令和2年度 地域国際化ステップアップセミナー(オンライン)

令和2年度 地域国際化ステップアップセミナー(オンライン)

報告書 
「コロナ時代の国際協力と地域づくり」PDF版

令和2年度地域国際化ステップアップセミナー コロナ時代の国際協力と地域づくり

主 催:一般財団法人自治体国際化協会 市民国際プラザ

日 時:令和3128日(木)1330分~1630

形 式:ZOOMウェビナー

参加者:約173

(自治体、地域国際化協会、NGONPOJICA、大学教員、学生、企業、医療関係者等) 

<プログラム>

13:30-13:40


挨拶・主旨説明  一般財団法人 自治体国際化協会 交流支援部 経済交流課 課長 加藤 周幸

13:40-14:05

課題提起 「コロナ時代に地域で取り組むSDGsの重要性」
認定NPO法人開発教育協会 事務局長 中村 絵乃氏

14:05-14:40

事例紹介
「駒ヶ根市のまちづくりと国際協力 ~NGOとの協働による母子保健研修センターにおける指導者養成事業~」
 駒ヶ根市 総合企画振興課 地域振興係 主査 矢澤国明氏
 ネパール市民交流の会 幹事 北原照美氏

14:40-15:15

事例紹介
SDGs未来都市の取り組み ~NGOとの協働による国際協力活動と松山市のESD/SDGs推進~」
 松山市 総合政策部 企画戦略課 副主幹 田内長宏氏
 松山市 産業経済部 観光・国際交流課 主査 青野寛子氏
 NPO法人えひめグローバルネットワーク 代表理事 竹内よし子氏


15:25-16:30

パネルディスカッション 
モデレーター 中村絵乃氏
パネリスト 矢澤国明氏、北原照美氏、田内長宏氏、青野寛子氏、竹内よし子氏





課題提起
◇「コロナ時代に地域で取り組むSDGsの重要性」

認定NPO法人開発教育協会 事務局長 中村絵乃 氏

 開発教育協会の中村です。本日は開発教育協会(以下、DEAR)の紹介、ESDSDGsについて、なぜ地域でSDGsに取り組むのか、持続可能な開発を考える視点について考えていきたいと思います。

 DEARは開発教育を通して公正で持続可能な社会の実現を目指す教育NGOです。教材の作成や指導者の養成、政策提言、実践研究活動、情報発信・ネットワークづくりなどを行っています。

 現在の世界は気候変動・環境問題、戦争・紛争・難民問題、経済格差・社会の不公正、大量生産・大量消費などの課題に直面しており、一言でいうと持続不可能です。持続不可能な社会をつくっている原因の多くは日本を含む先進国が引き起こしており、このままでは地球も私たちの暮らしも持続しないことは明白です。こうした食料、環境、エネルギー、廃棄物の問題などに取り組むことがSDGsの背景にあります。

 ここで、持続可能な開発のための教育(ESDEducation for Sustainable Development)、について説明します。先ほどの話のような、社会にはローカル、グローバルな課題が存在しますが、環境問題も人権問題も世界でも地域でも起きています。ESDとは持続可能な社会の創り手を育むため、現代社会における地球規模の諸課題を自らに関わる問題として主体的に捉え、その解決に向け自分で考え、行動する力を身に付けるとともに、新たな価値観や行動等の変容をもたらすための教育です。国際理解、環境、文化多様性、人権、平和等の個別分野を持続可能な開発の観点から統合した分野横断的な教育です。

 「持続可能な開発」という言葉が最初に使われたのは1987年国連の報告書「Our Common Future」で、2005年からの「国連ESD10年」は日本政府がNGOと共に提案したものです。現在は「ESD for 2030」が採択され、日本でも実施計画が策定されています。SDGゴール4にESDのターゲット設定がありますが、ESDSDGsのすべてのゴールの実現に寄与するものです。

 SDGsのゴールは有名ですが、「2030アジェンダ」(「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」)の一部がゴールになっており、前文や宣言が重要なので是非読んでください。現在の社会に対する強い危機感が背景にあることが分かります。SDGs以前も国連では様々な目標設定がされてきましたが、課題は積み残されてきています。SDGsの2つのキーワード「Leave No One Behind(誰一人取り残さない)」は従来、取り残されてきたという認識、「Transformation(変革)」は、従来の「開発」の考え方や方法では持続不可能であるという認識を示しています。もともと、2030年に貧国の撲滅の目途は立っていなかったのですが、コロナの影響や自然災害によっても更に悪化しました。教育についてもコロナの影響で数年分の前進が帳消しになってしまいました。気候変動については、人の移動や産業の停滞で若干CO2が減りましたが、このあゆみではまだまだ不十分です。

 2019年のSDGsサミットでも国連事務総長が危機感をあらわにしており、「SDGs達成のための取り組みがスピードとスケールにおいて十分ではない」と言っています。そして2030年までを「行動の10年」とすることを示しました。「サミット政治宣言」では、地域の取り組み強化が言及されました。持続可能な社会づくりには地域の取り組み無しには達成できません。

 なぜ、SDGsを地域で取り組む必要があるのでしょうか? SDGsに書かれていることは我々の日々の暮らしそのものだからです。我々がどんな暮らしをしたいのか、どんな地域に住みたいのか、地域で暮らす意味とつながっています。それを市民が主体で決めていくことが大事です。世界と地域が連帯することで、「誰一人取り残さない」助け合いも可能になります。

 持続可能な開発を考える視点として「コンパス分析」を紹介します。自然環境(Natural)、経済・産業(Economic)、社会・文化(Social)、政治・意思決定(Who decides?) という4つの視点で持続可能な社会を考えます。例えば、以下のようなことを考えます。「今、どうして持続不可能なのか?」、「『開発」は誰が決めているのか?』「誰にとっての、何のための『開発」か?』、「豊かさとは何か?」「意思決定に参加できていない人、声が聞かれていない人は誰か?」「地域の歴史・文化・資源は大切にされているのか?」。

 SDGsの落とし穴も紹介します。再生可能エネルギーであるメガソーラーに関し、各地で地域住民とのトラブルが報告されています。地域の課題に関する意見収集・市民の声を集めて提案をしても、実際の政策には反映されない、意思決定のプロセスが見えないということが、全国各地で起きています。

