第22回自治体とNGO/NPOの連携推進セミナー 開催報告「国際協力で地域活性化 ~海外と日本の学び合いで地域づくり人づくり~」

国際協力で地域活性化
~海外と日本の学び合いで地域づくり人づくり~
SDGs目標11:住み続けられるまちづくり 目標17:パートナーシップで目標を解決しよう

主 催:一般財団法人自治体国際化協会(市民国際プラザ)

日 時:令和元年8月9日(金) 13:30~18:00

場 所:(一財)自治体国際化協会 大会議室  
      (東京都千代田区麹町1-7相互半蔵門ビル1階)

参加者:45名(自治体、地域国際化協会、NGO/NPO、JICA、企業、研究者、学生等、関係者) 
      講師・クレア職員・当日運営スタッフ含60名

※ セミナー報告書 全文はこちらからダウンロードください

【プログラム】


第一部

13:30-13:40

【開会挨拶】

一般財団法人 自治体国際化協会 常務理事  舩山 範雄

13:40-14:00

【話題提供】

「地域におけるSDGs推進の現状について」

一般社団法人 SDGs市民社会ネットワーク 事務局長

新田英理子氏

14:00-14:35

【事例紹介1

「飯田市の地域自治をモデルとしたフィリピン・レガスピ市における参加型地域社会開発の展開 ~援助する側の学びを含めて~」

長野県生涯学習推進センター 所長

木下 巨一氏

飯田市竜丘公民館 主事

新井 康平氏

14:40-15:15

【事例紹介2

「自治体として初の留職プログラムの導入について ~つくば市の事例~」

特定非営利活動法人 クロスフィールズ プロジェクトマネージャー

荒井 淳佑氏

つくば市 スタートアップ推進室 主任

永井 将大氏

15:15-15:50

【事例紹介3

「自治体とNGOの連携による外国自治体幹部の訪日高齢者施策研修

~湯河原町と野毛坂グローカルの事例~」

湯河原町役場 参事

内藤 喜文氏

野毛坂グローカル シニアコンサルタント・代表

奥井 利幸氏

15:50-16:00

自治体国際協力促進事業(モデル事業)紹介

一般財団法人自治体国際化協会 交流支援部 経済交流課 主査

新野 梓

はじめに

(一財)自治体国際化協会 市民国際プラザでは、自治体等とNGO/NPOの連携・協働の促進を図ることで、より多くの連携事業が生まれ、国内外の課題解決に繋がることを期待し、自治体NGO/NPOの連携推進セミナーを継続的に開催しています。国際協力をテーマとする本年のキーワードは「双方向の学び合い」です。国際協力は先進国から開発途上国への貢献という一方向の活動と捉えられがちですが、自国の「あたりまえ」が実は「特別」であることの気づきや、日本とは異なる環境に身をおくことが支援する側の大いなる学び、そして人材育成に繋がる可能性もあります。実際にそうした効果を目的とし、双方向の学びを目指した取り組みも成果を上げています。

第22回自治体とNGO/NPOの連携推進セミナーでは、地域の活性化や持続可能性とSDGsについて概観した後、3つの事例―①公民館や住民自治の仕組みをフィリピンの農村に根付かせ、参加型地域社会開発に取り組んだ飯田市、②NPO法人クロスフィールズによる「留職プログラム」(社会課題に取り組む新興国のNPOや企業とともに課題解決に挑み、リーダー人材育成と新興国の社会課題解決を同時に実現することを目指すプログラム)の自治体での初の導入、③野毛坂グローカルによる途上国と日本の学び合いを通じた 「誰一人取り残さないまちづくり」 の実践を目指して、「国際協力」と「日本のまちづくり」両方を行う取り組み-を紹介し、国際協力による双方向の学び合いや人材育成の可能性、地域資源の再発見による地域活性化について考える機会としました。

