多文化共生の担い手連携促進研修会第一部を開催しました(オンライン)

多文化共生の担い手連携促進研修会第一部を開催しました(オンライン)


令和4年度 「多文化共生の担い手連携促進研修会」第一部 報告書

◆報告書PDFファイルはこちら

◆登壇者資料 ※本資料の無断転載、無断利用は固くお断りします

 土井佳彦氏 導入講義  まとめ

 ベティーナ ギルデンハルト氏 資料1 資料2
 


主 催:一般財団法人自治体国際化協会 市民国際プラザ

日 時:令和4年11月25日(金)午前 13:3015:30

形 式:ZOOMウェビナー

参加者:392名(自治体、地域国際化協会、NGONPO、大学教員、学生、企業、メディア等)
 
参加申込者:442名

<プログラム>

13:30-13:35


挨拶 一般財団法人自治体国際化協会 理事 鳥田 浩平

13:35-13:50

趣旨説明・導入講義 
特定非営利活動法人多文化共生マネージャー全国協議会 代表理事 
土井 佳彦 氏

13:30-15:25

パネルディスカッション
<パネリスト>

同志社大学グローバル・コミュニケーション学部准教授
城陽市国際交流協会・日本語ボランティア団体 「夢気球」メンバー 
ベティーナ ギルデンハルト 氏

伊万里市まちづくり課 多文化共生マネージャー
中国淮北師範大学外国語学部 特任教授  
章 潔 氏

一般社団法人国際多文化研修ラボ 代表理事 
松本 義弘 氏

<モデレーター>
特定非営利活動法人多文化共生マネージャー全国協議会 代表理事 
土井 佳彦 氏

15:25-15:30

総括 土井 佳彦 氏


主旨説明 導入講義

特定非営利活動法人多文化共生マネージャー全国協議会 代表理事 土井 佳彦氏

土井佳彦氏
 

 多文化共生の担い手連携促進研修会は、(一財)自治体国際化協会(以下クレア)が認定し現在約700名となる多文化共生マネージャー(以下タブマネ)が各地で活動を行う中で、直面している地域の課題等をクレアに提案し、地域国際化協会を中心にそのテーマに関するアンケート調査を行った上で企画しています。今年度はやさしい日本語を取り上げ、タブマネの方々と議論を行いました。本日は、やさしい日本語に関して何等かの答えを出す場では無く、日頃取り組んでいる方々の取組みを共有し、意見交換することが今後の皆様の参考になればと思い、パネルディスカッション形式で行います。

 やさしい日本語は1995年の阪神淡路大震災を契機に必要性が認識され、その後弘前大学の佐藤和之先生らが研究を展開されました。当初は災害発生から72時間以内の緊急対応時に活用される言語としていましたが、その後、災害時に限らない活用の場やレベルについても研究が進められました。さらに、民間企業等でもやさしい日本語の研究や活用が進んでいます。令和に入り文化庁の国語に関する世論調査で初めてやさしい日本語の質問も追加され、認知度は3割程度でした。様々な言語での情報提供があった上で、やさしい日本語も活用することが必要という認識も伺える結果となり、よい広がりを見せているようです。その後、2020年に国による公文書書き換えのガイドラインが作られました。「日本人にわかりやすい」、「外国人に分かりやすい」、最後に「本当に分かりやすいかを確認する」という3ステップが必要と示されました。2013年には内閣府がアメリカにおける「Plain English」活用実態調査の結果を報告しています。導入により税収が上がり、問い合わせが減少し、自治体アンケートの回答率が向上するなどの効果が出たとされています。そして、出入国在留管理庁と文化庁で現在議論されているのが「話しことばのやさしい日本語」です。「How to」ではなく適切なコミュニケーションのために留意すべき事項が示されています。

