令和8年度 国際協力推進セミナーを開催しました(オンライン)
国際協力推進セミナー
2026.09.16
令和8年度国際協力推進セミナー 報告書
国際協力の始め方ー地域活性化につながる実践事例からー
◆報告書のダウンロードはこちら
主 催:一般財団法人自治体国際化協会 市民国際プラザ
日 時:令和8年7月29日(水)14時00分~16時00分
形 式:ZOOMウェビナー
参加者:175名(自治体、地域国際化協会、NGO/NPO等)
<プログラム>
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14:00-14:05 |
挨拶・主旨説明 一般財団法人 自治体国際化協会 交流支援部長 滝 仁和 |
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14:05-14:35 |
話題提供「地方創生から考える国際協力の始め方」 |
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事例紹介1 |
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事例紹介2 |
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15:25-15:52 |
質疑応答 |
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国際協力促進事業(モデル事業)の概要説明 |
1.話題提供
話題提供「地域発の国際協力の意義」JICAブータン事務所長 木全洋一郎氏
私はこれまでJICAの職員として海外勤務を重ねる一方、北海道での勤務や東日本大震災後の岩手県陸前高田市役所への出向などを通じ、日本の地方行政や商工労働の現場に深く携わってきました。そうした経験を経て、現在赴任しているブータンから、地方創生と国際協力を結びつける新しいアプローチについてお話しさせていただきます。
近年、政府開発援助(ODA)を取り巻く環境は大きく変化しています。2023年の開発協力大綱の改訂においても打ち出された通り、途上国でも少子高齢化や過疎化、気候変動の影響といった複雑な課題が生じており、従来の「日本の優れた技術を一方的に伝える(技術移転)」やり方だけでは対応しきれません。現在は、大綱の理念にもあるように、自治体や企業、NPOなどの多様な主体が対等なパートナーとして参画し、共に解決策を創出する「共創」へとシフトしています。さらに、現地での協働を通じて得た学びや地域資源の魅力を日本の地域課題解決に還元し、その成果を改めて途上国協力に活かす「環流」の視点も、極めて重要になってきています。従来の国際協力が「相手の課題解決」から出発するのに対し、地方創生は「現場が持つ価値や可能性や夢」を出発点とします。私は、これからの国際協力にもこの地方創生的な発想を取り入れていくべきだと考えています。
私がJICA北海道時代に関わった事例として、士幌町とキルギスの取り組みがあります。両地域の特産品である「シーベリー」を活かし、地元の士幌農業高校の高校生とキルギスの学生が共同で商品開発を行いました。これは単なる文化交流にとどまらず、本気の商品開発を通じた実践教育及び若者の地域おこし参画としての交流となり、現在は双方において商品化の話が進み、それを踏まえた更なる協力・交流へと深化しています。また釧路市では、子育て世代や町内会を巻き込み、「世界のパパママ交流会」や防災セミナーを開催するなど、住民レベルでの地に足のついた多文化共生のまちづくりが進んでいます。
現在私がいるブータンは、「国民総幸福(GNH)」で知られる一方で、若者の高い失業率や都市・海外への人材流出といった深刻な過疎・縮小社会の課題に直面しています。市場や労働力が限定される中で、小ロットでもストーリーや付加価値を高めて持続可能な開発を目指す姿勢は、日本の地方創生と非常に親和性があります。実際にブータンでは、島根県海士町の「地域探究学習」の知見を取り入れた学校魅力化の取り組みや、香川県の企業・大学と連携した遠隔周産期医療協力が進んでいます。遠隔周産期医療の事例では、ブータンで蓄積されたデータを活かしてAI機能を実装した機器を開発し、それを将来的に日本でのビジネス展開に還元する動きも生まれつつあります。