◆話題提供 「地域におけるSDGs推進の現状」

新田英理子氏

一般社団法人SDGs市民社会ネットワーク 事務局長 新田英理子氏

本日のセミナーは国際協力と地域の持続可能性に関する事例紹介がメインとなっている。そこで、冒頭で日本と地域におけるSDGsの現状を聞いていただくことがセミナー全体の理解につながると考える。1990年以降地球規模課題解決のために様々な取り組みがなされて来たが、日本、世界、地球の持続可能性が問われている。また、現代は、GAFAに代表されるように、企業セクターの力が増大しグローバルに影響を及ぼしている。そうした現状に対してSDGsは世界のバランスを改めようとする動き。SDGsの特徴は測定可能であることで、日本は2017年、2018年共に15位(※)。日本政府は優先課題を決めて、ジャパンSDGsアワードや、SDGs未来都市などの創設により日本型SDGsモデルの発掘、日本モデル作りを目指しに取り組んでおり、9月の国連総会でも発信予定である。自治体もそれに政府の動きに連動して動いている部分もある。日本での取り組みはESDの流れ、国際協力・MDGsの流れなどがあり、それら先行的な進め方が地域の中で「まちづくり」という文脈で少しずつ下りてきて浸透してきている。また「災害」や、在住外国人との共生がSDGsと共に捉えられている。 Society5.0イノベーションの力で地域を変える構想も中小企業の後押しをしている。ただし、これは未来の話なので、今日は是非、事例を聞いて個々に考えて深めていてだきたい。 ※ベルテルスマン財団とSDSNによる測定

◆事例発表1 「飯田市の地域自治をモデルとしたフィリピン・レガスピ市における参加型地域社会開発の展開 ~援助する側の学びを含めて~」

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長野県生涯学習推進センター 所長 木下巨一氏

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飯田市竜丘公民館 主事 新井康平氏


飯田市は、参加型地域社会開発(PLSD:以下PLSD)の枠組みが理想的に展開されているモデルととらえられ、1998年よりJICAが実施する途上国向けPLSDの現地研修を受け入れている。この受入れがきっかけとなり2005年より飯田市の行政及び市民が連携・参画し、JICA草の根技術協力事業を開始。この取組は飯田の地域自治の仕組みをモデルに、フィリピンのレガスピ市に参加型地域社会開発の理論と実践に基づき、暮らしに密着した地域に住民自治の仕組みを根付かせ、それを基軸とした自律的で持続的な地域社会開発を目指した取り組みである。これにより内発的な開発の手法が成功し、レガスピに住民自治の仕組みが根付き発展を見せている。2019年2月に第3フェーズが完了。現地に派遣された公民館主事は、現地の熱意溢れる人々、Community Development(CD)ワーカーから触発を受け、また、日本を離れることで地域の取り組みの意義、素晴らしさを客観的に見る視点も持つことができた。今後飯田においても加速する少子高齢化等による地域自治機能低下においても、レガスピの実践からPLSDの実践的手法を学びその知見を飯田の実態に即して活用することで地域自治の活性化につながる可能性を期待している。

◆事例発表2 「自治体として初の留職プログラムの導入について ~つくば市の事例~」

荒井淳佑氏

つくば市 スタートアップ推進室 主任 永井将大氏

永井将大氏

NPO法人クロスフィールズ プロジェクト・マネージャー 荒井淳佑氏

2011年創業のクロスフィールズの基幹事業「留職」。社会課題に取り組む新興国のNPOや企業と共に、本業を活かして課題解決に挑むことで、スキルではなく、マインドセットを変える原体験をもたらすプログラム。約40社の大企業で導入されてきたが、自治体として初めてくつくば市が導入し、職員を2名派遣した。自治体職員は利他精神や公益を追及する視座を強く持ち、現地への貢献への大切な要素であった。市職員として参加した永井氏は障害者支援業務に従事した経験を活かして、2人のMBAホルダーが創業した障害者雇用に取り組むインド・チェンナイの社会的企業に派遣。実務経験を活かして障害者雇用に関する日印米英の制度を比較調査し、日本の障害者雇用施策を紹介し、日系企業との関係を拡大し、障害者雇用に関する新モデルを提案した。中々実績に結びつかなかったが、創業者からの学び「Learning by Doing」、経験から学んだ「自己開示による信頼関係の構築」、個人的な体験によるモチベーションの向上などを経て成果につなげることができた。従来は、「法律、条令、前例、制度、予算」などに縛られていたが、帰国後は自治体職員としての誇りを再認識し、社会課題の宝庫、職員の力が課題解決への原動力になり、全国に同じ志を持つ仲間がいる自治体職員として働くことの素晴らしさを再認識することができた。インドでの学びを可能な限り市役所での業務に、つくば市の未来のために活かしている。