 本年7月にやさしい日本語について議論を行った際、タブマネの皆さんからは次のようなやさしい日本語に関する課題や問題意識を共有いただきました。「普及対象の優先順位は?」、「何のために誰のために普及するのか」、「日本人だけで検討していないか」、「本当に伝わっているのか」、「発信に限定されていないか」、「多言語より優先されていないか」。また、本日参加者の皆さんからも事前にたくさんの質問をいただきました。それに基づいて、またご参加の皆様から事前にいただいたご質問の内容も踏まえて本日はパネリストの皆さんに議論していただきたいと思います。

パネルディスカッション

パネリスト

● ベティーナ ギルデンハルト氏
同志社大学グローバル・コミュニケーション学部准教授
城陽市国際交流協会・日本語ボランティア団体 「夢気球」メンバー 

● 章 潔 氏
伊万里市まちづくり課 多文化共生マネージャー 中国淮北師範大学外国語学部 特任教授  

● 松本 義弘 氏
一般社団法人国際多文化研修ラボ 代表理事 

  

モデレーター

●土井佳彦氏
特定非営利活動法人多文化共生マネージャー全国協議会 代表理事 


登壇者


1.「やさしい⽇本語」と「多⾔語(外国語)」のバランスをどのように考えるか?

土井氏:やさしい日本語が普及する一方で、やさしい日本語だけでは「やさしい」とは言えないという問題提起もありました。多言語対応とやさしい日本語のバランスをどのように考えるかについてご意見をお願いします。なお、本日はご所属の組織としてのご意見ではなく、個人のご意見として発言ください。

章氏:地域の実状を把握した上バランスを取るべきです。伊万里市の外国人は496名、上位からインドネシア、ベトナム、中国で74%のため、やさしい日本語と3言語で対応しています。もう少し予算があり上位5ヵ国に対応すれば88%までカバーできます。理想はやさしい日本語と、在住外国人の国籍数・言語数ですが、予算やマンパワーに応じての対応になるでしょう。

2点目として、命に関わる情報、災害時や医療現場では多言語化すべきだと思います。また、災害時に避難所で多言語表示をおこなうことで、被災した外国人に安心感という承認効果を、日本人に対しては、避難所に外国人がいるというアナウンス効果があると、ダイバーシティ研究所の田村太郎氏が指摘しており、大切なことだと思います。

ベティーナ氏:章さんの指摘の通り地域の状況に合わせることが大事です。この機に調べたところ、やさしい日本語の情報は非常にたくさん公開されています。既存の情報を活用することで、多言語化に予算を割けるのではないでしょうか。また、言語は平等のはずなのに、残念ながら現状として序列とスレがあります。例えば、ドイツでは一番大きいマイノリティーグループはトルコにルーツのある人々ですが、ドイツの公立学校では欧州の言語を中心に学び、トルコ語がカリキュラムに含まれている学校は少ないです。多文化化している社会では移民難民の言語ができる人材が必要です。各国語の通訳翻訳ができる人材を養成することも多言語政策上必要だと思います。



2.「やさしい⽇本語」の理解度(伝わっているかどうか)をどう測るか?

ベティーナ氏:対象者が日本語を学んだ背景や環境、在留資格などを念頭に置いて欲しいと思います。私は外国人であるため、当事者の立場からやさしい日本語について話して欲しいとしばしば依頼されることがありますが、しかし、外国人によってニーズが異なっています。日本に来る前に大学で日本語を学んだので、本当にやさしい日本語を必要とする当事者の立場でやさしい日本語について判断することが難しいです。

章氏:やさしい日本語自体が明確化されておらず、現状、理解度は図れません。その上で敢えて図るとすれば専門家、有識者、現場の方の意見を元に理解度チェックリストを作り、データを収集し、月ごとに振り返り、理解度を確認するということは可能でしょう。ただし、対象者の主観に左右されやすく、場合によっては言語ではなく態度やしぐさなど非言語の「やさしさ」に対する評価になる可能性もあります。または、日本語学校の試験問題として留学生に対してやさしい日本語の理解度を図る設問を設けることは可能だと思います。2~3年かけて検証できれば客観的デなータが取れると思います。しかし、データが客観的過ぎるため、マニュアル化してしまう不都合も想定されます。