途上国と先進国の境なく、グローバルな地球規模で共有する課題が増えている今、国際協力はもはや単なる「海外支援」ではありません。自地域の強みや価値をグローバルな視点で捉え直し、途上国と共に未来の解決策を創り出していく取り組みです。ぜひ皆様の地域の魅力を再発見し、活性化させるためのひとつの「手段」として、国際協力や国際交流を活用していただければ幸いです。
2.事例紹介
●地域活性化に向けた教育魅力化―海士町とブータンにおける地域課題解決型学習(PBL for GNH)の展開
海士町役場郷づくり特命担当 グローカルコーディネーター 河添靖宏氏
私はJICAからの出向者として海士町役場に赴任し、行政実務や国際協力のほか、空き家の活用や伝統船の運用など多様な地域づくりに携わっています。隠岐諸島に位置する海士町は、古くから人や文化を受け入れてきた歴史を持つ一方、古くから配流の地や北前船の寄港地として多様な人や文化を受け入れてきた歴史を持つ一方、急激な少子高齢化や財政難といった典型的な課題を抱えてきました。この危機に対し、町では「ないものはない(不便さは工夫と豊かな資源で補う)」をスローガンに掲げ、独自の産業創出や外からの人材を活かしたまちづくりを推進してきました。特に力を注いできたのが「教育の魅力化」と「若者に選ばれる仕組みづくり」です。廃校の危機にあった島唯一の高校を存続させるため、企業出身のキーパーソンらと共に「この島でしかできない教育」を展開しました。また、「大人の島留学」などを通じて20代の若者を引きつけ、定住のみにこだわらず人が循環・活躍する「還流」の地域経営を行っています。この「魅力ある人づくり」の一環として、海士町は古くから海外からの研修生受入やJICAとの連携事業を重ねてきました。協力隊派遣前の国内研修(グローカルプログラム)の受け入れなどを通じ、地域住民や子どもたち、留学生が日常的に交流する「ごちゃ混ぜの学びの場」を創り出しています。
海士町役場/JICA草の根技術協力支援事業 プロジェクトディレクター 江森真矢子氏
教育現場に長年携わってきた私は、海士町の地域課題解決型学習(PBL)をブータンへ展開する草の根技術協力事業に参画しています。海士町の隠岐島前高校では、「島丸ごとキャンパス」として地元の課題(未利用魚の活用、高齢者向けスマホ講座など)解決に挑戦する教育を行っており、その舞台を世界へ広げるため、ブータンとの交流が始まりました。海士町とブータンには「持続可能なコミュニティの模索」「国民総幸福(GNH)や持続可能性を重視する価値観」という共通のテーマが存在します。プロジェクトでは、ブータンの高校生たちも特産品のジャガイモを活用したレシピ開発やエコツーリズム、プラスチックゴミ削減といった身近な課題解決に取り組み始めています。海士町の高校生も現地へ赴き、自らの学びを発表するだけでなく、ブータンの生徒たちが地元の商店と協力してゴミ削減に取り組む姿勢からヒントを得て、島での海洋ゴミ啓発活動に活かすといった「双方の学び合い(還流)」が生まれています。最初は「高校生の視野を広げたい」という想いから始まった渡航が、ブータン教育省との連携やJICAの支援へと発展し、今では高校生自身が地域や国際交流を牽引する主体・パートナーとして重要な役割を果たしています。
河添靖宏氏
こうした取り組みを通じて国際交流を重ねてきた結果、海外から訪れる研修生を高校生が案内し、高校生が現地を訪れた際には温かく迎え入れられるという、深いつながりが生まれ、国際的な関係人口の形成につながっています。経済的な規模のみを追うグローバルな価値観に対し、海士町やブータンが大切にしているのは、自然や地域コミュニティを重視するローカルな価値観です。経済規模や所得水準だけでは測ることのできない価値があり、SDGsや持続可能な社会という観点においては、私たちが実践してきたローカルな魅力づくりこそが最先端のモデルとなり得ると確信しています。国際協力は単なる海外支援ではなく、グローカル人材の育成、地元の価値の再発見、そして新たな担い手の育成や関係人口の形成・拡大につながるものです。私たちは今後も、多様な世代や海外人材が集う拠点を形成しながら、地球規模の視野で地域を盛り上げる挑戦を続けていきます。
