令和5年度 国際協力推進セミナーを開催しました(オンライン)

令和5年度 国際協力推進セミナーを開催しました(オンライン)

令和5年度国際協力推進セミナー 報告書
世界とつながる地方自治体 ~行政×NGO/NPO等の協働による国際協力の可能性~

◆報告書のダウンロードはこちら

主 催:一般財団法人自治体国際化協会 市民国際プラザ

日 時:令和5年9月7日(木)1330分~1530

形 式:ZOOMウェビナー

参加者:約136(自治体、地域国際化協会、NGONPOJICA、大学教員、学生、企業等) 

<プログラム>

13:30-13:35


挨拶・主旨説明  一般財団法人 自治体国際化協会 
交流支援部長 田中 深図穂

13:35-13:56

話題提供「地域発! 市民参加の国際協力の意義」
認定NPO法人テラ・ルネッサンス創設者・理事 鬼丸昌也氏


13:57-14:12

自治体国際協力促進事業(モデル事業) 事例紹介
県内留学生の地方定着事業 
新潟県産業労働部産業政策課国際経済グループ 主査 小林遼氏



14:13-14:27

自治体国際協力促進事業(モデル事業) 事例紹介
NGO
との協働による国際協力活動と松山市の ESD/SDGs推進事業
愛媛県松山市産業経済部観光・国際交流課 主査 青野寛子氏
NPO法人えひめグローバルネットワーク 代表理事 竹内よし子氏



14:28-14:44

自治体国際協力促進事業(モデル事業) 事例紹介3
モルディブ共和国ラシドゥ島におけるブルーエコノミーを中心とした観光開発支援事業
沖縄県読谷村 大城愛士氏
NPO法人レキオウィングス 副理事長 串間武志氏


14:45-15:05

質疑応答


15:05:15:09

総括 認定NPO法人テラ・ルネッサンス創設者・理事 鬼丸昌也氏



15:10-15:27

国際協力促進事業(モデル事業)の概要説明とQ&A
一般財団法人 自治体国際化協会 
交流支援部 経済交流課 主査 小林直子



1.話題提供
◇「地域発! 市民参加の国際協力の意義」

認定NPO法人テラ・ルネッサンス 創設者・理事 鬼丸 昌也 氏

鬼丸氏.png

 国際協力についてJICAの定義に「世界中のすべての人々がより良く生きられる未来を目指し、人類共通の課題に取り組むこと」とあるが、国際協力とは弱さや苦しみを抱えた人々に一方的に施すことでは無く、相互学習、相互理解、相互支援の中で、共によりよい地域、コミュニティをつくることだと考えている。 

 テラ・ルネッサンスはカンボジアの地雷除去支援活動からスタートし、現在は9か国で主に紛争によって被害を受けた人々の自立支援を行っている。団体のミッションである「世界平和の実現=すべての生命が安心して生活できる社会の実現」のために、2021年からは新たに平和の担い手を育むグローバル人財の育成も開始した。佐賀県の私立東明館学園および公立中学校2校と連携し、問題解決型学習の手法を用いた事業を展開している。具体的には、生徒たちがカンボジアやウガンダにおける課題や、課題を生み出す構造について調べた後、課題解決のためのプロジェクトを立案し、そのプロジェクトをテラ・ルネッサンスが現地で実行する。プロジェクトの成果を高校生にフィードバックし、社会課題解決の難しさ、国境を越えて共に取り組む喜びなどを体験体感してもらい、主体的に問題解決のできる人材として成長するための基礎づくりを目的としている。実際のプロジェクトでは、高校生たちが主体性を発揮し、自ら家族や周囲の方々の協力を仰ぎ渡航費用を集め、当初計画には無かったウガンダ渡航を実現、プロジェクトに携わるという事例もあった。参加生徒からは「当初は国際協力を義務感から行っていたが、今その理由を尋ねられたら家族だからと答える。困っていれば支援するのが当たり前という気持ちに変化し、他の身近な社会課題についても同様に考えるようになった」という感想が寄せられた。また、この人財育成事業はユネスコ日本ESD賞を受賞するなどの評価も受けている。本事業は佐賀県の施策に支えられているところも大きく、NPO誘致によりテラ・ルネッサンスは佐賀に事務所を設置し、ふるさと納税、企業版ふるさと納税も資金源としている。

