聞き、勉強しながら県としての取り組みを考えていきたいと思っています。
取組紹介2
◇多言語・多文化保育の実践から
加藤順彦氏 (一社)多文化リソースセンターやまなし 代表理事
*はじめに、下のURLから団体の活動紹介動画をご覧ください。
https://www.tabunkayamanashi.com/post/literacy-program-for-syrian-girls-refugees
ブラジルでの経験
私は大学でスペイン語を学んだこともあり、27歳のときに仕事でブラジルに転勤することになりました。その後、現地でブラジル人女性と結婚し、2人の子どもを授かりました。駐在経験から感じたことは、とにかく言葉の重要性でした。言葉ができればブラジル人社会に入っていけます。これからはポルトガル語のできる日本人社員がブラジル社会に入り、そこで永住していくことが必要になると思い、会社に申し出てブラジルに家も買い、30年間暮らしました。日本には12年前に単身帰国し、ブラジル人が多く暮らす山梨県甲府市で事業を始めました。
ビアンカさんとの出会い
現在の保育園事業を始めるきっかけとなったのは、6,7年前にブラジル料理店で働いていた元山ビアンカさんと出会ったことです。彼女に今後やりたいことを聞くと、自身の経験を生かしてブラジル人の子どもたちが日本語に苦労しないために日本語教室をやりたいと言いました。そこで、山梨県から委託を受けて外国人の継続就労に結びつける事業として日本語教室を開催しました。そこから子育て支援として保育園を設置することになり、まず認可外保育園を設立し、2年後に小規模保育園C型(0~2歳児、定員9名)へと発展させ、市からの認可も受けました。現在、ブラジル、ペルー、ボリビアの3か国の子どもたち9名が通っています。近隣市町には通訳のいる保育園がないので、当園のある中央市以外からの入園希望者も受け入れています。また、保育者は日本人が2名、外国人の子育て支援員3名と給食担当が1名います。現場の様子については、写真や動画などをホームページに掲載していますのでご覧ください。
多文化保育のポイント
子どもたちの中には、言葉が通じないことで保育園や幼稚園で孤立してしまう子もいます。中にはそこからいじめに発展してしまうこともあります。ビアンカさんは、自身がそうした辛い経験をしたことから、同じ思いをさせたくないと、子どもたちの母語と日本語の両方が育つように関わってくれています。最初はポルトガル語だけでやりとりしていた子も、少しずつ日本語を覚えていき、簡単な挨拶や返事ができるようになっていきます。また、給食でも少しずつ日本食が食べられるようにしています。
保護者へのケアも重要です。毎月5、6家族がブラジルから来ますが、来日前にも当園に問い合わせがあります。保護者への連絡帳も、日本語がわからない人には最初はポルトガル語やスペイン語で書きますが、少しずつ日本語(最初はローマ字)で書くことを増やしていきます。給食のメニューも日本語・ポルトガル語・英語で書いたものを保護者に配っています。また、子どもが病気になったときは、必要に応じて保護者が仕事を休まなくてもすむように職員が病院に連れて行くこともあります。そうすることで保護者が安心して日本での生活を送る手助けになります。
この保育園は2歳までなので、3歳からは他の保育園や幼稚園に行くことになります。ただ、それまでに必要な日本語や保育園・幼稚園での生活知識を得ているので、とてもスムーズに移行することができています。それでも日本の保育園に通わせることへの不安を抱える保護者はいますが、お子さんたちは今のところ楽しくやっているとの報告を受けています。
取組紹介3
◇多言語・多文化介護の実践から
呼和德力根(フフデルゲル)氏 (特活)神戸定住外国人支援センターゼネラルマネージャー
来日からKFCへ
私は中国の内モンゴル自治区、バーリン生まれです。名前は"当て字"の漢字を使っていますが、大学を卒業するまでモンゴル文字で勉強していました。2005年に来日し、日本語学校を経て大学院に進学、2010年の卒業後にNPO法人神戸定住外国人支援センター(KFC)で働き始めました。入職当初は子ども支援と日本語学習支援のコーディネーター等をしていましたが、現在は外国人高齢者支援を担当しています。
「ハナの会」の取り組み