◆事例発表3 「自治体とNGOの連携による外国自治体幹部の訪日高齢者施策研修~湯河原町と野毛坂グローカルの事例~」

内藤喜文氏

野毛坂グローカル 代表 奥井利幸氏

奥井利幸氏

湯河原町役場 参事 内藤喜文氏

観光立町として発展している湯河原町は、2016年に設立された野毛坂グローカルの働きかけに応えて2018年末から4回に渡り、タイの自治体の取り組む高齢者施策の研修目的で来日したタイの自治体首長、管理職、国家公務員、大学教員などを各回30~80名の規模で受入れ、高齢者介護の現場や健康増進活動の紹介、意見交換会などを実施した。湯河原町側にも、町民の国際交流への機運の醸成、町職員の国際活動・理解の深化、インバウンドへの取り組み、国際協力・交流への発展に結びつきはじめている。また、町内高齢者関係施設への訪問により施設スタッフへのプラスの効果もあったことから、今後も同事業の継続を予定している。今後はクレアモデル事業へ申請を予定し、インバウンド観光の推進なども組み合わせ、高額な予算はかけずに工夫をしながら総合的な国際協力・交流、インバウント施策の推進を行う予定である。 野毛坂グローカルは、国際協力を通じて日本・途上国双方に貢献しての共生の地域コミュニティづくりを目指している。途上国と日本のコミュニティを地域比較すると、タイの場合日本と類似点と相違点があるが総じて類似性も多い。途上国の経験から日本の地域づくりに学べる部分も多いと考える。国際協力活動においては、野毛坂グローカルは途上国の自治体や大学、政府機関、NGOとの関係を構築し日本の自治体や関係機関とのマッチングを行っている。また、タイからの訪日研修の実施やまた、タイへ出向いての地域づくり支援をしている。 湯河原町とタイの先進自治体のブンイトー市の覚書締結にもつながり、今後も海外と日本の連携促進、学び合いによる地域づくりの支援を継続、拡充したい。

◆自治体国際協力推進事業紹介 一般財団法人自治体国際化協会 交流支援部 経済交流課 新野梓主査

自治体国際協力推進事業紹介を紹介しました。

◆パネルディスカッション

新田:パネルディスカッションでは、サブテーマが「海外と日本の学び合いで人づくり地域づくり」なので、地域の持続可能性を考えるにあたり、少子高齢化も問題になったり、それぞれどう継承するかも問題になるのと思います。皆様からの質問を絡めながら議論いただきたいと思います。財源に関する質問も受けています。SDGsのゴール11や16により強く貢献している事例として紹介されていますが、それ以外にもどのような広がりがあるかということ。そして、最後に連携、協働がどう進んでいるかお話いただきたいと思います。

・新田氏:会場からの質問ですが、「取組が公民館とは違う、世代育成につながる小中学校への取り組みの広がりはありますか?」

→木下氏:レガスピプロジェクトを通した日本側の世代継承という意味でのメリットというのは特にありません。2月で一旦プロジェクトは完了しました。今後は、レガスピ市の自主活動に任せつつ任意で訪問などしていく予定です。レガスピでは最初に水道管理の自治組織を作っただけでしたが、第一フェーズ終了後、その後環境問題も行政と交渉して解決するまでに至っています。相手の内発的主体性にまかせつつ変容していくことを待つつもりです。この事業とは別に私たちのNGOとしては高校生をカンボジアに派遣するプログラムを行っています。次世代育成は何よりも大事だと思っています。高校生は一番変わる時期だと思います。トレーニングし、1週間カンボジアへ派遣しますが、自分の地域を振り返るために海外に派遣します。まず自分の地域のことを伝えられるようになることが大切です。

・質問:フィリピンは災害大国であるが、その視点での学びはありますか?
→木下氏:私たち側の学びではなく、レガスピ市側の学びについてお話しします。レガスピ市には火山被害がありますが地域の自治組織を育ててきたことで災害後の復旧や行政側の支える仕組みが援用できたと聞いています。災害大国のフィリピンですが、レガスピ市は災害にも対応できる組織づくりができているということで、近辺からの視察受け入れなどもしているそうです。
→新井氏:公民館の仕組みは、人が育たないと活かされていかないものです。交流を続けることで、鑑効果というか、人づくりのサイクルに細く長く繋がっていくのがよいと感じます。

・新田氏:会場からの質問です「公民館は地域によって受け取られ方が違う。飯田市においてはどのように地域で公民館をとらえているのか?」
→木下氏:この事業の言い出しっぺの方は今年で86歳になります。この方は公民館の草創期のことも知る方ですが、レガスピ市の取組を「戦後草創期の公民館を見ているようだ」と現地で評してくれました。飯田市には戦前から自由教育や自由大学という主体的な学びの歴史があり、文科省からの呼びかけで公民館の設置運動は始まったと言われますが、飯田や長野県の場合は、その前提に地域内発的な下地があったととらえています。もう一度、地域の人たちが自分達の力でまちをつくるということが必要になっているのが東日本大震災以降の時代ではないかと思います。