土井氏:顧客満足度を測定するという方法、テストを活用するという具体的な方法論を提示いただきました。ただし、マニュアル化したとたん矛盾する危険性もあるということですね。松本さんには、自治体のお立場から、ご意見をお聞かせいただきたいです。

松本氏:章さんのご意見は現実的だと思います。人数の多い順に多言語化していくことは自治体において説得しやすい判断材料です。理解度については、正規の体系的な日本語を学んだ方と違い、職場で業務に必要な日本語を現場で習得する必要のある方は語彙に限界があります。窓口では「私が言ったことはわかりましたか?」と口頭による毎回の確認などが必要だと思います。

土井氏:まさに、冒頭で述べたステップ1~3の3をきちんと確認するということですね。



3.「やさしい⽇本語」の受信(聴き⽅)にも注⽬する必要があるのではないか?

ベティーナ氏:私は日本語を体系的に学んできましたが、間違えて相手が戸惑うことも多いです。地域によっては日常生活の中で外国人の話す日本語、アクセントや語彙の微妙なずれに慣れていない人が多いと思います。理解できる能力を培うには接触する機会が必要です。行政とボランティア団体等がもっと接触の場を持つ必要があると思います。やさしい日本語の理解度を試す大事な場にもなります。

土井氏:松本さんは、日本人側が外国人の話に慣れるための研修などは行っていますか?

松本氏:研修として取り扱ったことはありませんが、横須賀に住む外国人を例に挙げて説明することがあります。「日本の車が好きです。トヨタ、日産、ハンダ」と言われた時、日本人は「ハンダ?」とザワザワしてしまいます。自動車の話なので「ホンダ」と容易に想像がつきます。自治体職員の研修でも「いじわるな耳」を持たずに、やさしい筆、やさしい口、やさしい耳、やさしい目も持ちましょうと伝えています。



4.「やさしい⽇本語」は、誰に向けて普及していくのか?(対象、⽬的、⽬標等)どこまで普及のゴールとするのか?

松本氏:私は主に自治体職員対象の研修に対応しています。各部署からの動員、階層研修と言って新任課長や2年目の全職員など特定のグループを対象としたり、希望者を対象とする場合など、それぞれに効果的で伝えやすいです。国際交流協会の職員を対象とした研修も大切です。社会福祉協議会もボランティアセンターの母体であり、災害ボランティアの研修が可能です。自治会長やロータリークラブ対象のこともあります。

章氏:ほぼ松本さんと同じ意見ですが、自治体と国際交流協会職員が多いです。伊万里市は、バスで買い物に行くという日本語教室を開催しました。レジで「レジ袋は必要ですか?」「これでいいですか」の意味が分からず動揺する様子がありました。こうした場面でも、やさしい日本語の活用が求めらますが、企業側には依頼できない、あるいは依頼しても断られてしまうことが課題です。

外国人たちにやさしい日本語を教える活動もしていますが、私は必要無いと思います。就労の場面で敬語を使う必要があり、国家試験を受けるなど日本社会に入ろうとする外国人には難しい日本語も必要です。やさしい日本語の目的は外国人とコミュニケーションが取れること。手段はジェスチャーでも絵でもよく、中国の人に通じない時はむしろ漢字を多用して書いて見せれば通じることも多いです。

「情けは人のためならず」と言いますが、「やさしい日本語は外国人のためならず」と言い換えれば目標となります。外国人のためだけでなく、巡り巡って日本社会に返ってくると思います。

ベティーナ氏:美術館が地域の外国人を招待して、一緒に館内を回り分かりにくい表示を確認したという事例があります。外国人は美術館に行く機会がなく、美術館職員も外国人に会う機会が無かったので、やさしい日本語を通じて機会が作られたそうです。

土井氏:ベティーナさんとしては、その他にやさしい日本語を使ってほしいという方々はいますか?