 地域でSDGsを進めるには、以下のようなことが大切なのではないでしょうか。①持続可能な地域づくりは、最初から最後まで市民が主体であること、多様な主体の形成、②今の枠組み、持続不可能な社会の構造、を認識し、見直すこと、③取り残されてきた人たちが主体となり、様々な人・団体と共に取り組む、仕組みの変革(システム・チェンジ)、④開発のあり方は多様であるから、利用できる制度は、地域の現状に合わせてカスタマイズして活用、国には提案をしていくこと、⑤世界の地域の課題や取り組みとつながり、「誰一人取り残さない」社会を地域からつくること。

 最後に、国連開発計画の出したCovid-19に関するメッセージを引用します。「『普通』の状態に戻すということは、単純に実現不可能となりました。なぜなら、その「普通」だと考えられていたことこそが、この危機を招いたからです。この危機は、私たちが他者や地球とどれほど深くつながっているかを示しています。新型コロナウイルスは、私たちの価値観を見つめ直し、2030アジェンダとSDGsが指し示すように、経済、社会、環境の進歩を真にバランスよく実現する新しい開発のあり方をデザインすることを私たちに迫っているのです。」

 私からは以上です。ありがとうございました。

<質疑応答>

QSDGsと多文化共生の関係性について知りたいです。

A中村氏:SDGsは開発目標なので、目標自体には文化や包摂に関する記述があまり無いのですが、地域でどんな社会を作りたいか考えることが、持続可能な社会づくりなのだと思います。在住外国人との共生が課題であれば、それはまさに持続可能な社会づくりの重要なステップになると思います。なぜ、多文化共生が必要なのか、それは誰のための共生なのか、是非地域の人たちと一緒に考えていただくとよいと思います。地域の中での課題が誰の声なのか?一緒に取り組むためにはどういう方々の協力が必要なのか、一つ一つ対話の中から、解決策は生まれてくると思います。地域社会の中での在住外国人との共生、みなさんに住んでいただけるような地域を作ること、労働力の問題もあると思いますが、なによりも、外国の方々にとってもよい社会をつくる取り組みは、地域の中で始まっていくのかと思います。多文化共生の課題は、まさにSDGsの課題だと思います。

事例紹介1
「駒ヶ根市のまちづくりと国際協力~NGOとの協働による母子保健研修センターにおける指導者養成事業~」

駒ヶ根市 総合企画振興課 地域振興係 主査 矢澤国明 氏

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 私からは、駒ケ根市の国際交流と多文化共生の取り組みを紹介します。1979JICA訓練所が開設され、以来毎年約600人が約2か月訓練を受けており、40周年を迎えた昨年には駒ヶ根から世界へ派遣された隊員は累計2万人以上となりました。市は1986年の第2次総合計画から現在に至るまで、JICA訓練所を重要な地域資源と捉え、訓練所との連携事業を基本施策とし特徴あるまちづくりを進めてきました。また、これを市民運動とすべく青年会議所等との連携で1983年には「駒ヶ根協力隊を育てる会」、1999年に「ネパール交流市民の会」を設立し、活動を持続可能なものとするため市が事務局を担っています。更に、国際交流・協力を推進するため開発途上国との友好都市交流を計画し2001年ネパールのポカラ市と国際協力友好都市協定を締結しました。

 協力隊を育てる会の取組をいくつか紹介します。「みなこいワールドフェスタ」を開催し、伊南地域の様々な世代が異国の文化に触れる機会を提供しています。今年度はコロナの影響で開催できませんでしたが、ネパールと駒ケ根をオンラインで繋ぎ、料理教室の開催やHPを立ち上げてオリジナル動画やオンラインタンプラリーを実施しました。JICAボランティアが任国で行う地域活動を支援すること、支援の資金づくりに市民が参画することで、育てる会及び地域住民が国際貢献や国際協力に寄与する「ちいさな国際貢献運動」も行っています。私もネパールに派遣された際、この仕組みで学校に浄水器と貯水タンクを導入しました。また、中学生の「協力隊体験入隊」を12日で行い、隊員候補生の実際の訓練を体験しています。参加した中学生が実際に協力隊参加につながったケースもあります。ネパール交流市民の会では2008年から母子保健プロジェクトを開始しました。

 駒ヶ根市でこうした国際交流・協力活動が市民に受け入れられている背景としては、JICA駒ヶ根の存在が大きく、所外活動、学校交流、地域実践活動などの訓練で隊員と市民の交流機会が多いため、市民の理解が深いことが挙げられます。更に、2018年に青年海外協力協会(JOCA)の本部が駒ヶ根に移転し、市と共に地方創生にも取り組んでおり、協力隊を活かした国際協力や地域活性化が加速しています。

 まだ正式な施策には至っていませんが、今後はJICA協力隊との連携がインバウンド、外国人材受け入れ、消費拡大など経済活性化にもつなげることで、これまでアプローチできていなかった層にも訴求できればと考えています。実際に2018年にはJOCAとの連携で「大使村プロジェクト」を開始しました。JOCAと駐日大使館とのパイプを活かし、市民との交流、商店街のレストランと各国とのコラボメニューの開発など、国際協力・交流を地域産業に活かす取り組みを模索しています。最後の写真は、マラウイ大使が駒ヶ根市民と交流する様子です。人口35,000人の海の無い長野県でこのような交流ができるのも、これまでの取り組みがあってこそと思っています。

 次に、北原さんにネパールの母子保健事業についてお話いただきます。

ネパール市民交流の会 幹事 北原照美 氏

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 ネパール交流市民の会では2008年からネパール支援を開始し、2015年には「JICA草の根技術協力事業」を、2020年度は「自治体国際化協会の国際協力支援事業(モデル事業)」に採択され、ネパールから専門家を招聘予定でしたがコロナ禍でオンライン研修に変更しました。将来的には再度JICA事業を実施したいと考えています。JICA草の根の地域活性化特別枠は、開発途上地域への貢献と、日本側の地域の活性化促進が期待されており、友好都市関係を土台とした協力関係構築を推進する駒ヶ根市側にとって非常に適したスキームです。