・新田氏:湯河原町はどうですか?
→内藤氏:湯河原は地域会館が各行政区内にひとつあります。あくまで地域自治の推進の中で運営しているが、一番の課題は老朽化、予算措置が追い付かない。せっかくあっても、使用者、使用方法が限られてきていると感じます。SDGsの時代になり日本は先進国でアジア圏より有利ではありますが、今後核家族、平成の中で逆輸入する時代がくるのではないかと思います。

・新田氏:奥井さんはタイからなぜ80人ものタイ自治体首長を何度も日本へ連れてこられるのか等、ご自身の経験紹介してください。
→奥井氏20年以上JICAでプロジェクトコーディネーターの仕事をしていました。その業務のうち大きな部分は人と人をつなぐ仕事です。その中でノウハウが身につき、ネットワークもできました。またJICAの業務の醍醐味でもありますが、政策立案から地域コミュニティの住民まで様々なステークホルダーと関わりました。そのようなご縁がネットワークとなって今につながっています。当時は人の縁について考えていたわけではありませんが、若いうちの縁がこれほど大切になるとは思ってもいませんでした。若い人に助言があるとすれば、皆さんも縁を大切にして欲しいです。

→荒井氏:内発的主体性は非常によいキーワードと思います。国際協力においても肝の考え方だと思います。留職でも、永井さんが帰国した後に成し遂げられたというのがうれしく思います。長期的なインパクトを出すという意味では、時間軸の考え方などを派遣先団体に植え付けて行くことが大事で、我々も伴走する上で大事にしている考え方です。その意味でも、連続して留職者を送ることはせず、還元してもらってから送るようにしています。

・新田氏:会場からの質問です。「留職の費用はどなたが負担していますか? 可能であれば金額を教えてください。企業や自治体はどうのように予算を組んでいますか? 個人の金銭的負担はありますか?」
→荒井氏:金額は非公表です。個人負担ではありません。派遣元の負担です。つくば市は税金なので、市民への義務として新聞で金額を公表している。ただし行政金額プライスです。

・新田氏:質問「永井氏今もインドとつながっているか。共に活動などしているか?」
→永井氏:Facebookでつながっています。具体的な案件を持っているわけではないが、困った時に何か相談できる状態にはいます。派遣先団体とは自治体の中でのインド熱が高まっているので、その文脈を取り入れて自治体の企業のインド進出やインドの人材を日本へ連れてくるなどを検討しています。市役所内の朝礼を英語で実施しています。

・新田氏:クロスフィールズの派遣者との信頼関係性はどのように作っているのですか?何人の人とやりとりされているのですか? クロスフィールズの皆さんは十分な給料をもらっているのですか?

→荒井氏:参加者の安全性については命を預かる関係性であるので、信頼関係が前提となります。はじめの一週間は現地でフォローし、その後は週一回面談、派遣者のコミュニティを作っており、アフターフォローもしている。
お金を稼げるNGOは好きです。お金を稼ぎながら社会インパクトを出すNPOクロスフィールズに魅かれました。ソーシャルセクターでそのような波を起こしていきたいと思って活動しています。前職と比べて遜色がないと言えばうそになるが、やりたいことができています。

・新田氏:新井氏は、公民館職員という身分で、市役所の職員としてお給料が保障されている。日本の中で社会教育主事という資格を持っても、自治体に雇用されていること自体が日本全体ではちゃんと保障されていない。資格や思いがあってもできない。飯田市ではコミュニティワークに従事される方の身分保障については考えられているのでしょうか? 市役所の職員として配置されたのですか?

→新井氏:市役所の職員として配属されました。生活の中に入らせてもらって一緒に活動する。5年で終わりです。20代中旬が多く、何のために仕事をするのか、地域の人々の暮らしのために行政があることを学ぶために送り出されます。
→木下氏:長野県「しあわせ信州創造プラン2.0」で学びと自治の力で拓く新時代を掲げています。社会教育をしっかり地域の中で根付かせることがこれからの長野県にとって大事というメッセージです。

→新田氏:クロスフィールズさんは、社会教育主事など日本の制度を飛び越えた形で提案し、制度などが無くても実践している例だと思います。クロスフィールズさんは現場の声、やりたい思いの中から、新たな学びを得ている。のだと思います。奥井さんの場合はタイで実践されていることの中から湧き上がってきているニーズをほりおこしておられると理解しました。