 テラ・ルネッサンスで国際協力を行う際に大切にしていることは、地域のニーズを満たすこと、地域にあるものを活かし、伸ばしていき自立と自治を促すという考え方である。岩手県大槌町では12年に渡り復興支援の取り組みも行っている。大槌刺し子という伝統工芸を用いて地域の女性に刺し子を用いた商品を作ってもらい、テラ・ルネッサンスが販売し工賃を支払う仕組みである。制作過程では集中して作業するため癒しの効果も期待している。きっかけは東日本大震災時のウガンダからの支援だった。発災直後、テラ・ルネッサンスが支援したウガンダの人々が日本のための募金活動を行ったという報告と、テラ・ルネッサンスではどのような活動を行うのか問われたことが本取り組みにつながった。

 最後に、地域(市民)参加の国際協力の意義としては、次の三点を挙げたい。1相互学習・相互理解・相互支援という、地域開発の基礎を学ぶこと、2国際課題への関心を喚起することで、地域課題への関心も喚起できる、3「多文化共生」社会を創造するために、異文化理解は重要である。尊敬する宮崎県綾町元町長郷田實氏は、まちづくりにおいて「自治の心を取り戻す」ことの大切さを述べている。そのためには自分の町をよく知る、愛すること、同時に他角度で理知的に知ること、これから何が求められようとしているかを考える、提案を恐れずにやること。この3つは国際協力を通じて学び体験することができる。地域の内に自治の心を育むことができるとこれまでの経験から確信している。これから紹介する3つの事例も正にこれを象徴していると思う。

2.自治体国際協力促進事業(モデル事業)
事例紹介1
県内留学生の地方定着事業

新潟県産業労働部産業政策課国際経済グループ 主査 小林遼氏

小林氏.png

 新潟県は人口が全国15位、面積 12,584(202010)5位、県内総生産(2017年度) 89,944億円 16位、産業の強みは米を始めとする農業県、製造業も盛んである。令和4年度の外国人労働者は10,705人、14年前の約3倍、事業所数も増えている。国籍別には上位からベトナム、中国、フィリピン、業種別には製造業、卸売業・小売業、他に分類されないサービス業となっている。

 令和4年度自治体国際協力促進事業に採択され、留学生の県内定着支援に取り組んだ。2018年に外国人材受入サポートセンターを開設したが、留学生が増加しているものの県内で就労する留学生が少ない、県内大学の中に、留学生の就職支援に困っている大学がある、県内企業と外国人のマッチングの機会が少ないといった課題があった。そこで、留学生と外国人材の受入れに関心のある企業のマッチングを支援し、留学生の県内定着を進めることとした。事業内容としては、合同企業説明会として、県内企業と外国人留学生(大学4年生等)のマッチング支援イベント、外国人留学生(大学1~3年生等)対象の企業訪問バスツアー、外国人留学生(大学1~3年生等)対象の業界説明会を行った。 

 長岡市、三条市とはそれぞれ意見交換を行い、共通の課題があったことから連携することとなった。長岡市とは合同企業説明会、企業訪問バスツアーを実施した。長岡市内の大学及び企業の募集案内は、長岡市が担当し、長岡市外の大学、企業の募集案内は、県が取りまとめた。会場は、長岡市が提供、設営準備は県が主担当となり準備した。開催地の自治体と協働することにより、開催地の企業、学生に多く参加いただき、留学生の就職にも繋がった。三条市とは企業訪問バスツアーを行った。企業の募集案内は、三条市が担当し大学の募集案内は、県が担当した。 地元企業に詳しい三条市と協働することにより、目的に沿った企業を選定でき 留学生にとって満足度の高いイベントとなった。 三条市のほか、公益財団法人やJETRO、商工団体にも協力いただいた。

 実績としては、合同企業説明会の参加企業は15社、参加者39名。配慮した点は、スタッフから留学生に声を掛け、希望職種・興味のある企業等を聞き取り、該当する企業ブースへ留学生を誘導したこと、留学生に対し伝わりやすい言葉の選択、話の速度、表や図を用いた説明を行った。企業訪問バスツアー参加企業は9社、参加者30名。企業訪問では4名の外国人社員との交流の時間も設け、新潟県で働こうと思ったきっかけ、新潟の住みやすさ等について説明を行った。業界説明会の参加企業は5社、参加者14名。各業界の基本的な情報と①労働者の不足状況、②平均賃金、③求められる人材、④必要となる知識、経験、⑤入社後に求められることを、英語による逐次通訳を行いながら実施した。