 ネパールでは妊産婦や新生児死亡率が高いという課題があり、本事業はその解決を目的に5本柱で活動しています。1.地域での健康教育、2.センターの保健医療サービスの質の向上、3.接遇力向上と環境改善、4.駒ヶ根市民による民際活動、5.広報強化による関心層の拡大です。国と国が国際協力であれば、敢えて我々は市民と市民の「民際協力」という言葉を使って力をいれています。

 JICA草の根のときから、ネパールとの行き来も容易では無いため、途中からFacebookのメッセンジャーを活用しオンラインでのミーティングも始めていました。ポカラ市市長や保健課長等とプロジェクト総括や今後を検討する会議では、「地域での保健活動が草の根的に広がり効果を上げている」「劇を交えたワークショップが分かりやすかった」などが聞かれ、地域の病院や助産院での学びも現地で多くの活動に繋がっており、毎年3週間程度実施してきた本邦研修の効果だと感じます。日本の大学教授、助産師の方々も惜しみなく時間と技を提供していただいています。

 本邦研修では、受け入れ側にも大きなインパクトがあることが分かってきましたので少し紹介します。「文化や習慣が異なっても人の命を救うということに国境はないと感じられた」「他の国の人の話を聞くのは色々と刺激になる。こちらでお伝えしたことが生かされ実践されていることをうかがうことがこちらのモチベーションアップになる」「自分の特技を教えることができとても嬉しかった。ネパールの方とお友達にもなれ嬉しかった。」

 2019年の本邦研修はポカラ市にも同時配信をすることを発案し、現地スタッフも同時に受講してもらいました。現地に日本人専門家がいたため、機器の設定や使い方など技術面での支援もできました。回線の遅いネパールではLINEが動画配信に適していました。こうした経験があったため、コロナ禍で日本人スタッフ不在でも、スムーズにオンラインに移行できました。モデル事業ではポカラ市の専門家の研修に加え、長野県看護大学や助産師、住民との交流も柱に据えていましたが計画を変更し、中高校生も交えてオンラインの交流を図りました。オンライン研修は1.協働団体の長野県看護大学による分娩のアセスメント(全8回)と、2.菜の花マタニティクリニックによるフットケアの技術移転でした。

 従来の研修では、通訳を介した研修だったため、時間も要し、講義式の理論編は集中が途切れ理解度が下がる傾向がありました。今回はネパール語の字幕入りのフットケアの理論と手技のトレーニング動画を作成に変更しました。動画視聴後に練習し、その後オンラインで手技を見ながら具体的な指導を行いました。手元が見えるようにケーブルの長いウェブカメラやスピーカーフォン、Wi-Fiなどの環境整備を行いました。また、病床や家庭での実践のビデオやレポートをメッセンジャーにアップしてもらいました。それにより単なる共有のみならず、タイムリーに一人ひとりに具体的な手技チェックができるようになり、また日本から継続して賞賛や励ましのコメントを送信し続ける努力をできたこと、実務者のみならず、病院の責任者、運営委員長などプロジェクトの管理者にも共有でき効果を上げました。

 プロジェクトと同時に「民際協力・交流」、市民の皆さんが、地域にいながら世界の誰かの役に立てる体験の創出を重要視しています。「こたつから出来る国際協力」として、中学生のネパール派遣事業を母子保健プロジェクトと連動させたり、本邦研修時に中学生派遣事業後の中学生に交流会を企画してもらっています。彼らは「たくさんの愛情をもらったので恩返しがしたい」という出発点で手伝ってくれます。地域の女性や高齢者が赤ちゃんのための下着や毛糸の帽子を作る活動も広く長野県下で広がっています。広報強化の一環で、活動をFacebookなどでこまめにアップしています。「高齢になっても誰かの役に立ててうれしい」と生き生きと手を動かすおばあちゃん達の様子を見た理学療法士の目に留まり、総合病院のリハビリにも活用されています。そして、皆さんが作った物を中学生が派遣時に現地で手渡しています。更に、現地からはプレゼントをもらったネパール側の母親たちの自信につながっているというメッセージが寄せられています。また、小学校のアルミ缶回収や歌声喫茶の募金を活用し、母子友好病院初のキッズコーナーが設置されたり、駒ヶ根の総合病院から白衣が寄付されたりという活動も行われています。

 最後に、駒ヶ根市との協働による効果・利点です。研修依頼時はまず事務局(市役所)から連絡することで、初めて依頼する場合も協力を得やすい、プロジェクトの節目の報告会に市長を初め、課長、係長らが出席くださることで理解を得られ、大きな後押しになる、子どもたちとの協働も大変重要ですが、教育委員会との協働で児童・生徒等への働きかけが公式にできる、様々なイベント・報告会で市からプレスリリースを出してもらえたり、市報に取り上げられ広報促進になります。

 市民の方々の協力をいただくことこそが、ネパールの母子保健の真の発展に寄与すると考えています。駒ヶ根市との協働を進めることができ大変ありがたいと思いますし、今後も共に歩んでいきたいと思います。

Q国際協力が市の総合計画に入った経緯を教えてください。またその後どのように発展していますか?

A矢澤氏:駒ヶ根市は自然豊かで観光地ですが県内の軽井沢、上高地などに比してブランド力で劣ることが否めません。全国二カ所しかない訓練所を地域特性と捉え差別化を図ったのは自然な流れと考えています。現在は、訓練所の機能の活用も行われるようになっています。

Qコロナ以前からオンラインを開始されており、かなりの部分をカバーされているように思います。オンラインの効果などがあればお聞かせください。

A北原氏:以前からオンラインでの実践があったことは強かったですが、特別高度な技術を持っていたのではありません。一つ言えるのは、友好があって信頼があったことだと思います。繋がり合っていることが大きいです。工夫している点としては、メッセンジャーグループをかなり細分化して作っています。「繋がっている」「信頼している」「日々の取り組みが素晴らしいと思っている」と伝え続けるため頻繁にやり取りしています。また、グループにはチームリーダーや責任者なども入ることで、現場で起きていることを把握できる体制であることも効果的です。

Zoomではトレーニングだけでなく、開始前におしゃべりの時間を入れるなどプライベートなところに少し入り込み、オンラインであっても人間的な場、人と人との温かさを感じられる場にしています。オンラインとなったことで、英語で報告書作成ができるスタッフを新たに雇用しました。また、我々が現地に行けない代わりに、優れたケアができるスタッフには謝金を払い、指導的役割のため協力を仰いでいます。

Q 二本松市と駒ヶ根市は連携していますか?

