第18回自治体とNGO/NPOの連携推進セミナー 開催報告 「多文化共生における災害時支援を考える」

「多文化共生における災害時支援を考える」
~平成27年9月関東・東北豪雨における多様なセクター間の連携~

開催日:2016年1月25日(月) 13:30~16:30
会場:(一財)自治体国際化協会 大会議室
参加者数:36名(自治体、地域国際化協会、NGO/NPO、企業等、関係者)

はじめに

今回のセミナーでは、平成279月関東・東北豪雨で大きな被害を受けた茨城県常総市の災害時支援において、自治体や地域国際化協会、NGO/NPO等がそれぞれどのような活動を実施したのか、また関係機関の連携がどのように行われたのか、実際に支援活動を行った

(公財)茨城県国際交流協会事務局長 岩本郁子氏、認定NPO法人茨城NPOセンターコモンズ代表理事 横田能洋氏、群馬県大泉町企画部国際協働課課長 加藤博惠氏から報告してもらいました。

さらに、後半では一般社団法人ピースボート災害ボランティアセンター(PBV)理事 合田茂広氏をモデレーターに迎え、オープンディスカッションを実施しました。災害時支援活動における課題とその解決の糸口について探るとともに、外国人住民が支援される存在ではなく支援の担い手となってもらうため、平時からどのような関わりが必要なのかについても考えました。

◆活動報告1. 「平成27年9月関東・東北豪雨への対応について」

岩本氏

(公財)茨城県国際交流協会
 事務局長 岩本郁子氏



茨城県国際交流協会は、主に外国人支援と国際交流事業を行っています。

常総市は、茨城県内で第2位に外国人が多い地域です。人口比だと、県内1位の外国人集住都市です。ブラジル国籍の方が2,041名で1番多くを占めています。

協会では、まず避難所やブラジル人学校などで外国人の状況を調査しました。避難所では、外国人が毎日出される細かい情報について理解ができないという課題があったため、外国語表示の張り紙をする等の支援を行いました。

次に外国人からの相談受付のために外国人相談センターの拡充を行いました。ポルトガル語での相談を約1週間、毎日実施しました。

多言語による情報提供も実施し、ライフライン情報や住宅相談会、災害ごみについて、免許証の無料再交付など地域の行政情報やその他医療関係等の情報について翻訳を行いました。協力者として、協会の外国人相談員、災害時語学サポーター、語学サポーター、関東地域国際化協会連絡協議会での協定に基づき、群馬県が中心になって声をかけた関東ブロックから翻訳の支援を受けました。多言語情報が提供されている協会のHPへのアクセス数は5倍、Facebookの登録者も飛躍的に増加しました。

県外の組織との協働による外国人支援も実施しました。実行委員会形式で日本財団主催支援事業として外国語よろず相談会を行いました。実行委員会スタッフ、多文化共生マネージャー、NPOの職員、県外自治体職員等と協力して実施しました。相談件数は50件で、住宅や車、ビザ等のことが多くあげられました。

また、茨城県と常総市が主催する住宅相談会の多言語対応も行い、外国人対応11日間で

59件の相談を受けました。

カトリック教会への支援も行いました。常総市はフィルピン人の方も多く、避難所ではなく教会に避難する方も多く、教会から支援して欲しいという申し出を受け、外国人被災者を対象とした弁護士相談会の開催に協力した。

今回の災害時支援を通して感じた課題として、ブラジル人コミュニティとの連携がとりにくかったこと、避難所以外の外国人の様子を把握できなかったこと、日本語教室主催者と連絡がつかなかったことなどを感じました。

活動報告2. 「鬼怒川水害と外国人支援」

山田氏

認定NPO法人茨城NPOセンター・コモンズ 
代表理事 横田能洋氏

茨城NPOセンター・コモンズは、茨城県におけるNPO団体の立ち上げや運営の支援を行っています。

今回の災害を受けて、国籍を超えて共にまちや暮らしを再生する拠点として「誰かに助けてもらう」だけでなく「ともに助け合う」という想いから、「助け合いセンターJUNTOS」を全国から支援に来てくれたNPO関係者と立ち上げました。

活動内容のひとつとして、情報誌やラジオを通じて、多言語で情報を配信しました。ラジオで情報を拡散するのも限界があったため、ブラジル人に協力してもらい、個人のFacebookなどSNSを通じて広めました。

難しかったことは、情報の届け方でした。外国人向けの住宅相談等の説明会に参加できた人は一部でした。説明会開催の情報が届いていなかったり、土日でも工場を休むことができなかったりしたことが要因ではないかと思います。企業に出向いて出前説明会を提案しましたが、協力が得られず、協力関係作りが必要だと感じました。

次の災害に備えたいこととして、外国人住民の方には、短期間の居住であっても保険に入る必要性があることを今回の教訓として伝えていきたいです。同時に、行政文書の多言語化の必要性も行政に働きかけていきたいと思います。

キーパーソンを探して、平時からのトレーニングは必要だと思います。ただ、いざ災害が起こったときにはどこの避難所に誰が行くかは分かりません。常総市は人口流動性が高いため、キーパーソン作りが課題であると感じています。

避難所での多言語ツールは、どのときに、どのタイミングでどう使えばいいのかがわかりません。ツールがあるだけでは活かされないと感じました。

今後の復旧・復興に向けた取り組みとして、復興計画の中に、外国人住民代表と行政の懇談会を持ち、市と外国人住民との意思疎通が行われることを提言していきたいと思っています。

現在、人口流出が続いています。一度市外に避難した外国人住民が戻ってこられるようにするためには、待遇が良い仕事を作ることが必要です。地元で育った外国人住民が、地元で通訳として働けるような職場をオリンピックに向けて行政や企業と連携しながら作っていくことも必要だと感じています。