 事業成果としては、参加企業のべ29社、参加者のべ83名、うち2名内定、1名インターンシップにつながった。1年間のモデル事業によって、県内の専門学校、大学と関係構築ができ、留学生に広くイベントを周知することができた。また、自治体との協力関係ができたことも大きかった。また、これまで就労のための相談窓口である外国人材受入サポートセンターと、外国人の生活相談を行う外国人相談センターを統合し、新潟県外国人総合相談センターとした(新潟県外国人材受入サポートセンターは東洋ワーク(株)が受託、外国人相談センター新潟は新潟県国際交流協会が受託)。また、従来在留資格の相談のみだったが、選任コーディネーター1名が、採用計画、採用活動、受け入れ準備、育成定着まで伴走支援を行う体制となった。

 今後の展望としては、関係者との情報共有の場(定期的に県と関係者で外国人材に係る情報共有の場の設置、各地域におけるニーズの把握、就職イベントの協働)、モデル企業の活用(外国人材を積極的に活用している企業に協力依頼、モデル企業の取組を横展開の検討)、海外の大学とのマッチングイベント(海外の大学で新潟県のPRイベント(留学、就職)、県内企業とのマッチングイベント、日本語教育をしている海外の大学への視察)。今年ベトナムで日本語を学ぶ学生と交流を行ったが、今後海外大学との連携を行えるとよいと考えている。

連携、協働する上では、課題と目的を共有することが大切だと感じている。

事例紹介2
◇「NGOとの協働による国際協力活動と松山市の ESD/SDGs推進事業」

愛媛県松山市産業経済部観光・国際交流課 主査 青野寛子氏

青野氏.png

 松山市では、NPOや国際交流協会などの実践者が連携して国際協力活動を行い、それを題材としたESDを実施することでSDGsに関する取り組みを促進することを目的に「国際協力・国際理解推進事業」を令和元年度から2ヵ年実施した。NPO/NGOや国際交流協会、大学や学校などの連携、ESD(持続可能な開発のための教育)に取り組むことで国際の視点からSDGsの理解に繋げ、「持続可能なまちづくりの視点を持った人材の育成」を目指すというものである。

 実施にあたって松山市、国際交流協会、NPOや教育関係者による実行委員会を立ち上げ、予算は松山市、国際交流協会、NPO2団体がそれぞれ負担するとともに、自治体国際化協会の「自治体国際協力促進事業(モデル事業)」を活用した。1年目は主に国際協力事業としてフィリピン・ロドリゲス市の障がい者支援活動と、それを題材とした国際交流や国際協力の視点からのESDを実施した。2年目は1年目の活動やこれまでの実績などを基にSDGsの教材冊子を作成した。事業は2ヵ年だが終了した後も教材冊子を活用しながらESDSDGsの取り組みを継続することも目的とした。

 本市では10年前にもえひめグローバルネットワーク(以下EGN)と連携し、ESDに取り組んでいた。EGN2000年から「銃を鍬へ」という平和構築プロジェクトを実施しており、これをきっかけに2008年にはモザンビーク大統領と政府首脳が本市を訪問、愛媛大学とルリオ大学が学術協定を締結し、教員や学生の交流が始まった。これを機に行政や国際交流団体、NPO、教育機関が繋がり、本市でのESDの取り組みの下地が整ったことから、2009年、2010年にモザンビークとの支援事業を題材とした「国際交流・国際協力に基づくESD教材・カリキュラム開発事業」を実施し、当時もクレアのモデル事業に採択いただいた。当時の成果はモデル校としてESDに取り組んだ松山市立新玉小学校が四国初の「ユネスコスクール」承認と、松山国際交流協会に、NPONGOESDコーディネーターとして学校などへ派遣しESDを支援する「ESDコーディネーター派遣事業」が創設され、行政、国際交流団体、NPO/NGO、学校が繋がる仕組みが作られた。この仕組みによりESDが継続的に行われている。