ベティーナ氏:章さんの意見には賛成です。日本社会に参画するためには難しい日本語に挑む必要があります。一方で、3年間だけ配偶者として日本に滞在することが決まっている方などの場合、日常生活に困らない程度の日本語を学ぶことは有効かと思い、在留資格によるので一概に言えないと思います。

土井氏:自治体の多言語相談窓口で外国人の通訳者対象にやさしい日本語の研修を依頼されることがあります。中国語の通訳の時間に別の言語の相談者が来た時、中国語の通訳者がやさしい日本語で対応が必要というケースもあるそうです。

章氏:説明不足でした。やさしい日本語が必要無いと思うのは、やさしい日本語が普通の日本語だと誤解してしまうとトラブルの元になりかねないためです。



5.「やさしい本語」をどのように普及しているか?(実践例)

章氏:市報や市のウェブサイトに掲載するコラムを通じた普及と、出前講座の2つです。講座は受講希望団体のニーズに合わせてプログラムを作り出向いて行います。企業や自動車教習所などにも行きます。依頼が無くても企業や団体に働きかけており、断られることもありますが粘り強く続けています。

松本氏:クレアの地域国際化推進アドバイザーを務めており、出講の半分弱がこの制度によります。申請内容が広範囲のことも多く、申請自治体の研修目的をよく考えるようにしています。担当者が理解している範囲で進めることが大事ですが、レベルが高すぎると感じる場合は調整を提案し、回数を増やす提案も行います。やさしい日本語の習得には意識、テクニック、心根を含めて継続することが重要であり、1回数時間の研修で完結するのではないことも伝えるようにしています。

ゴールとしては、話し言葉であれば相手に聞いてもらえること、文章の場合は読もうという気になってもらえる分量にすることを伝えています。聞き言葉、話し言葉の方が理解しやすいということを共有しながらプログラム作りをしています。



6. 海外における「やさしい言語」の取り組み紹介

土井氏:やさしいドイツ語などはありますか?

ベティーナ氏:やさしい日本語と出会ってドイツの現状を調べました。ドイツでは「やさしい言語」と言われています。外国人ではなく知的障がい者や学習障がい者を対象としているためです。また、欧州では1970年代に始まったpeople first という自己権利擁護運動があります。情報へのアクセスはサービスではなく権利である、という認識です。やさしい言語はルール化されており品質保証マークで認証されるようになっています。「やさしい言語」はマイノリティの社会参画のためでありルールがありますが、もう一つ「簡単な言語」もあり、幅広い対象者のわかりやすさをめざしており、目安はありますがルールはありません。

土井氏:欧州の動きは知りませんでした。先日クレア主催の「豪州多文化主義政策交流プログラム」に参加し、各所でEasy Englishが使われていました。簡単であること、非母語話者へのやさしさが必要であること、高齢者や障害者とのコミュニケーション手段であることが広い範囲で共有されているのかもしれません。

土井氏:最後の質問として「やさしい⽇本語」は、今後どのように展開・活⽤していくとよいか、どのようなことに気をつけているかお一人ずつお願いします。

章氏:やさしい日本語は時間をかけて外国人とのふれあいの中で完成するもので、キャリアを重ねる必要があると思います。外国語習得のプロセスと類似しています。研修受講後実際に活用する人が少ないとも感じます。理想は、やさしい日本語の必要性をより多くの人に知ってもらい、外国人にやさしい社会を構築することが大事だと思います。そして、やさしい日本語の活用は専門職、現場の人に任せることです。市役所の正規職員は必要性を理解してもらえれば十分で、キャリア豊富な専門職を置き、安定した雇用を確保することが重要です。現状では優秀な相談員などの担い手が非正規のためキャリアを積んでも現場を去ってしまいます。