◆活動報告3. 「多文化共生における災害時支援を考える」

加藤氏

群馬県大泉町企画部国際協働課
課長 加藤博惠氏


大泉町は群馬県のなかでも最も小さな町です。総人口41,255人で外国人が6,683人、比率として16.2%です。南米系の外国籍住民が80%を占めています。

町として、外国人はいつかは帰るお客様ではなく、生活者として共に生活していくために正しい情報を正しく伝えて正しく理解してもらうことを多文化共生のモットーに様々な施策を進めています。

大泉町で進めている多文化共生事業として、多文化共生コミュニティセンターを設置し、通訳を配置しています。多文化共生懇談会という外国人が集まっているところに出向いて、様々なことを説明したり、意見を聞いたりしています。

また、外国にルーツを持つ子どもを対象に町にある学校に日本語学級を設置したり、小中学校に入る前の子どもの外国人の親を集めて、就学前説明会も実施したりしています。

また、ブラジル人学校とも連携して外国籍児童向けに防災訓練や防犯・交通教室、インフルエンザ予防教室を実施したりしています。

現在、一番力を入れている事業が、文化の通訳登録事業です。日本の習慣や文化を母語で正しく伝えられる人を育成するというものです。例えば、節約日本料理の基礎とゴミ減量化講座を実施しています。ゴミの分別の方法も伝えます。ただのカルチャースクールではなく、日本の習慣やマナーを必ず伝えるようにしています。行政として、文化の通訳の方に期待することは2つあります。平時は、行政からの情報を市民に正しく伝えること、災害時は、顔の見えるパイプ役として情報をつなぎ、何らかのお手伝いをしていただく、ということが目的であります。

そのようななか、東日本大震災が起こりました。大泉町と町に在住しているブラジル人と一緒に東北の現地に救援物資の配布や炊き出しを行いました。その後、炊き出しに参加したメンバーでボランティアグループを結成しました。町の炊き出し訓練や救命講習、防災訓練に参加しました。

今回の関東・東北豪雨への被害対応ですが、常総市で色々な方と話し合い、大泉町は通訳支援をすることになりました。

外国人は、災害時要援護者として防災計画に位置づけられているところが多いですが、正しい情報さえ得られれば、支援が必要な対象ではなく、地域を支援する立場だと思っています。

◆オープンディスカッション
ファシリテーター:
一般社団法人ピースボート災害ボランティアセンター(PBV)理事 合田茂広氏
パネリスト:(公財)茨城県国際交流協会事務局長 岩本郁子氏
       認定NPO法人茨城NPOセンターコモンズ代表理事 横田能洋氏
       群馬県大泉町企画部国際協働課課長 加藤博惠氏



ディスカッション1
ディスカッション2


合田氏が所属するピースボート災害ボランティアセンターは、現場支援メインに活動しており、今回の関東・東北豪雨では茨城県常総市での支援者の連携推進やボランティア派遣を行いました。
また、東日本大震災では、外国人ボランティアの派遣なども積極的に行っています。

合田氏からパネリストに対し、①活動のなかで感じた課題、②災害時における他セクターへ期待すること、③今後の災害に備え、平時からの外国人住民との関わりにおいて必要なこと、の
3つの質問が投げかけられ、参加者との質疑応答も行いました。

各パネリストから活動のなかで感じた課題として、地域の情報把握や内部の体制作り、外部との関係作りが挙げられました。横田氏からは、個人情報の取り扱いという課題もあげられました。
行政が管理している個人情報を、避難所を運営しているNPOとどこまで、どのように共有できるかが、避難所運営の効率化や、住民生活の質の向上につながるのではないかという意見が出されました。
加藤氏からは、災害が発生していない地域の人が想像力を働かせて、こういう状況にはこういうものが必要なのではないかと被災者側に具体的に提案する必要があると話されました。

参加者からは、「あらかじめ多言語で準備しておいた方がよい情報は?」という質問があがり、岩本氏からは、津波、地震のみ想定した多言語資料だけではなく、その他の災害がある事を考えておかなければいけないと実感したという声があがりました。

横田氏からは、行政関連の手続き情報や公共施設を示すマップが多言語になっているとよかったという意見が出されました。また、発災後、ゴミの対応に追われることを理解しておき、日頃から外国人住民にごみ処理の分別について、周知しておく必要があることも話されました。

合田氏からは、東日本大震災の経験を含め、防災計画を立てる段階から、当事者である外国人や障がい者にも参画してもらうことが大切だと話がありました。

災害時における他セクターへ期待することとして、多文化共生マネージャーと自治体の連携を今後検討していくべきではないか、という意見や、担当者だけではなく組織全体で支援しなければならないことを理解しておくべきだという意見が上げられました。

今後の災害に備え、平時からの外国人住民との関わりにおいて必要なこととして、ネットワークづくりがあげられました。

横田氏は、どんなにすばらしい情報ツールがあっても、流すネットワークがなければ全く意味がないと話されました。また、日ごろから色々な言語の人と顔見知りになっていてれば、完璧に翻訳されたツールがなくても、情報は充分に伝わると話されました。

加藤氏からは、外国人住民=要援護者ではなく、正しい情報が伝われば、むしろ支援者としても期待できる、頼るべき存在であると認識することがあげられました。そのためにも、各自治体において外国人への情報収集や伝達について防災計画に位置づける必要があることも触れました。

最後に、合田氏は、各パネリストそれぞれがチャレンジしていることを、どう応用できるだろうということを持ち帰り、各自治体や組織で話をする中で小さくても自分たちらしくできることを探っていくことで、災害時への備えが動き出すのだと思う、とまとめられました。

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