 令和2年度のモデル事業では更にSDGsを加え、国際協力活動を題材として活かすことで、自治体におけるSDGsの導入や推進を図るモデル的事業として展開することも目的とした。ロドリゲス市との国際協力事業はNPO法人Community Lifeが担い、国際理解事業はEGNが担った。また、愛媛大学には「ESDラボ」というESDを展開するための大学と地域、学校現場をつなぐプラットフォーム的機能を持った研究室がある。愛媛大学にも協力を仰ぎ、NPO、大学、小学校等の教育現場と、国際交流協会のそれぞれの既存の活動をSDGsというキーワードで結び付けて、一つの事業として形にした。

 事業の成果としては、ロドリゲス市で障がい者手当制度が開始された。専門家として本市で障がい者の就労支援を行っているNPO法人ぶうしすてむの川崎氏が訪問し、パソコンを使った障がい者の在宅就労についてセミナーを開催した。もう一つ大きな成果として、障がい児のためのデイケア施設を開設する運びとなった。本市を訪れた研修生が福祉施設を見学したことがきっかけとなった。障がい者手当制度は現在も継続、デイケア施設は直後にコロナの流行により頓挫し、現在は再検討中である。

 教材冊子は小学校56年を対象として各分野の専門家や小学校の教員からなる作成委員による執筆は決まっていたが、学校での活用を視野に入れた効果的な教材冊子にするため、内閣府の「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」に民間とのマッチングをリクエストしたところ、㈱学研プラスの協力を得て2020年に完成した。本市の特徴や身近な事例を盛り込むことで、SDGsをより身近なこと、自分ごととして捉えられるように工夫されている。冊子活用の「手引き」も執筆者が作成するとともに、学校現場での活用事例も掲載し、学校現場で先生方が活用しやすい工夫をした。令和3年度からは冊子を活用したSDGs の推進は主に教育委員会において継続されることとなり、市内小学校へ冊子を配布し、希望校で出前授業を行った。また、冊子は小学校高学年対象だったため、低学年用のリーフレットを作成した。

 令和4年度には、SDGsを中心的に推進する教員を対象とした研修や、特色ある学校活動を実施している小学校8校をSDGsアライアンス校と認定し、各校のミッション達成へ導くための松山市SDGs推進コンダクターを派遣した。今年は松山市SDGs推進コンダクターの全校波及を目指している。現在は、教育員会などで、SDGsを推進する事業においてこの冊子を活用し、継続してESD/SDGsに取り組んでいる。この後、この教材冊子の執筆をはじめ、本市のESD/SDGsの取り組みにお力添えをいただいている竹内さんにお話いただく。

NPO法人えひめグローバルネットワーク 代表理事 竹内よし子氏

竹内氏.png

 えひめグローバルネットワーク(以下EGN)は設立から25年、国際・環境・教育事業に取り組んでいる。モットーはThink globally, act locally and change personally。市民の立場で活動しているが、四国地域を対象とする外務省、環境省の委託業務も行っており、市民と行政を繋ぐ中間支援の機能も果たしていることが特徴。活動の軸はモザンビークで、首都のマプトの発展が急速に進む一方で格差が拡大している。EGNでは、内線時代反政府の拠点があったため大きな打撃を受けたシニャングァニーネ村は支援が行き届いておらず、現地のパートナー団体からの要請を受け、2006年から支援を継続してきた。モザンビークを知ったきっかけは、「銃を鍬へ」というプロジェクトだった。現地NGOが平和を取り戻すために自転車やミシンなどと武器を交換するプロジェクトを行っていることを知り、松山市で社会課題となっていた放置自転車問題について働きかけ放置自転車をモザンビークに送りたいと働きかけ、松山市との連携協働のスタートとなった。モザンビークだけでなく、他の国にも放置自転車を送る取り組みを行った。この施策が実現していなければ、EGNの松山市のESDも存在しないと思う。放置自転車は武器回収だけでなく、アーティストの手により、平和を訴える武器アートに繋がった。松山市では、平和の語り部事業を開始し、松山市国際交流協会のESDコーディネーター派遣制度と連動させ、EGNもこの事業の一環として講師派遣を行っている。