A 矢澤氏:友好都市ですが、訓練所を活用した取り組みはありません。今後、取り組みたいと考えています。

事例紹介2
「SDGs未来都市の取り組み ~NGOとの協働による国際協力活動と松山市のESD/SDGs推進~」

松山市 総合政策部 企画戦略課 副主幹 田内長宏 氏

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 松山市がSDGsに取り組み始めた一番の理由は人口減少対策です。そのため、若い人たちに選んでもらえる街であることが重要です。大学生が就職先を選ぶ理由の一位は3年連続で「社会貢献度が高いこと」となっています。中村さんのお話にもあったように学習指導要領の改訂で持続可能な社会の作り手が明記され、これからの若い世代にとってSDGsが当たり前となり、就職先だけでなく消費者としても居住地の選択においても持続可能性が意識されると考えています。

 松山市は内閣府から2020年度SDGs未来都市・モデル事業に選定されました。モデル事業のテーマは「安全で環境にやさしい持続可能な観光未来都市まつやま」です。持続可能な都市を目指し経済、社会、環境の三側面を繋ぐ統合的取り組みとして松山SDGsプラットフォーム事業を軸としています。誰も経験したことの無い変化の時代には知恵が必要です。そのため、多様な主体がフラットな立場で意見を出し合い、活動でき、パートナーシップを形成できる場が必要と考えました。多様な視点を取り入れるために市外、県外からも入会可能となっています。企業、経済団体のみならず大学、高校、幼稚園、飲食店、NPOや金融機関等もメンバーです。核となるのは具体的なプロジェクトを実施する分科会です。市は、一参加者として他のメンバーと同じ立場で分科会に参画するほか、各種媒体を通じて取組を情報発信しています。「ヒト・モノ・カネ」を出し合って活動することも特徴で、松山市も一参加者として自分達が行うことには投資しますが分科会活動全体の費用を市が用意するという訳ではありません。SDGsの達成に向けて参画団体が各団体の持続可能性、利益も確保しながら地域課題を解決できる手法を考え実践することが基本です。先行分科会として、松山市の離島・中島で太陽エネルギーの地産地消を体験コンテンツとして観光誘客にも活用するスマートアイランド構想に取り組みます。中島は国立公園で高級柑橘の「紅まどんな」の産地としても有名です。羽田から2時間半なので是非お越しください。

 本市は内閣府のSDGs官民連携プラットフォームのメンバーでもありますが、次はこの取り組みを実際に活用した事例を紹介します。

松山市 産業経済部 観光・国際交流課 主査 青野寛子 氏

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 私からはNGOとの協働による国際協力活動と松山市のESD/SDGs推進についてお話します。本市ではNPOや国際交流協会などの実践者が連携し、国際協力活動を行いながら、それを題材としたESDを実施することでSDGsを推進することを目的に「国際協力・国際理解推進事業」を昨年度から2ヵ年で実施しています。この事業を計画した2018年度頃からSDGsに本格的に取り組もうという機運が本市でも高まっていたこともきっかけの一つです。松山市とNPONGO、国際交流協会、大学、学校などが連携しESDに取り組むことで持続可能なまちづくりの視点を持った人材の育成を目指すことをテーマとしています。事業予算は松山市、松山国際交流協会、NPO法人Community LifeNPO法人えひめグローバルネットワークが負担し、教育関係者などと共に実行委員会を形成しました。自治体国際化協会(クレア)の自治体国際協力推進事業(モデル事業) にも採択され助成金も活用しました。

 1年目はフィリピン・ロドリゲス市の障がい者支援活動と、この国際協力活動を活用したESDを、2年目は1年目の事業とこれまでの実績を元にSDGsについてやさしく理解できる教材冊子を作成しました。事業終了後も小学校でSDGsESDを継続して行くことも目的としています。実行委員会事務局を松山市が、松山国際交流協会は「ESDコーディネーター派遣事業」、フィリピンの国際協力事業はCommunity Life、国際理解事業は、えひめグローバルネットワークが実施という体制で行い、学校教育におけるSDGsESDについて愛媛大学教育学部のESDラボにも協力を仰いでいます。既存の事業を「SDGs」というキーワードで結びつけ、形にしたものとなります。

 本事業は、2000年にえひめグローバルネットワークが開始したモザンビークに松山市の放置自転車を送り、武器と交換する「武器を鍬へ」という平和構築プロジェクトに端を発しています。これをきっかけに2008年に大統領をはじめとするモザンビークの政府首脳が松山市を訪問したことで、愛媛大学と同国ルリオ大学の間で学術交流協定が締結され教員や学生の交流が開始しました。行政、国際交流団体、NPO、教育機関がつながり、ESDの素地となりました。2009年に「国際交流・国際協力に基づくESD教材・カリキュラム開発事業」を実施しました。本事業もクレアのモデル事業に採択されたものです。主な成果としては、2011年にESDモデル校となった新玉小学校が四国初の「ユネスコスクール」に認定され、2011年度からは松山国際交流協会の「ESDコーディネーター派遣事業」がスタートし、行政、NPONGO、学校が繋がる仕組みができました。この連携の仕組みは現在も継続しています。10年以上に渡るESDの取り組みを下地として2ヵ年事業を実施するに至りました。本市で活動するNPONGOの継続的な活動の支援、これまでのESD事業にSDGs取り組みを付加、国際協力を題材とすることで、自治体におけるSDGsの導入や推進を図るモデル的事業として展開することもねらいとしています。

 フィリピンでは障害者支援制度が十分ではない現状があり、ロドリゲス市では障がい者の生計向上・就労と障がい児の早期療育のニーズがありました。そこで、松山市で障がいのある子どもの支援を行うCommunity Lifeがフィリピンの障がい者関連の現地NGOやロドリゲス市と協力しながら障がい者支援活動を実施しました。フィリピン・ロドリゲス市の行政と地域の障がい者を支援する団体や関係者の連携や、障がい者支援を継続して実施できるよう、具体的な活動プランを立案していく支援を目標としました。そのため、2年目は現地渡航せずメールやオンラインで支援を継続する計画でした。コロナ禍で往来ができない現状に、図らずも適した計画となりました。日本からの専門家派遣では講義やワークショップ、アクションプラン作成や現地福祉団体の訪問指導を行い、2回目ではアクションプランの進捗を確認しました。研修生受入れでは市内福祉施設の視察、帰国後の活動に繋げるための計画・立案を目的としたワークショップの他、市内小学校を訪問し、特別支援学級の視察と、研修生がフィリピンの踊りを披露し交流活動をしました。主な成果としては、ロドリゲス市で障がい者手当制度が創設されました。2回目の派遣では、障がい者就労支援を行っているNPO法人ぶうしすてむ代表川崎氏がパソコンを使用した障がい者の在宅就労について研修を行いました。また、本市への視察がきっかけで、障がい児デイケア施設が開設する運びとなりました。