・新田氏:成功するためのポイントは? 課題は?
→奥井氏:こうすればうまく行くというのを一言ではあまり言えないのですが、一点特に思っていることは、日本と途上国ではスピード感が異なる点です。民主的プロセスをあまり経ない裏返しともいえますが、途上国の意思決定速度がはやいということです。例として、タイの首長らに日本の町内会の取り組みを説明したことがありますが、ざわめきが起きました。急で危険な階段を3年かけて直したという町内会長の説明に対して、「危険な階段をなぜ一カ月で直さないのか?」という疑問がタイ側から呈されました。日本はよくいえば民主主義でもありガバナンスがきいているので時間がかかります、途上国はよく言えばスピーディ、悪く言えば独裁ともいえます。その両者を何とか調整するのが自分の仕事だと思っていますし、湯河原町さんには町内の風通しもよく前向きに対応いただいたので感謝しています。

→荒井氏:途上国は仕組みに対する考え方が違うことを認識することもコーチングしています。そもそも違うということを理解し、身をゆだねすぎない。留職のプログラムは派遣元の要望をひとつひとつオーダーメイドで対応しており、現地への貢献と人材育成としてのインパクトを両方だしていくというプレッシャーはあります。

新田氏:留職は最初からカチッとしたプログラムなのですか? 今が完成形なのですか?
→荒井氏:未完成です。留職という言葉の中身は空っぽで、一回一回テーラーメイドで創り上げています。開発途上国の小規模NGOに大事な社員を派遣させてもらう。両方の按配をしっかりとらえながらやっている。だからこそ意義があると思います、

→永井氏:コーチングは週一回やるがすごく疲れる。前例はあるが、答えのないことを対話するので。社会が変化していく中で答えが無い、世界の出来事が見えていくなかで新しいことにチャレンジするマインドセットが大切なのではないでしょうか。

→木下氏:最初にレガスピ市を訪れて驚いたのは、政策の意思決定の仕組みについてです。市長室の前には市民の長い陳情の行列ができていました。つまりレガスピ市では市民が自治体の長に直接陳情し、その場で市長が陳情の採否を決めて、担当部局に指示をするということが日常であるということです。フィリピンでの自治の仕組みは形としては民主的ですが、代表を選んだあとはその人に任せてしまう、お任せ民主主義です。私たちのプロジェクトの意味は、決定のプロセスに参加する仕組みづくりをお手伝いしたことにあります。

・新田氏:・新田氏:地域づくりは時間がかかります。地域を課題にするな。という当事者の声もあります。それぞれの方が進めるスピードの違い、受け取りのスピードの違いについてどうお考えですか?

→奥井氏:町内会のようないわゆる地縁型団体と、課題解決型NPOのような(子育て支援、高齢者支援など)テーマ型団体の連携や関係が上手くいってない例は残念ながら少なくないと思います。その理由のひとつはスピード感の違いがあると思います。町内会では年単位で物事を考えます、企業やNPOではもっと素早く判断しています。野毛坂グローカルはその中で地縁型団体とうまく連携できている団体だと思います。
日本の町内会に「スピード感をもってやりましょう」と言っても嫌われる、またメンツもあります。だからと言って地域の中で解決すべき課題は多い。そんなとき、「海外ではこうしている事例があります、また国連ではこうしています」、など情報を共有すると、身近な事例から学ぶよりも素直に聞ける部分があるようです。また、海外から来られた方に町内会の人が説明をすることで、説明を通じて学び、気付きは確実にあると思います。

・新田氏:留職では大企業をターゲットしていますが、スピード感が違う点はありますか。商社から転職されたので、あまり違和感はありませんか?
→荒井氏:小さい組織はスピード感、機動性が無いと生き残っていけないと思います。もはやメールも使わずメッセンジャーを使っています。だからこそ速さ、機動力が一つの売りになっているのではないでしょうか。

・新田氏:海外から学んできたからというのがありましたが、職場で、あるいは先輩から仕事のやりがいについて言われていたかもしれないが、海外だから学べたことはありますか?
→永井氏:市役所でも入ったばかりの頃は学ぶことばかりでしたが、8年務めて慣れてきて学びは薄れてきました。新しいことを知ると自分へのモチベーションにもなり、モチベーションを高めた経験が、いろんなことをインプットしたいということに繋がっています。