KFCが運営する「ハナの会」は1999年からのに開設され、主に在日コリアンなど同胞コミュニティが月に1回集まって、一緒にご飯を作って食べたりおしゃべりしたりするのが始まりでした。その後、2005年にデイサービスとしての介護事業がスタートし、遠方への送迎も始めました。そして2009年から現在の「ハナ介護サービス」となりました。デイサービスに加えて戸別訪問やケアマネジメントも行うようになり「ハナ介護サービス」も始めました。私が入職した2010年からは、在日コリアンだけでなく、中国帰国者やインドシナ難民であるベトナム人の利用者も増えてきました。彼らがそれぞれに、自分の言語で楽しめる"居場所"となっています。ハナでは、お祭りなどのイベントをしたり、踊りを踊ったり、中には日本語を勉強したいというお年寄りもいます。
2012年にはグループホームも開設しています。その一角にある、2013年に開設した小規模多機能型居宅介護ハナの当初の利用者のほとんどは中国残留邦人だった方です。現在デイサービスセンターハナの会は木曜日にベトナム人高齢者のデイサービスとして、ベトナムの遊びや料理をして楽しまれています。これらは在日コリアンの方々への支援事業の延長線上に生まれた活動です。
多文化介護のポイント
当会での活動を通じて学んだ外国人高齢者のケアの事例をいくつかご紹介します。
【事例1】ある高齢者が、お茶の葉っぱを直接湯呑みに入れ、お湯を注いで飲んでいるのを見て、日本人ケアマネージャーが、この方は認知症ではないかと思いました。この高齢者は中国出身で、中国の地域によってはこうした飲み方が一般的なのです。日本と中国のお茶の入れ方の違いにおける知識がないために起こった"勘違い"でした。
【事例2】ある中国人高齢者を送迎していたときのことです。私は中国語ができるのでいろいろと話しかけていくと、いろんな話をしてくれました。その中で、「できれば背中を洗ってほしい」ということを、日本人スタッフに日本語で伝えることができない、気を使うので今まで言えなかった、と話してくれました。単に日本語力の問題だけでなく、相談や要望が言いやすい環境が大切だと思いました。もちろん、現場に言葉や文化的な理解ができる人材も必要です。利用者本人だけでなく、その家族とのコミュニケーションも重要です。
【事例3】多国籍の利用者の中には、戦争中は敵国だったという場合もあります。そういう方々が同じ部屋で一緒に過ごすのは難しいこともあるので、その対応には配慮が必要になります。
*他にも多くの事例をご紹介いただきましたが、紙幅の関係上割愛させていただきます。
外国人高齢者は、1世に比べると2世のほうが多様です。例えば、1世は言葉が通じて自国の文化や食事ができると大体楽しんでくれますが、2世はそれだけではダメなので、もっといろいろ考えないといけません。まだ3世の高齢者はいませんが、世代を重ねるごとに多様化すると思います。今後、永住者資格を持つ人たちの高齢化が進むので、それに対応できる体制や各種制度の整備が必要になってきます。マスメディアの力も借りて、この認識を広めることも大切です。高齢者とのコミュニケーションを通じて、「何がしたいのか」だけでなく、「なぜそれをしたいのか」を理解できる多文化に通じた支援者の育成が必要だと思います。
◇パネルディスカッション
はじめに、前半の事例報告に何か補足したいことがあればお願いします。
●各務氏
先にご紹介した「外国人高齢者と介護の橋渡しプロジェクト」のおかげで、介護通訳者の通訳者養成の方法や課題を少しずつ理解しているところです。母国で経験した味覚や遊びが年をとるごとに出現してくるので、日本人と同じ介護では外国人のニーズに合わないのだと。言葉の問題として、在日コリアンの方は普段は第二言語としての日本語でコミュニケーションがとれていても、認知症が進むと日本語を失っていくと聞きます。現場の介護者の方とコミュニケーションをとることが大変になってくるという課題を認識しています。また、母国の文化は国によって様々なので、どのようなサービスが必要なのが、行政として何ができるのかは今のところ分からないので、今後課題を明確化させていかないといけないと思っています。
また現在、医療通訳者へは2時間3千円という謝金を払っていますが、実際は現場で拘束時間が延びることもあるので、約束の時間の中で業務が終わらなかったという声も聞いています。これが介護の現場になれば、さらに複雑な事情等に合わせて拘束時間等がケースバイケースになってくるのではないかと思います。通訳の相手方も、ご本人・家族・ケースワーカー・施設の担当者・行政等と幅が広がっていくことから、今の医療通訳システムの枠組みの中にそのまま取り入れられるとは思えないので、もっといろいろと考えなければいけないと思っています。