 2年目は、各分野の専門家や小学校教諭などの教材冊子委員と共に教材冊子作成を行いました。小学56年生を対象とした分かりやすい教材作成のサポートを内閣府の「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」のマッチング制度を活用し、呼びかけたところ、㈱学研プラスの協力を得ることができ10月に冊子が完成しました。児童生徒にとって分かりやすく、指導者にも使いやすいものを目指しました。松山市の特徴や身近な事例を盛り込み、自分事として捉えられる素晴らしい冊子となりました。

 次は、冊子の執筆を始め本市のESD/SDGsにご協力いただいている竹内さんよりお話しいただきます。

NPO法人えひめグローバルネットワーク 代表理事 竹内よし子 氏

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 地球規模で考え、地域で活動し、自ら変わっていこう!をモットーとしているえひめグローバルネットワーク(EGN)の竹内です。1998年に設立、本部は松山市、四国4県とモザンビークに事務局・活動拠点があります。「あらゆる人々が、人として平和な日々をおくることができる持続可能な社会を実現すること」をミッションとしています。国際・環境・教育の3つの活動分野を横断し、ネットワーク・パートナシップで社会課題解決に取り組んでいます。特にESDを重要視しており、全ての活動の基盤です。

 愛媛では20036月にESD地域セミナーを行い、その後四国NGOネットワークの仲間、JICA四国、四国4県の国立大学と共に「地域発国際協力論」という単位認定の授業を開始しました。これをきっかけに四国中でESDの輪が広がったと思います。現在四国には12ESD拠点があり相互にも連携しています。その後、モザンビークとのご縁ができて支援活動を開始しました。2008年モザンビークの大統領が愛媛を訪問されたことをきっかけに、愛媛大学と同国ルリオ大学が協定を結び、教員や学生の研究交流が始まり、JICAの留学生としてモザンビーク人が常時愛媛大学におり、市民も交流できる環境です。

 モザンビーク支援のきっかけは、現地NGOが取り組んでいた「武器を鍬へ」プロジェクトです。日本から放置自転車を送り、現地では自転車と武器を交換、市内の放置自転車問題も考えるという同時解決への取り組みと学びのサイクルを生み出すESDの視点、学びと行動の変容を意識したプロジェクトです。モザンビークで自転車は生活を変える道具として喜ばれ、松山市内の放置自転車数も減少しました。武器は爆破処理されますが、一部はアートへ生まれ変わり武器アート展を開催し「武器を作らない社会」のメッセージを発信しています。

 2006年の訪問以来武器回収に取り組んできたシニャングァニーネ村にて、信頼関係を築きながら村の人たちと共にその後も社会課題解決の活動を継続し、モザンビークのESD拠点として2018年には公民館を建設しました。資金は寄付や募金、クラウドファンディング等全て「市民力」で達成しました。現地では「心の復興」につながっていると評価されています。公民館ではブラスチックごみを回収し、建築資材になるエコブリックづくりも行っています。その他にモリンガの育苗・植樹・商品開発、小学校2校舎の修繕やトイレ建設、今後は安全な飲料水を確保するための井戸の整備も計画しています。ESDSDGsツアーを実施し高校生や大学生がモザンビークを訪問しています。コロナ禍の取り組みを検討した結果、マスク作成に取り組んでいます。小学校が1年近く閉鎖されているので、子どもたちが自主的に公民館でマスク作りや刺繍を学ぶようになるなど、公民館が自主的な学び合いの場になりつつあるようです。

 ここで、1020年の取り組みを振り返ってみたいと思います。ESDの取り組みとして様々な冊子で紹介され、松山市、松山国際交流協会、愛媛大学やユネスコスクールとの連携が進みました。10年前のクレア事業と現在のクレア事業を繋ぐのが松山国際交流協会の「MIC-ESDコーディネーター派遣事業」10年の実践です。今回ESDSDGs推進の仲間が広がっています。NPO/NGOは継続的な活動を続けることで、市民と地域の魅力や特色を生み出すグローカルクリエイターだと考えています。10年の取り組み、思いを繋ぐことができたのがSDGs冊子づくりです。従来はそれぞれに活動を深めてきましたが、今回みんなが集い松山市と共に歩んで来たことは大きく、クレアと共に10年分の振り返りができることも嬉しいです。Community Lifeとも2016年に繋がりができたことが今日に至っています。 

 Community Lifeの松本さんからは本事業を通じた学びについてメッセージを預かっています。1点目は行政(松山市)と連携の可能性です。市民活動は、行政のバックアップ、更に福祉と国際のつながりによって単独で行うよりもさらに大きな効果が生み出されることを感じた。2点目は他のNPOと協働、ネットワークの可能性です。専門分野の異なる障がい福祉関係の3事業所とそれぞれの得意分野を生かしながら現地活動を進めることができた。組織強化し、法人規模を拡大するのではなく、多数ある小さなNPOが事業ごとにネットワークをつくる方が柔軟であり、活動の幅も広がっていくのではないかとのことです。ぶうしすてむの川崎さんからは、「フィリピンはハード面のバリアフリー化は遅れているが、心のバリアフリーは進んでいると感じた、福祉の政策は自治体ごとであったが、地域のニーズに合った施策ができるというメリット、デメリットがある、専門職の人は少ないが、地域の助け合いができている。松本さんとその後の交流も続いている」とのことです。

 えひめグローバルネットワークでは、色々な方との協働で学校を訪問していますが、ESDの訪問、講演回数からを振り返って、社会の変容は起きるのではないかと期待しています。大学との連携、自治体との連携、企業との連携も広がっています。こうした活動を通じて、一人一人の変革ができて、社会の変革が可能と考えています。ESD for 2030 とともに 引き続き誰ひとり取り残さない社会づくりを目指していきたいと思っています。ありがとうございました。

質疑応答

Q松山市全庁でSDGsに取り組むための意識醸成の工夫が知りたいです。

A田内氏:まだまだ途上と考えていますが、30歳前後の若手職員から希望者を募り、SDGsの取り入れ方について研究してもらっています。全課課長への研修、紙媒体での広報、外部講師による研修を実施しています。今年度は入庁3年目の職員にSDGsカードゲームを体験してもらいました。

QSDGsESD推進のためのファシリテーター育成はどうしていますか?