 その後クラウドファンディングを活用して、シニャングァニーネ村に公民館を設立した。「ホワイトハウス」と呼ばれ村人たちの尊厳を取り戻す「心の復興」に役立った。武器ゼロの取り組みが終了し「ゴミゼロ」の取り組みに移行している。プラスチックごみをペットボトルに詰めて、建築資材となるエコブリックを作る活動に発展させている。また、小学校の修繕、クリニックの修繕、井戸も整備した。今、力を入れているのは女性の雇用促進でフェアトレードの商品開発も進めている。自治体との連携としてはオリンピックパラリンピックを通じて愛媛県、松山市、新居浜市、新居浜市、伊予市がモザンビークのホストタウンとなったことで学校交流やスポーツ交流が進んだ。

 その後の交流の中心となっているのは、ユネスコスクールに認定された新玉小学校。卒業生がBridge of friendship (Bof)というNGOを立ち上げ、モザンビークとの交流を行っている。国際交流、国際理解を進めることが国際貢献、国際協力に繋がるという長岡市国際交流センター羽賀友信氏の教えを引き継いでいる。その後、NPO法人Community Lifeの参画によりフィリピン支援の活動に繋がり、更には松山市、愛媛県内の多文化共生推進の動きにも発展している。環境省の提唱する地域循環共生圏づくりにもつながると感じている。今後も、連携や協働により変革は可能と考えている。共に頑張りましょう。

事例紹介3
◇「モルディブ共和国ラシドゥ島におけるブルーエコノミーを中心とした観光開発支援事業」

沖縄県読谷村 山内嘉親氏、比嘉将司氏、大城愛士氏

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 本事業の実施の経緯は、今後の村づくりの一環として新たに国際協力を推進することで次世代の若者に向けたグローバルな夢のあるむらづくりを目指す機会になるのではないかと考える中で、沖縄と同様の島嶼地域への国際協力の可能性について検討を進めていたNPO法人レキオウィングスと繋がり、連携に至った。読谷村は、水産業、農業、観光業が特徴的で、人、歴史、文化なども観光の資源として強みとなっている。この本村の強みを活かすことが出来そうな対象としてマッチングしたのがモルディブ共和国であった。モルディブ共和国は、沖縄よりも国土面積が小さく、1,190の島が連なる国で、その中でも今回事前調査を行ったのは、首都マーレから船で約1時間の場所に位置する住民島「ラシドゥ島」である。モルディブ共和国からの要望は、観光産業の復興として住民島でのブルーエコノミー中心とした観光開発支援だった。読谷村ではどのように協力支援が可能か、本村での取り組み、事例などをレキオウィングスと共有し、効果的な国際協力のプロジェクトを策定するために意見交換をした。そして「モルディブ共和国ラシドゥ島におけるブルーエコノミーを中心とした観光開発支援事業」と題してモデル事業に採択を受け、事業を実施した。概要、実施内容は串間氏にお話いただく。

*海洋生態系の健全性を維持しながら、経済成長、生計の向上、雇用のために海洋資源を持続的に利用すること

NPO法人レキオウィングス 副理事長 串間武志氏

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 今回のモデル事業では、モルディブ共和国のアリフアリフ環礁の中の島の一つ、ラシドゥ島を対象に事業を実施するための事前調査を行った。調査の主な目的は、今後の事業化に向けたラシドゥ島の現状把握と関係機関者との顔合わせ、協議・各種調整であり、具体的には、現地調査やアンケート調査、オンラインによるヒアリングや打合せ等、を行った。スケジュールとしては、8月に現地調査、その結果をまとめ、11月に読谷村で帰国報告会を実施した。

 調査対象は、アリフアリフ環礁協議会及びラシドゥ島協議会、島内産業や観光分野、コミュニティ等の関係者、モルディブ国外務省等のステークホルダー。主な調査項目はラシドゥ島の観光や産業の政策、キーパーソンやステークホルダー、コミュニティ、ラシドゥ島協議会や観光施設等の場所、特産品や農産物等、現地で可能な体験などのアクティビティ、読谷村とラシドゥ島のネットワーク形成のためのリソース調査も実施した。調査の中で分かったこととして、隣接する島の多くはリゾート島であり、外資系企業が入り外国人が就労している。モルディブ政府としては、コロナ禍以降観光が回復する中で、レジリエントな観光開発を目指しており、住民島観光の地域として政府が選んだのがラシドゥ島であった。空港のある首都マーレからスピードボートで1時間の距離、人口1200人程度、半径500m、公共交通機関は無い。ラシドゥ島には年間6,000人ほどの観光客が来島、観光客向けのゲストハウスが25軒、レストラン、カフェ、ダイビングショップもあった。島で生産される唯一の土産物は、島の風景が描かれたキャンバスや木製品で、それ以外の土産物は全て輸入品。サメやマンタなど大型海洋生物で有名で、ダイビングも盛んである。漁業はマグロ船があり、マグロやカツオの沿岸漁業とリーフ内の漁業がある。マグロやカツオは加工用だが、近海のリーフ魚は地元で生魚で取り引きされる。沖縄では価値の高い魚も含め、魚種に関わらず1㎏あたり30ルフィア(約2US$)で売られていた。農業については、土地が狭いため農地はなく、家の前や裏庭等で野菜を地植えや鉢植えを行い、それを自給自足、物々交換している。