さらに、警察、行政、医療と様々な場面で困っている人がいるという事から、医療通訳という特定の通訳だけでは足りません。もっと広く「コミュニティ通訳」という視点も必要だと思いますが、そうした人材をどう養成していくか、どういう専門性を身につけていただくのかというのが大きな課題だと思っています。
●加藤氏
ビアンカさんは現在27歳。日本語教室では通訳を、その後、認可外保育園で2年経験を積んでいました。2015年に政府が子育て支援制度を発表し、小規模保育園にも認可を与えますということになりました。そのとき既に職員体制を作っていましたが、その年は子育て支援員の研修はできませんでした。翌年、県の担当に交渉しましたが、実現には至りませんでした。国がやると言ったことを地方で実現しようと思うと、2年遅れるのだということを経験しました。
ようやく開催できた子育て支援員研修は、今年で4年目になります。毎年県内で50名が受講します。2019年4月から、ビアンカさんに施設長をお願いし、現場は全て彼女に任せています。今では、パソコンは私以上に上手で、エクセルでの資料作りから何でもやれるようになりました。 これからの思いとして、ビアンカさん自身は保育士になりたいと言っているが、私は経営者にもなってほしいと思っています。
●フフデルゲル氏
ある華僑の高齢者は、死ぬときは自分の家で死にたいと言い、デイサービスを受けています。一方で、韓国に帰りたいのに韓国にいる娘さんが面倒を見られないので帰れなかった人もいます。また、2歳で日本に来た在日コリアンの方ですが、阪神淡路大震災で家がつぶれ、再建をして今は年金をもらっています。80歳を過ぎてから国籍も日本に変えました。デイサービスの場所も転々としています。ハナのデイサービスからすぐ他に移っていきますが、時をおいてから必ず戻ってきていますので、「ハナ」がその人の居場所になればいいと思っています。
私も日本国籍を取ろうと思いましたが、母に永住者のままがいいのではと言われ、国籍は中国籍のまま日本に永住にしています。いずれ自分も目の前の高齢者と同じ立場になるので、高齢になった時、自分も帰れる場所があったほうがいいと思うし、どの高齢者にもそういう場所があればいいなと思います。
今後の愛知県での多文化保育・多文化介護を考えるにあたり、各務さんから加藤さん・フフデルゲルさんにお聞きになりたいことがあればお願いします。
●各務氏
保育園を立ち上げ、国籍を問わず受け入れて運営をされていることについて、山梨県の子育て支援担当の方以外に、国際交流や他の部署の方とどのような交流がありますか。そうした方々に何か求めるものはありますか?
●加藤氏
認可保育園事業については、国際課は担当ではないので、直接的な関わりはありません。基本的には子育て支援担当だけですね。
●各務氏
多国籍の外国人高齢者を受け入れていらっしゃいますが、高齢になると「母語返り」など様々なことが起こる中、どのようなことに気をつけていますか?
●フフデルゲル氏
国籍によって空間を分けるのが理想かと思い、木曜日はベトナム人のデイサービスにしています。同じ曜日にすると、ベトナム人が韓国人にいじめられることもあります。施設のマネージャーや責任者が弱い人を中心に考えてあげて、他の人の輪に入れるようにしてあげています。ある国の料理が食べられない人には、我慢して食べてもらうのではなく、その人の食べられる料理を提供するようにしています。
それでは、会場(参加者)からのご質問にお答えいただきたいと思います。まず、子育て支援について各務さんへのご質問です。「『多文化子育てサロン』の参加者の反応や事業の課題について教えてください。」また、「子育て支援担当の部署とも連携されているのでしょうか?」
●各務氏
県は市町村と一緒にやっています。委託事業として、地域で日本語教育をやっているNPOや国際交流協会に県がお金を出してやっていただいていることもあります。また、子育て支援課、児童家庭課、保育所、保健所など、役所のつながりで各担当課の方との橋渡しをしています。そうした受託事業者や担当セクションとは事前に必ず打ち合わせをします。具体的にどういう協力ができるかを確認します。こうしたネットワークを組んでやっているので、県が公募をかけた時には心配なく申し込んでください。
事業の参加者の反応ですが、だんだんと参加する親子が固定化してきています。いろいろな団体とコラボレーションをして、ダンスや演劇を取り入れながら、多様な人とマッチングしていくようにしています。「食」というお楽しみも取り入れています。