A:竹内氏:SDGsカードゲームのファシリテーター、学校訪問をしているNPOなど様々ですが、メンバーが、まつやまSDGs推進協議会に入り、分科会を立ち上げたいという声が上がっています。ESDコーディネーター派遣制度に関わっているメンバーで一度集まり、ノウハウやツールの共有や、学校や教育委員会との連携の仕組みを作るESDチームを作りたいと考えており、今後制度を整えたいと考えています

QSDGs冊子は入手可能ですか?

A:今回クレア助成金事業の一環で3000部を印刷したところです。共有してほしいというお話もたくさんいただいており、今後デジタル化を検討中です。

パネルディスカッション
モデレーター 中村 絵乃氏
パネリスト  矢澤国明氏、北原照美氏、田内長宏氏、青野寛子氏、竹内よし子氏


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中村氏:ここからは自由討論としたいと思います。前半では、大きく二つの事例を紹介いただきました。駒ヶ根市では国際協力を中心としたまちづくりが進み、ネパールとも具体的なつながりができ、更には学校、住民、様々なボランティアも関わり、自分が「やってあげる」のではなく、自分自身の得意分野を活かし、充実感に繋がるというお話でした。松山市ではSDGs未来都市という大きな仕組みもあり、NGOの以前からの取り組みもあり、モザンビークやフィリピンでの活動、様々な活動を通じて正に誰一人取り残さない社会づくりを実践していると感じました。

皆さん既に発表の中で回答いただいているかもしれませんが、今回のテーマである、「地域で国際協力」、「地域でSDGs」に取り組む意味を考えたいと思います。

1つ目の質問は「地域でSDGsや国際協力に取り組む意義、理由について」です。

それぞれの立場でお願いします。

「地域でSDGsや国際協力に取り組む意義、理由について」

矢澤氏:いくつかあると思いますが、新しい繋がりの中で誰かに喜んでもらえる達成感、充実感、自己肯定感を得られる活動、特にネパールに生まれる赤ちゃんに帽子を送る活動は、高齢者も参加でき、国際協力を行いながら健康づくりや介護予防にもつながっており、メリットと思います。また、本日お話をさせていただくことで駒ヶ根市のプレゼンスが少し高まり、私の立場からは大きな理由になるかと考えます。

北原氏:「民際協力」を進める意味と置き換えさせていただくと、世界のことを自分事にする、がキーワードだと思います。日常そのものであるSDGsを自分ごとにするため、民際協力をすることが役に立つと思います。

自分が世界とつながっている感覚、顔の見える活動がよろこびに繋がっています。子どもから高齢者からプロの方まで皆自分の力が海を越えた地域で役に立つという実感が生まれ、貢献しているという実感に繋がっている点です。人として一番の幸せは愛されること、役に立つことだと本で読みました。民際活動が役にたっていると感じます。

駒ヶ根市とネパールとつながることで、ネパールにも大きな影響があります。ODAも使った国際協力では持続可能性を求められています。母子保健事業が終わるにあたりこれからの期待を現地の病院スタッフに伺うと、病院の増築や機材を求められるのではなくの「会いに来てほしい」という言葉でした。日本側も普段から、手技の動画を送ってくれたら確認する、手作りマスクを作ったので送るなどまさに「海を越えたご近所づきあい」で、プロジェクトとして終わりがあっても、お互いがお互いの幸せを願う気持ち、友好には終わりがありません。これが地域でSDGs、国際協力に取り組む意義だと思います。

中村氏:名言が沢山出てきました。「こたつから国際協力」、「海を越えたご近所づきあい」。自分にとっての「地域」が広がる感じ、ネパールも駒ヶ根と同じように愛せる、親戚が増えるという感じでしょうか。

田内氏: SDGsは国際的な目標ですが、各ゴールを達成するためには、達成できないときのことを、どれだけ身近な自分ごととして捉えられるかということが重要です。コロナ禍でのマスク着用は強い危機感が背景にあると思います。同様に、SDGsも今のままでは持続可能な世界を維持できないので、自分の家族にも影響があるという具体的なイメージが必要だと思います。松山では年齢層があがるとSDGsの認知度が低くなるので、例えば、お年寄りに温暖化対策の行動を取ってもらう時、「CO2が増えると沈んでしまう島がある」と伝えるより、「無駄な電気を消さないと松山の気温が40℃を超えたり、豪雨災害などが起こってお孫さんが大変ですよ」と伝えた方が自分ごととしてイメージしやすく、それなら孫のためにできることをやってみようとなります。イメージできたことで、身近な取組から始めたり、応援したりの輪が広がり、みんなの当たり前が地域から変わって、日本、世界とつながっていく。これが大事で、基礎自治体がSDGsに取り組む意義だと考えます。

青野氏:地域の国際化という点で申し上げます。市では1981年にサクラメント市、1986年にフライブルク市と友好姉妹都市提携を行いました。当時は市民の国際化のため行政が提供する場が重要でした。昨今では、海外の情報は自由に取得できるため、情報提供の比重は小さいです。現在の国際交流や国際理解の目的は、インバウンド拡大や今後の人口減少による産業構造の変化などにより、日本で生活する外国人が増加すると考えられ、来るべく多文化共生社会に向けた準備を行うことだと思います。地域で暮らす外国人と日本人市民の摩擦が将来的に予想されるので未然に防ぎ、解決の糸口を模索しておくことで住民や行政の負担を少しずつ解消していくために国際交流や国際理解が重要であると思います。SDGsの理解は地球規模で持続可能性を考える視点を養うことに繋がるので、来るべき多文化共生社会の人材育成にもつながると思います。