●中山間地域農業の課題解決への挑戦―ネパールとの人材還流を通じた神石高原町での試み
神石高原町役場 政策企画課 政策企画係 係長 中野妙子氏
神石高原町は広島県東部の中山間地域に位置する人口約7,500人の小さな町です。外国人の割合は全人口の約2%(約160人)ですが、この10年で2倍に増加しています。標高400〜700mの恵まれた環境を活かした「神石牛」や「まる豊とまと」などの農産物が好評を博す一方、過疎化と高齢化の進行は深刻です。高齢化率は50%を超え、基幹的農業従事者の平均年齢も66.6歳に達しており、後継者不足や荒廃農地の増加という構造的な課題に直面しています。こうした課題に対し、自治体単独では対応が難しい中、2013年に国際NGOピースウィンズ・ジャパン(以下PWJ)が本部を東京から当町へ移転したことをきっかけに、国際協力の取り組みが始まりました。2015年のネパール大地震以降、PWJが現地で直面した「農村部の担い手不足や厳しい生活環境」という課題が、神石高原町の抱える課題と酷似していることが判明しました。ここから、同じ課題を抱える地域同士が支え合う「人材還流」の仕組みが始動しました。ネパールの農業人材が当町で技能を修得して地域農業を支え、学んだ技術を母国へ持ち帰って現地の自律的な営農体系の構築に役立てるというものです。この取り組みは単なる労働力供給ではなく対等なパートナーシップを目指すものであり、まだ草の根レベルではありますが、労働力不足の緩和や異文化交流による住民意識の変化といった確かな芽が育ち始めています。
特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン 国内事業部 コーディネーター 竹中奈津子氏
私はピースウィンズ・ジャパンに所属し、難民支援や災害支援を経て、現在は国内事業およびネパールと神石高原町をつなぐ地域活性化事業に携わっています。ネパールは人口の約6割が農業に従事しているものの、生産性が低いために稼ぐことが難しく、出稼ぎや農村部からの人口流出が深刻な問題となっています。PWJは2015年の大地震における緊急支援・捜索救助から現地に入り、復興期には現金収入を得られる農業支援へと移行しました。その一環として、現地の農家を神石高原町に招き、栽培技術や直売所(道の駅)を通じた自社販売の手法などを学んでもらう研修を継続してきました。神石高原町も2050年には人口が約3,800人にまで減少し、高齢化率が50%を超える見通しとなっており、地域コミュニティの維持が限界に達しつつある状況です。このように共通の課題を抱える両地域を結ぶため、クレアの助成制度も活用しながら「人材還流事業」を本格化させています。
具体例として、ネパールのパートナーNPOで農業指導をしていたヘマントさん(32歳)は、特定技能1号を取得して来日し、現在は町内の畜産関連企業で堆肥作りなどに従事しています。彼は仕事に励むだけでなく、地域の自治会や祭り、飲み会にも積極的に参加し、単なる労働者を超えて地域コミュニティの一員として馴染んでいます。将来は特定技能2号を取得し、家族を呼び寄せて自らの農業ビジネスを立ち上げるという夢を持って活動しています。現在町では、広島県内一の生産量を誇り成長を続ける「トマト栽培」の担い手として、ネパールから新たな農業人材を受け入れる準備を進めています。
外国人材の受け入れには、ビザ取得手続きや登録支援機関への費用負担、言語や文化・宗教への配慮など、日本人を雇用する以上のコストや労力が伴います。しかし、中山間地域で若者の農業の担い手を確保することが極めて難しい現状において、これは切実かつ必要な選択です。それ以上に重要なのは、国や家族を離れて懸命に働く彼らの姿勢が地域住民に強い共感を与え、「この町も諦めずに頑張ろう」という活気や夢をもたらしている点です。PWJは自ら資金や雇用を直接提供するのではなく、行政、農業生産者、現地のNPO、登録支援機関といった多様なアクターをつなぐ「ハブ」として機能しています。神石高原町とネパールが互いに学び合い、人材が循環する環境をつくることで、双方の持続可能な農業経営と地域活性化に寄与してまいりたいと考えています。