事業の課題は、サロンにもっと多くの外国人親子に来ていただくようにすることです。なかなか安定した数に来ていただけません。広報もがんばっていますが、どう周知するかが課題です。SNSやホームページは使っていますが、それよりも地域の人たちの口コミで広がっていきます。各地の県営住宅等を回って事業をしていますので、その地域の方が声をかけてくれて集まってくださっているのはありがたいと思っています。
加藤さんへ、「保育園について、外国人への周知で工夫されていることはありますか?」
●加藤氏
保育園だけでなく、いろいろな事業を通じてつながりを持つようにしています。例えば以前、「(日本語を)話す事はできるけど、読み書きができない」という人が多かったので、漢字の勉強会を行ったところ、1,2人で始めたのが40人にまで広がりました。市民団体も作って会員が200人になりました。そうして、今は3世代のブラジル人の人たちとつながっています。
子育て支援員には、学歴や日本語能力は問われません。申請すれば8回の研修が受けられます。そうして、若い人たちにもう一つの職の選択ができます。保育園で学び、子育て支援員として働き、親になって子育てをする、という流れが生まれるといいなと思います。
次に高齢者支援について、各務さんへのご質問です。「介護事業者や企業との連携等は考えていらっしゃいますか?」
●各務氏
来年度、プロジェクトチームを立ち上げていきたいと考えています。民生委員さんや社会福祉協議会さん等と連携をとっていきたいです。いろんな機関とつながって、県がどこまでできるか考えたいと思っています。
フフデルゲルさんに3つ。「外部の機関・団体等と連携をとられていますか?」、また「利用者が多言語・多文化・多民族だからこそ起こるトラブルはありますか?」、そして「介護を必要としていない高齢者への取り組みはありますか?」
●フフデルゲル氏
昨年からベトナム人の利用者が増えてきています。地域包括支援センターとも連携をとっています。もっと横のつながりを作りたいのですが、力不足でできていないところもあります。介護保険制度の中でしなといけないことと、ボランティアでやらないといけないことがあるので、自分たちだけではできないことは行政にもがんばっていただきたいと思います。
灘区や東灘区は英語圏、中央区はインド人が多いです。そのすべてには対応できません。行政には専門家を1人か2人置いて、高齢者認知症チームのようなものを作ってほしいと思います。広報では、韓国コミュニティにはチラシを配ったりしていますが、地域の方々が困って連絡が来る場合もあります。地域から警察、警察から区役所、神戸市の施設から脱走した人が回り回ってウチに来ることが多いです。
多国籍化が進むと、デイサービスでは大丈夫ですが、遠足では決めていた事がどんどん変わっていって予定通りいかなくなるなど、大変なこともあります。いつも、スタッフで昼ご飯の後に5分間のミーティングをして対応を検討しています。
施設の利用者でない方については、現在は中国在残留邦人に限りますが、週一回そのうち月に1回集住団地で交流会をしています。そこに自力で来られない方には送迎もしています。
もう一つ各務さんへ。「今日のお話にあった様々な多文化共生施策において、県内市町村との連携や役割分担について教えてください。」
●各務氏
市町村役場の人や地域の人とよく話をしています。地域の方は市町村役場を頼りにしているので、主役である市町村とは違った立場からアドバイスをするなど、一緒に考えることが大事だと思っています。
最後に、今後に向けてみなさんから一言ずつお願いします。
●フフデルゲル氏
愛知県でも今後さらに、子どもや高齢者をテーマ・対象とした活動をしていっていただけるといいなと思います。人数的にも多い労働者のことを中心に考えるのは分かりますが、日本に来た外国人も年をとっていくので、退職後のこともしっかり考えていただきたいと思います。
●加藤氏
今後ますます多様性への理解が求められる中で、共生、包摂、思いやり、エンパシー(共感)、他人の感情を理解する能力、特に子どもたちの気持ちや考えに共感していかないといけないと思います。これからの「多文化」は、外国人だけでなく、世代の違いも含めて、いろいろな子どもの背景を考えて対応していく必要があります。量より質を考えていきたいです。個人的には、乳幼児は行政の手が届かない部分が多いので、そこをやっていきたいです。0~2歳にしっかり目を向けつつ、後継者も育てていきたい。 それに向けて、ある程度の道筋はできています。
●各務氏
プランに掲げた170の事業があります。行政としてすぐにはできないこともありますが、スタッフ全員が熱意を持ってやっています。報道などで外国人の孤独死や技能実習生の方の辛い状況を見聞きすると、なんとかしないといけないと思います。
本日はありがとうございました。