中村氏:確かに、以前は世界とのつながりは、姉妹都市くらいしかありませんでしたが、今、情報はたくさんありますね。一方で、身近にいる在住外国人をどのくらいわかっているのか、に関する疑問もあります。自治体の役割は大変大きいと思います。

竹内氏: グローバル化が進み、いろいろなものが見えなくなっている、誰かが作ったものを着て、どこかで作られたものを食べています。それでいいのでしょうか? 足元で自分ごとに置き換えながら、作り手の見える化が必要だと思います。国際協力も大きなNGOが頑張ればよいということではないと思います。地域で特徴ある活動しているところを応援して欲しいです。全国津々浦々に小さなNGOが頑張っており、キラキラと光る魅力になると思うので、地域の宝物にしてほしいです。外国は、訪問したことのある国には興味がわき、知っている人がいるともっと気になります。もし、その国で災害が起きたらできることはないかと考えるようになると思う。人が人として相手の人権を認め合う気持ちです。中村さんとも2002年ヨハネスブルグサミット後の開発教育勉強会以来のお付き合いですが、学びの場があり、目が輝くのは途上国の子どもだけでなく、日本の子どもも大人も同じ。国際協力を通じて本物の学びを感じとることができると、ワクワクして楽しいです。SDGsという共通の目標ができてからは活動をつなげていきやすくなったと思います。

多文化共生についてたくさん質問があったので伺いたいと思います。多文化共生について地域住民とどのように対話していますか?

中村氏:皆さんの言葉を記録して報告書にしたいくらいです。実際にかかわっているからこそ出てくる言葉だと思いました。SDGsを自分ごとにするという言葉が心に残りました。

2つ目は、多文化共生についてたくさん質問があったので伺いたいと思います。多文化共生について地域住民とどのように対話していますか? 地域で多文化共生を推進しようという前提があれば楽ですが、住民が外国人についてよく思っていなかった場合どう対話していきますかという質問も出ています。更に、住民自身のニーズをどう把握しているかも伺いたいと思います。

矢澤氏: 駒ヶ根市では市民団体が運営する日本語教室が2つあります。1つは「地球人ネットワークinこまがね」です。市では活動を後押することで日本語教育を推進しています。講師は専門家もいますが基本はボランティアが学習者の支援をしています。外国人の日本語能力向上はもちろんですが、地域で日本人と外国人がつながる理想的な活動だと感じています。令和2年度はこれまでの取り組みが評価され、長野県のモデル地域に指定され、県から派遣された日本語の専門家に講師を依頼したり、ボランティア養成講座、外国人向け防災講座も展開しています。

もう一つ、市として「やさしい日本語」に注目し、中国、ベトナム、ブラジルの方が多く英語より簡単な日本語が共通言語として有効なので、災害時の行動マニュアルおよび感染症対策啓発冊子を配布しました。メール配信サービスは日本語でしていましたが、やさしい日本語のメール配信も追加したところです。

中村氏:既に共生という考え方があるのかと思いますが、交流の無い人たちへの働きかけはどうなさっていますか?

矢澤氏:もともと交流が無い方々の啓発は難しいかもしれませんが、市報で協力隊の活動や、(今月号のように)多文化共生記事を掲載するなど、市から情報発信はできると思います。

中村氏:コロナ禍で外国人のニーズのヒアリングなどはされましたか?

矢澤氏:昨年地球人ネットワーク主催で多言語のコロナ相談窓口を開きました。市からは福祉担当者が関わらせていただきました。JICA訓練所があり、ベトナム語、中国語、ネパール語、ポルトガル語などを話せる方々が多数いて、層の厚さを再認識しました。改めて訓練所は非常に強みだと感じました。

中村氏:日本語ボランティアさんが積極的に取り組まれているのは各自治体共通かもしれません。今後日本の社会は様々な意味で、在住外国人の方々の力なしには成り立たなくなっていくと考えます。かれらのためにも自分たちのためにも、共生のあり方を考えることが重要なテーマになると思います。SDGsの自分ごと化のように、地域づくりの仕組みづくりにおいて自治体の皆さんの役割が重要だと思います。

コロナ禍で活動を続ける中でよかったこと、感じた課題、今後の展望などをお聞かせください

3つ目は、コロナ禍で活動を続ける中でよかったこと、感じた課題、今後の展望などをお聞かせください。田内さんには、未来都市になって市民や企業、自治体運営に変化がありましたかという質問がありました。

田内氏: 変化について、日本全国でSDGsの取り組みが進んでおり、未来都市に選ばれたことによる変化だけではないかもしれませんが、選定前は都市部の大企業の問い合わせが多かったです。選定後は地元企業からの問い合わせが入るようになり、SDGs関連のサービスが始まりました。自主的にSDGsに取り組むと宣言する企業が出てくるなど輪が広がっていることを感じます。今後、周知をしっかり行い、本当の意味でSDGsの理解が進み、持続可能な地域になっていくとよいと思います。

コロナ禍での取り組みについて、プラットフォームを軸に未来都市に選定されましたが、コロナで集まれないことが最大の課題でした。結果としてキックオフ総会からオンラインとオフラインの掛け合わせで実施しました。その後はオンラインが中心ですが、オンラインは要点を絞った会議になりがちで、仲間、コミュニティをつくるための雑談が生まれづらく課題でした。そこで雑談を含む気軽な情報交換のためにクラウド型の情報共有基盤を整備し、1月上旬にアカウント付与し、説明会開催した上で先週から運用を開始しました。本格的な取り組みはこれからですが、多様なステークホルダー同士が色々な意見交換ができて、松山市を持続可能な地域にしていく体制が作れるとよいと考えています。

青野氏:ご紹介した事業とコロナというところでは、SDGsを切り口に既存の取り組みをつなげて展開したということに加え、SDGの言葉の魅力があると思いました。仲間、マッチングを活用して学研さんとも仕事ができ、予算的にも安価で実施できたことが成果でした。SDGの取り組みについては、皮肉かもしれませんが、コロナによってこれまでの当たり前が当たり前で無くなり、従来の戦略、手法が通用しないことが、SDGsの持続可能な発展ということが重要なキーワードとなり、松山の事業でも追い風となりました。今後の展望としては、リモート化、書類の電子化により場所に拘る必要が無くなり、東京や大都会でもなくてもよくなり、今後地方都市に目が向く、地方を活性化するチャンス、選ばれる地域になるための自治体の手腕が問われていくと思います。