3. 質疑応答
(A) 国際協力を始めたきっかけとマッチングの方法
- 神石高原町
- 背景・きっかけ: 自治体単独では海外と接する機会が少ない中、2013年に国際NGOピースウィンズ・ジャパン(PWJ)の本部が町へ移転してきたことが直接の出会いとなりました。
- マッチング: PWJが海外の緊急支援活動から現地の根本課題(農村の過疎化・高齢化・若者流出)に向き合う中で、その課題が神石高原町の抱える農業の担い手不足と酷似していることに気づき、双方の課題解決を図る「人材還流」へと発展しました。
- 海士町
- きっかけ: キーパーソン(教育魅力化の推進者)の個人的な体験や、ふるさと納税寄付者とのつながりといった「人の縁」が出発点となりました。
- マッチング: 「国民総幸福(GNH)」を掲げるブータンと、海士町が目指す持続可能な地域づくりとの間に「共通の価値観」を見出したことから連携が始まりました。
- 木全氏より
- 自治体や地域国際化協会だけで相手国の課題や共通性を見出すのは難しいため、JICAやNGOなど海外現場を知る外部機関を「ハブ(相談相手)」として活用することがマッチングの鍵となります。
(B) 地域住民の反応・懸念と信頼関係の構築
- 受入に対する意識の変化
- 神石高原町: 当初は高齢の農家が外国人を受け入れることへの不安もありました。しかし、実際に受け入れて共に働く中で、真面目かつ意欲的に働く姿や、地域行事・介護施設等で温かく交流する姿に触れる中で住民の接し方が変わり、親しみや強い共感が生まれました。
- 海士町: 継続的な交流やJICA研修生の受入を重ねる中で、地元の漁師を含む多くの家庭が自発的にホームステイの受入を希望するようになり、地域全体で海外との距離感が縮まりました。
- 信頼構築のポイント(竹中氏・木全氏)
- 「国」や「外国人」という抽象的な枠組みやレッテルで見るのではなく、「目の前のひとりの人間(〇〇さん)」として顔の見える付き合いを重ねることが偏見をなくす大切な要素だと思います
- 若者・高校生への教育的効果(江森氏)
- 海外に直接の友人ができる体験を通じ、大人が意図した枠を超えて生徒自らが世界の見方や日本との関係性を捉え直す大きな成長、視野の広がりにつながっていると思います。
(C) 「国内自治体間交流」と「海外交流」の違い
- 多様性と新たな視点の獲得(海士町・河添氏)
- 国内交流は共通言語で学び合える利点がある一方、海外交流は「異なった価値観」や「究極の多様性」に触れる機会となります。こうした世界との接点は、地域を牽引する「グローカル人材」を育てる上で非常に貴重な要素となります。
- 自地域の価値再発見と関係人口(神石高原町・中野氏)
- グローバルな視点を取り入れることで、当たり前だと思っていた地元の資源や農産物の価値を再発見・高めることができます。また、単なる労働力不足の解消にとどまらず、国際的な関係人口の創出・拡大につながります。
(D) 事業の持続性と費用・財源の確保
- 外部資金や助成金の積極活用(海士町・神石高原町)
- 海外との交流には費用がかかるため、JICAやクレアの資金活用、万博基金などを柔軟に獲得・活用していく営業力や知恵が自治体側に求められます。また、助成金終了後を見据え、ふるさと納税などの自主財源の活用も検討課題となります。
- 自立的な仕組みづくり(PWJ・竹中氏)
- 資金支援に頼り続けるのではなく、ネパールの農業人材が直接地域で働いて対価を得て、技術を持ち帰る「人材還流」のように、外部の支援団体が離れても現場で自律的に回り続ける持続可能なモデルを構築することが重要です。
4.国際協力促進事業(モデル事業)の概要説明
最後に、(一財)自治体国際化協会 交流支援部交流親善課より自治体国際協力促進事業について説明が行われた。