 課題は、住民の暮らしを守りながらいかに観光開発をするか。石嶺読谷村長の提唱する地産地笑をコンセプトとした観光を推進する体制を提案したが、残念ながらJICA草の根技術協力事業としては採択されなかった。

 今回の事業を実施するにあたり、当初は島における観光開発を推進することを念頭に調査を行ったが、島の素晴らしい自然や住民の自給自足をベースとした暮らしぶりを体感することにより、観光事業との共存について迷いが生じたのも事実である。調査では、気候変動の影響による海岸の浸食など島の深刻な環境問題も把握しており、今後、環境と観光を組み合わせた「環光」の推奨など、いかに島に住む人々の生活と伝統を守りながら、住民の生活向上に寄与する観光を進めていくかが重要であることを実感した。

レキオウィングスは、海外協力隊OBOGが中心に立ち上げ、地球市民を対象に沖縄が有する独自の文化・歴史、亜熱帯性、島嶼性に適合した特色ある技術やノウハウ及び我々の経験やネットワークを生かした国際協力、国際交流、人材育成、地域活性化に貢献することを目的に活動している。強みは、途上国現地の課題を把握し、現地の人の顔が見える関係を築きながら課題解決に取り組んでいること、弱みは脆弱な収益構造。NGOが自治体と連携するには、我々の持つ社会課題解決能力を活かして対象地域の課題の解決、改善を行うこと、その成果を市民、地方議員、自治体にしっかり伝えることが必要と考える。



質疑応答

鬼丸氏:地域に住む外国籍の人とのまちづくりにおいて留意すべき点について、小林さんに伺いたい。

小林氏:個人としての回答になるかと思うが、日本の人から日本のお祭りに誘われて嬉しいが、毎回行きたいわけではないと聞く。それは日本人も同じ。相手の気持ちを大切にすることが大切だと思う。

鬼丸氏:大切な視点。地域社会と外国人の接点を定期的に作り続けることは大切であるものの、お互い人間なので観察をすることも大切。

鬼丸氏:松山市として市民対してどのようなメリットがあると理由付けして取り組みを行っているのか伺いたい。一般的には直接的な効果が明らかではない事業は市民からの反発があるものかと思う。

青野氏:NGONPOや大学との連携と、支援国との関係という意味なのかで迷うところはあるが、団体との連携について反発を受けた記憶はない。竹内氏との小学校での「平和の語り部授業」などはNGO無しには実現できない事業である。国際協力という点では、松山市は観光、インバウンドが主要産業でもある中で外国人の増加が見込まれる。国際協力に取り組むことが、今後外国人が増加する際の摩擦の緩和につながると考えている。

鬼丸氏:市民から見ると疑問があるかもしれないが、事業の目的と意図が市民生活や、自治体経営として必要という視点を持っていること、丁寧に説明することが大切。松山市はEGNとの長年の連携の中で学校現場に入っていることが市民理解を高めることに重要だったと思う。

鬼丸氏:NGOが自治体と連携する上で最も重要なポイントを、串間さんと竹内さんに伺いたい。

串間氏:3つある。市民参加につながること、職員の成長に繋がるなど直接的成果と、子どもたちとの交流で教育に繋がることは比較的容易に提案できる。今、自治体が直面している労働者不足で、収穫時期に人が足りず収穫ができないといった課題についてはNGOが貢献するのは難しいので、そこを強化したいと考えている。新潟県の取り組みが素晴らしいと感じた。