竹内氏:EGNでは、元々四国4県に拠点がありテレビ会議室システムを持っていましたのでオンラインへの抵抗はありませんでした。ネパールのオンラインのことを伺いましたが、私たちもモザンビークに携帯電話を置いてきてよかったと思っています。文字が書けなくても写真を撮って送ってもらえるので、通信インフラさえあれば繋がっていられることを実感しました。今後、中学校に行けないシニャングァニーネ村の子どもたちを街の中学校とつなぐ新しい取り組みを検討したいです。現在は雨季で晴れないとソーラー充電が使えないため連絡が途絶えて心配もしますが、それもリアルな現地からの情報として活用しながら学びにしたいと思います。EGNは環境省の四国環境パートナーシップオフィスを受託している事業のなかに「地域循環共生圏プラットフォーム」という事業があり、これを四国では「ローカルSDGs四国」として217日に設立準備をしています。松山市の取り組みとも似ていますが、分科会ごとにマッチングできるとよいと思っています。それによって、今まで出合わなかった人と出会い、多様な考え方を取り入れることでSDGs達成に向けていろいろと工夫ができると思います。

矢澤氏:対面の交流が全てできなくなり、デジタルな技術を駆使して取り組みました。みなこいワールドフェスタでは、HPを立ち上げたオンラインイベントなどを行いました。今までは在住の外国人に講師を依頼していましたが、ネパールでホテルを営む講師とZoomでつなげてネパールのキッチンを見ながら料理を学べるという環境は初めてのことなので、デジタル技術によるおもしろい変化だと思います。講演会も会場に来ないと聞けなかったものが、ハイブリッドで実施することで、遠隔地からも良質の講演会やセミナーを受講できるようになりプラスの側面だと思います。4月は駒ヶ根市とポカラ市の友好都市協定20周年になりますが、直接の訪問が難しい可能性があるので、首長同士がZoomで面談する機会などを作れたらよいと思います。

北原氏:成果も課題もあります。ネパールは常に禍が起きていて、政変や災害もあり、制度も常に変化する中で暮らしているため、ネパールの人はしなやかです。彼らから学び私たちも徐々に何とかなると思えるようになりました。また、菜の花マタニティクリニックの院長は国際協力の希望がありながら多忙で叶わず、退職後の渡航を願っておられました。「まさかこんなに早く自分が直接現地とつながって国際協力をできるとは想像していなかった」と感激されていたのが印象的でした。オンライン研修になったことによって、研修後、病床でその日の午後には実践し、その様子を撮影して動画を送ってもらい、更にその様子を確認し指導ということが可能になりました。常時その繰り返しができたことが素晴らしかったです。

来日いただくことは非常に重要ですが、選ばれて来日した方が現地で妬みを受けるということもあり、オンラインとなり裾野が広がりました。院長なども実践に加わっていただくこともできるようになりました。また、これまで協力いただいた助産師、母子保健専門家の方々が東京、アメリカ、北九州など分散していますが、事業運営に協力を得られました。地理的な問題無く最適な人材に協力していただける利点もありました。直接の指導できない点はマイナスだと思うので今後はハイブリットを検討したいです。

中村氏:国際協力のあり方が変わるような気がします。訪問しないとできないということではない、オンラインの技術があり信頼関係があればということですね。

矢澤さんより先ほどの「やさしい日本語のメール配信」について詳しく教えてください。

矢澤氏:緊急情報の配信が基本です。市には従来から多言語のコロナ情報など、入管などから有益な情報が集まりますが、発信できる環境が無かったので、サービスの開始で伝えたい情報が外国人に届きやすくなりました。元々日本語で配信していたものにやさしい日本語情報も追加した形です。メール自体は一文や二文で、狙いは市のホームページや多言語情報に誘導することです。HPは自動翻訳で十分とは言えませんし、多言語でのメール配信がベストかもしれませんが、費用がかかります。今回は無料だったこともあり迅速に対応できました。

中村氏:今回参加している学生さんより、関心があるが、国際協力や自治体の取り組みに中々参加しにくいというご質問が来ています。若い人を取り込む工夫を教えてください。

田内氏: 団体のプラットフォームとは別に、個人で入会できる松山市SDGsサポーターズクラブを作っています。プラットフォームの分科会活動が進んだとき、個人と団体をマッチングする仕組みを作りたいと思います。

竹内氏:地域に色々なNGOがあるので、インターン、アルバイト、ボランティアをしてはいかがでしょうか? 関わることで参加すると興味が沸いて、学生さんが何人もモザンビークに行っています。「トビタテ留学JAPAN」プログラムも利用されてはと思います。今すぐは海外に行けなくても、NGOから学ぶこともできると思います。留学生との交流もできると思います。心が動く国や活動を調べてみてください。外務省のNGO相談員事業も活用してください。

矢澤氏:みなこいワールフェスタでは県の看護大学の学生さんや、高校のボランティア部にもお声がけしています。訓練所では、毎年グローバルユースキャンプを行い、大学生を集めて国際理解教育、語学速習プログラムがあり、全国各地から参加が可能です。勇気を出して、是非一歩を踏み出して欲しいです。スタッフもボランティアで関わっているので、ワクワクしている大人と関わるのもよい体験だと思います。

中村氏:看護学校の学生さんからも企業と関わる方法について質問が出ています。

北原氏: 私たちは学生さん、若い世代と関わりたいと強く願っており、できるだけ発信し、イベントによびかけていますが、中々届かない点が課題です。JICAとの連携も重要で、個人的にも協力隊OBOGと繋がり、かれらと小さなプロジェクトをたくさん起きていくといいなと思っています。教育委員会が強く関わって後押ししてもらえるので、JICA、教育委員会、看護大学との協力を更に深めていきたいです。

中村氏:皆様ありがとうございました。まだまだお話を伺いたいのですが、時間となりましたのでここまでといたします。

駒ヶ根市、松山市の活動を引き続きウォッチしていただきたいと思います。また、両市で皆さんたくさんの仕組みを上手に使って連携されています。素晴らしい活動をご紹介いただきました。是非、参加されている皆さんも仕組みを上手く使って地域で国際協力やSDGsを推進いただければと思います。