ベティーナ氏:やさしい日本語と政策を組み合わせて効果を発揮できると思います。やさしい日本語と地域日本語教室、章さんや松本さんが仰っていたような取組みと併せて初めて相乗効果を生むと思います。日本語教育の視点からは、3年前に日本語教育推進法ができたものの、実態としてはボランティア頼みです。体系的に普通の日本語を教える仕組みと、ボランティアによる教室の両方が大切です。地域日本語教室は、出会いの場、やさしい日本後を使って外国人の間違った日本語を理解する訓練の場になり、やさしい日本語が、普通の日本語との橋渡しになると思います。

松本氏:自治体での普及に向けて3点を挙げたいと思います。まず、やさしい日本語の普及には法的根拠があることです。地方自治法第10条に住民はサービスを受ける権利と負うべき義務があるとしています。この条文のみ国籍が書いてありません。2つ目として、国の「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」の中にやさしい日本語が18回記載されています。国を挙げて情報発信を決めている中で自治体での推進も期待されています。3つ目は、庁内で反対されないことの大切さです。役所は文書主義の視点からやさしい日本語文を公文書として発送することをNGとすることがありますが、チャンネルを増やすという多文化共生の基本にかえればよく、難しい文書はそのまま送り、やさしい日本語や、外国語版を同時に送れば、管理部門や上司からの反対を受けないと思います。



7.「持続可能な取り組みの重要性、聴覚障がい者向けの取り組み」について

ベティーナ氏2015年に城陽市では手話言語条例が制定された。聴覚障がい者向けの仕組みですが、外国人向けの政策づくりにも参考になるのではないかと思いますので、紹介させていただきます。聴覚障がい者はプロの手話通訳士に病院同行を依頼できます。それは、先ほど話題にあがった多言語対応に相当しますね。また、市内には手話サークルがあり、私も参加したことがあります。健聴者がそこで手話を学び、聴覚障がい者と楽しく手話でコミュニケーションしていることに大変感銘を受けました。手話サークルのように、日本人が地域のマイノリティの言語に触れる場があったらいいなと思いました。このような取り組みは、多言語政策というより、「複言語主義」の理念に基づいています。複言語主義とは、個人が母語の傍らに複数の言語を学び、または、学ぶのが難しかったら、複数の言語がある状況を理解・尊重することです。地域で出会いの場をつくり、外国籍住民の言語に関心を持ってもらい、橋渡しとしてやさしい日本語を使う。多言語政策、複言語主義とやさしい日本語を組み合わせた取り組みがあったらいいなあと思います。



8.「⾃治体が普及・啓発研修を継続的に取り組むために」

松本氏:ちょうどQ&Aで「災害時のボランティアセンター運営訓練の場で外国人と災害をテーマにした話をする予定」という質問がありましたので併せて回答します。一つは情報のトリアージ、取捨選択と分類することを常に日頃の仕事の中で考えて欲しいと思います。情報を、生命・財産の保全に関わること、緊急性が高く伝えなければならない情報かを考えていただきたいです。例えば介護保険についてであれば、強制加入の制度なので簡潔な説明でも十分という考え方もできると思います。2つ目は受け手の立場を意識して用語を選ぶということです。炊き出しの例で言えば、温かいたべものを「配る」、ではなく、「もらうことができます」が一例です。



参加者からの質問への回答

Q 機械翻訳についての考えを聞かせてください

章氏:基本は反対です。精度が上がっているとはいえ不十分だと思います。予算や人財に乏しい場合は 是非、それを機に自治体、国際交流協会、支援団体など地域の人々が共に検討していただきたいです。外国人とのふれあいが生まれ、その時間こそが大事だと思います。また、命に係わる情報の機械翻訳は避けていただきたいです。

ベティーナ氏:機械翻訳を利用するためにやさしい言語が必要です。普通の文書だととんでもない翻訳になることが多いです。一番伝えたいことをやさしく言い換えて機械翻訳にかけるとある程度正しく翻訳されると思います。機会翻訳はもう一つのチャンネルとして考えるのがよいと思います。

Q やさしい耳が大事ということですが、具体的な研修はありますか?