竹内氏:学びを中心に置いてきたことが活動の成長の要因。自治体と連携することは足元にある暮らしをよくしていくことである。行政の立場の人と共に、民間の市民の立場が相互によりよい社会を作る上で、対立するよりは、互いによりよい社会のために連携のあり方を見直すこと、日本の文化の中では、行政が上という考え方になりがちだが、行政職員も市民、国民であり、ひとりの人間としての関わりという基本を崩さなければ軸がぶれることは無いと思う。国際的な社会課題を解決することが、地域の課題解決につながったり、地域の課題解決が世界につながることどちらも両輪だと思う。よく自転車に例えるが目標を持ってハンドルをしっかり握り方向性さえ間違わなければ、皆で同じ方向で協働できると考える。対等な立場でお互いの関係を作ること。

鬼丸氏:共有できる価値は何かを提示し合うことが大切。何のために行っているのか、話し合いのプロセスが大事。また、1人の人間として国際交流、国際協力の事業から何を得て何を生み出すのか、人間レベルでの対話を促進していくことも協働事例推進に重要と考える。

鬼丸氏:モルディブの事業に関わって大城さん自身の学び、喜び、大変さがあったのか伺いたい。

大城氏:観光島自体はインフラ整備されており便利だったが、住民島は道路などのインフラが整備されていないにも関わらず、不便を感じさせない暮らしをしていた。住民の暮らしがある中で、観光開発をしてよいのか? 国の考える政策と、そこに住んでいる住民のギャップを感じた。また、環境への配慮は日本より取り組みが進んでいるという印象を受け勉強になった。

鬼丸氏:NGOと自治体職員の連携は、自治体職員の能力開発にもつながるという大きな利点があると思っている。海外であれ日本であれ、コミュニティ開発上の課題や障壁、いかに住民参加型にするかという悩みは共通しているところが多い。開発途上国の事例の方が対話型、住民参加型で興味深い事例があると思う。今後は思いがけない変化が起こる時代、過去前提が通じない中でしなやかさ、レジリエンスが必要。途上国にはしなやかに生きている人がいる。そこからの学びは大きな利点になると感じている。今日の学びをそれぞれの自治体、団体における国際協力に活用して欲しいと思う。



鬼丸氏による総括

 3事例とも異なるが、共通している箇所がいくつもある。まず、連携、協働を推進する目的、課題を共通認識として持ち合わせること。連携協働によって地域住民にどのような利益、価値が生み出されるのかを見出すことが大事である。協働が流行っているから取り組むので上手く行かないと学ぶことができた。次に、これからはいやおうなしに外国籍の人と付き合わなければならない時代。基礎自治体、都道府県単位で異なる文化、異なる言語の人々と共に人間としてどうやって互いに支え合うかという意識を育むことがこれから日本社会が生き残る上で非常に大切である。自治体の皆さんには地元のNGONPO、地域になければ他の地域の団体でもよいので、是非NGOの経験を活用して欲しい。我々は最前線で異なる文化、価値観の人々と対等な関係を築きながら共に課題解決に取り組んでいる。大切なのは協働の精神である。相手にこびへつらうのではなく、対等な立場で、何のために行うのかを明確にしながら活動すれば、多文化共生、国際居協力によって住民幸福度を上げる、主体的に地域課題に取り組むコミュニティを育むことができると思う。日本は黒船に弱いこともあり上手に海外の事例を活用することも知恵だと思う。

 尊敬するある福岡県のある首長は長年、対話の街づくりを続けてきた。彼は町内に住む900名の技能実習生にも幸せになって欲しいと言っていた。なぜなら彼らも住民だから。国籍に関係無く、住民の幸福度を上げるのが首長の使命とのことだった。しかし、自治体だけでは力が足りないから力を貸して欲しいと言われた。住民の幸福度を上げる、そのための一つの方法として、国際協力や多文化共生という知恵が今日の皆さんの発表の中にたくさん含まれていたと思う。是非持ち帰って欲しい。そして、その契機の一つとして、この後紹介するクレアの助成金事業を是非活用して欲しい。

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3.国際協力促進事業(モデル事業)の概要説明&QA

(一財)自治体国際化協会 交流支援部 経済交流課職員の小林より、モデル事業の概要および申請方法についての説明が行われた。