→新井氏:私は外を見たから近くを見られる、理解できるようになった。灯台下暗しで、足元は見えづらいと思います。組織の中で色々あるがそれでもやるというモチベーションは地域の人とのかかわり、仲間、先輩がいてこそだと思います。

→荒井氏:派遣元も参加者から学びを得ています。慣れの連鎖が社会課題を連鎖させていると思います。途上国では下痢で死んでしまう子どもがいる。彼らにとっては当たり前。私たちが社会課題と言っているだけ。職場の慣れの延長に社会課題があるのではないかと思います。

・(フロアからのコメント・質問)タイからの参加者:NPOで違う国の人が一緒に働く難しさや経験を教えてほしい。
→奥井氏:NGO/NPOと政府機関が協働する困難さは、海外であっても日本であってもそう変わらないかと思います。工夫して一歩ずつ進むしかないと思っています。むしろ、私個人的には途上国での経験が長いので日本人と働く方にストレスを感じることが多いかもしれません。マインドセットが変化しすぎているかもしれません。話がずれましたが、色々な国で働いてきましたが、結局は人なので、人と人の関係性が重要だと思います。論理だけでは人は動かないし信頼感も増さないと思います。
→荒井氏:タイの社会的企業はたくさん知っている。目指している指標が企業とはNPO違うと思います。企業も社会インパクトを指標にしてきていると思います。ソーシャルセクターとビジネスセクターが近づいていると感じています。

・新田氏:そろそろ最後になりました。地域の持続可能性、地域づくり、人づくりについて言い残したこと、などお話ください。連携について大切なこともお願いします。

→木下氏:新井さんの話の通りですが、世の中にある役割には全て意味があり社会にかかわりがあると思います。逆に行政がなぜやるのだということを問われている。NGOや企業ができないことを学び、そこを横からフォロー・寄り添い、支えることが大切だと考えている。飯田市町はダイバーシティだと言っています。飯田市はクリエイティブな場所と捉えている。そんな場にどれだけ自分達が身をおけるかが持続可能性の大事なポイントだと思います。

→荒井氏:永井さんを前に言ってよいのか分かりませんが、自治体の職員の派遣が現地貢献となるか確信はありませんでした。しかし、プログラムを通じてわかったことは、つくば市の永井氏は自治体職員の方の利他精神、公に資するというマインドセットがかなり強く、民間の高いスキルの方に引けを取らない高い現地へのインパクトがありました。今後もどんどん連携していきたいと思いました。

→奥井氏:いつも考えていることとして、最後に私のお金についての考え方をシェアさせていただきます。町内会などでの地域活動というと以前は無償ボランティアとのイメージがありました。定年退職後のボランティア、専業主婦のボランティアなどです。けれども、今は歳をとっても働けるまで働く、専業主婦も少なくなっています。それもあって、コミュニティの働き手が少なくなっています。そのため、コミュニティにおいて担い手も正当な対価をいただき地域のために働くソーシャルビジネスの志向をしている人たちがいて、そのような活動に100%賛同しますし、私もそのようなあるNPOの理事もしています。その上で、野毛坂グローカルとしての活動は無償ボランティアに担い手を頼る共生のまちづくりを目指して尖がって活動をしています。目指す形がどのような形になるのか、それはまだまだまだチャレンジですが。
もう一点ですが、私はJICAで長く技術協力に携わってきましたが、その極論の目的は技術協力する必要なくなることです。野毛坂グローカルも僭越ながらそんなことを考えており、たとえば、今回湯河原町さんとブンイトー市が野毛坂グローカルの仲介で繋がりましたが、いつまでも私が間にはいるのでなく、湯河原町とブンイトー市が将来的には直接おつきあいしていくことを期待しています。 収益事業としてではなく、無償で事業を行う野毛坂グローカルだけからこそそういうことを言えるのだとも思っています。

新田:三者三様ということご理解いただければ幸いです。最後に大きな拍手をお願いします。

・閉会
日本のNGOの歴史は40年間です。更に遡ると日本は被援助国でした。アメリカ政府、NGOから助けられ、世界銀行からお金を借りて新幹線を建設し、そこから20年でトップドナーになりました。今はまた下降はしていますが、援助国、被援助国は関係無いと思います。お互いに学び合い、グローバルな共生社会をどうつくるかが課題です。私も今日は、飯田市、つくば市、神奈川県湯河原町から大変学びました。今後NGO・NPOとの連携が重要になってくると思います。1人1人ができることがあるということを是非持ち帰っていただきたいと思います。 これからも市民国際プラザではセミナーを行いますので是非参加してください。