松本氏:それぞれ国別言語別にくせがあることは研修の際に伝えています。韓国語ではツがチュに、フランス語ではHを発音しないという日本語との違いがあります。相手が一生懸命伝えようとしている際に笑ってはいけないと伝えています。相手に理由を尋ねるのはよいと思います。

Q やさしい日本語で説明する時に、文化や習慣の違いで詳しく伝える必要が生じることがあります。長くなってわかりにくくなってしまいませんか?

ベティーナ氏:具体例等を挙げることでわかりやすくなるので、長くなることは問題ないです。しかし、必要の無い情報を記載して文字だらけになり、読む気にならない文章はよくないです。

章氏:長いほどやさしく伝わる内容になると思います。時間をかけて丁寧に説明する必要があると思います。例えば、災害時の避難情報については情報発信をしても日本人のようにストック情報が無いと、外国人は言葉だけ聞いても理解ができません。自然災害が起きる前に計画的、定期的に研修の機会を設けてストック情報を蓄えていただくことも大事だと思います。

Q ピクトグラムの活用についてアドバイスが欲しいです

松本氏:ピクトグラムは有効ですが文字との併用も大事です。「在留カードはありますか?」と、伝える時、カードの絵や写真を示すことは効果的です。掲示スペースにもよりますが、ピクトグラムと文字を同時に掲示することも有効だと思います。

Q 伊万里市における出前講座の講師はどなたですか? 日本語教室のバスツアーについて知りたいです。

章氏:令和2年度から伊万里市で文化庁の日本語教室空白地域のプログラムの補助金を受けています。自分だけでなく、著名な講師の招聘なども可能です。自治体では補助金をとりづらい状況もありますが、実は補助金はたくさんあるので、敢えて補助金を活用することが大事だと思います。バスツアーも文化庁の事業の一つで、昨日の佐賀テレビで放送されたので、検索すれば動画が出てくると思います。

Q 学校関係者にもやさしい日本語を広めた方がよいですか?

松本氏:学校の先生に広がることはとてもよいです。教員だけの研修に対応したことはありませんが、自治体の研修に教員が受講するケースはかなりあります。また、東京都港区の六本木中学校では教員へのやさしい日本語普及に取り組んでおり、全ての保護者宛のお便りがやさしい日本語という例もあります。



総括 土井佳彦氏

本日の議論は、やさしい日本語に対してどのような意識、スキル、そして表情、接し方であるべきかという「やさしいコミュニケーション」についての議論が中心でした。やさしい日本語を活用すると言っても、やさしい日本語さえ分からないという状況では相互の理解に繋がりません。そのために、ある程度の日本語力を身に着ける習得機会と質の保証も同時に進める必要があると思います。つまり、日本語教育とやさしい日本語はセットで進めることが重要であるということです。同時に、どのようなレベルであっても、章さんが指摘くださったように、命に関わる災害や医療については多言語によって情報を得られ、伝えることを保証することも大事だということを併せて考えることが必要です。実は、2006年に総務省が多文化共生推進プランを策定した際、既にやさしい日本語、日本語の習得、多言語化をセットでコミュニケーション支援だと書いており、日本語および多言語化によりコミュニケーションできる社会を作って行こうと謳われています。実態としてはまだまだかもしれませんが、重要な点だと思います。

もう一点、個人的に課題と感じているのは、各種在留資格の取得・変更には相応の日本語のレベルが求められる場合がありますが、外国人がそれだけの日本語を身に着ける機会が十分に提供できているとは言えません。日本政府も言語政策を進めるべきだと思いますし、多言語化の推進も必要です。その中でやさしい日本語を活用することで、よりスムーズなコミュニケーションができる社会を目指すことだと思います。口で言うのは簡単ですが、我々が努力をしていく必要があると思います。本日は短い時間でしたが、これをきっかけとして、皆様には是非議論を続けていただきたいと思います。最後までご視聴いただきありがとうございました。

以上