仙台多文化共生センター(宮城県仙台市) (多文化共生 / 生活相談・外国人コミュニティ支援 / 災害)

「地域に飛び出す市民国際プラザ」 団体活動インタビュー

◆仙台多文化共生センター(宮城県仙台市/20207月13日ZOOMオンライン)

 201961日(土)、仙台国際センター交流コーナーの窓口業務が拡充される形で、仙台多文化共生センター(仙台観光国際協会が運営)が新たに「開設」されました。それから、1年の歳月が過ぎました。現在、同センターの職員の方々は、多言語による充実した相談対応、専門相談会の開催、通訳サポートの提供など、多文化共生の地域づくりのための様々な事業に取り組んでいます。今回、市民国際プラザでは、同センターの運営や相談対応業務に従事されるセンター長の菊池哲佳さん(仙台観光国際協会)から、相談事業の概要や他団体との連携・協働状況などについて、幅広く、お話を伺いました

※外国人支援の会 OASIS による相談対応。


1. 仙台多文化共生センターの相談事業について

 仙台多文化共生センターに寄せられる年間の相談件数は2019年度で4,050件(日本人2,176件、外国人1,526件、外国人対応者348件)。延べ入室者数で換算すると、19,823人(日本人13,606人、外国人6,217人)にものぼります。

 来訪者の方から寄せられる相談内容の種類について伺うと、菊池さんからは「本当にちょっとした問い合わせから、離婚やDVの問題といった深刻な内容まで様々」という回答が。例えば、日本人の方々から「外国人向けに日本語ボランティアを実施したい」という前向きなお話を頂くほか、「冬の雪かき当番について近所の外国人居住者に説明したい」というご相談を受けることも。また、市役所や区役所の職員の方々から、医療制度や年金制度に関する外国人住民向けの説明での通訳依頼を受けることもあります。

 そして、深刻な相談内容が職員の皆さんに届くことも。菊池さんたちは、仕事を失い、今後の身の振り方について途方にくれている方からのご相談や、所属先での人間関係に深く悩み、わらにもすがる思いで、同センターの門を叩いた方からのご相談を受けたこともあります。前者の場合、同国出身の支援者の方をご紹介したところ、当面の間、相談者の方を助けて頂くことに。後者の場合、多言語対応が可能な法律関係の事務所をご紹介し、その方々にご対応頂くことになりました。

 こうした、様々な方々からのご相談について、菊池さんは、「完全な問題解決に至るまでの手助けができたのか、解決の方向へと進んだのか、分からない時もある」と、率直に私たちに語りました。しかし、そうであっても、菊池さんたち職員の皆さんの姿勢は揺るぎません。相談者の方々の悩みを聞き、その方々が抱える問題の解決に貢献できる人々へと、同センターを介して「つなぐ」ことに、菊池さんたちは努力し続けます。そのことは、菊池さんの以下のご発言から、明らかです。

 「どのような相談内容であっても、お手上げで対応しない、ということは決してない。もちろん、相談者の方々が抱える問題の解決に、本当につながったのかどうか、分からない時もある。ただ自分たちは、相談者の方々の悩みに少しでも寄り添い、問題の解決に一歩でもつながるよう、全力をあげている」

 もちろん「いま」センターをご利用いただく方のみが、菊池さんたちの業務の対象ではありません。支援を必要としても、仙台多文化共生センターの存在を知らない方々、あるいは訪問を躊躇してしまう方々も、たくさんいらっしゃることが想定されるからです。1人でも多くのお困りの方々から相談を受けるために、菊池さんたちは、同センターの活動内容の啓発に努めます。留学生向けの生活オリエンテーションといった催しの機会で相談窓口について説明したり、あるいは、同センターに関する外国人・行政機関向けのチラシやリーフレットなども配布したりしています。

 このアウトリーチの問題について、菊池さんも悩んでいます。私たちからの問いかけ―支援の輪に繋がっていない人々をどのように繋げるのか―に対して、菊池さんは「永遠の課題。非常に難しいし、悩ましい。答えが出ない」と率直に述べてくれました。それでも、心は決まっています。菊池さんは「地道に活動し、少しでも周知に努力し、理解の輪を広げ、1人でも多くの方々をつなげるしかない」と考えています。

 仙台多文化共生センターにおける菊池さんたちの相談業務は、常勤7名でシフトを組み、土日・祝日も対応しています。2019年度の開館日数は339日。月に1度か2度、センターとしての休館はありますが、原則毎日、外国人の方々への対応が可能とのこと。スタッフは、日本人職員のほかに、外国人の相談員の方々も在籍。ベトナム、韓国及びネパールの方がそれぞれ週1回で勤務するなど、多言語での相談体制も構築されています。

 他にも、仙台多文化共生センターは、定期的に専門相談会を実施しています。弁護士、税理士、労働局、出入国在留管理局、行政書士などの方々にも、月に1回から2か月に1回程度の割合で、同センターの相談対応に入って頂いています。ならしてみると、ほぼ毎週誰かしらの専門家の方が、センターで相談業務に携わっている計算になるそうです。菊池さんは、法律関係の問題を考える上での言語の障壁を指摘します。

 「やはり、言語の問題があると、法律関係の相談がしづらいというのが実情。仙台多文化共生センターでは、専門家の方々が相談事業に携わることで、少しでも、リーガル・アクセスの敷居を下げたいと考えている」


【ご参考】
・仙台多文化共生センター 相談・情報カウンターは コチラ から。

2. 他団体との連携・協働状況について

 次に菊池さんから伺ったお話は仙台多文化共生センターが連携・協働する主な機関・団体について。「非常に多岐にわたる」とのことでしたので、あくまで「一例」としてご提示いただいたのが、まずは「外国人支援の会 OASIS (Open Assist & Support In Sendai)」。

 外国人支援の会 OASIS は、仙台多文化共生センターの前身施設である仙台国際センター「交流コーナー」の開設当初から一緒に活動する団体。19919月に「仙台I.V.ネットワーク相談支援部会」として設立されたので、約30年もの歴史を有しています。仙台多文化共生センターの「相談・情報カウンター」を、菊池さんの所属元である仙台観光国際協会のスタッフの方々と共同で運営するほか、同行通訳支援である「付き添いボランティア」にも、年間およそ100件もご対応頂いています。保育園の入園や公営住宅の説明会、運転免許関係などに関することが多いそうです。

 OASISに所属される方の人数は10名程で、対応言語は英語と中国語。菊池さんによれば、年間100件は、同行通訳支援にご協力頂くとのこと。現状は、新型コロナの関係で活動に制限がかかり、また依頼数自体も少ないとのことですが、派遣回数と頻度から、コロナ前のご活躍ぶりが、窺われます。菊池さんからも「OASISは会員の方々の経験が非常に豊富。我々としても本当に頼りにしている」とのご発言が。いうまでもなく通訳業務は、ただ言葉を機械的に右から左に訳せばよいわけではありません。言語間で意味やニュアンスが異なることもあれば、相談者の方の抱える文化的背景や個人的状況によっても大きく影響を受けます。30年ものご経験に裏打ちされた OASIS のご活動。仙台市の誇る、大切な市民活動の1つです。

 そして、仙台多文化共生センターには、ボランティアの「SenTIAコミュニティ通訳サポーター派遣」制度があります。菊池さんは「行政窓口に、外国の方々が来訪した際に、コミュニティ通訳サポーターの方々にコミュニケーションのお手伝いをお願いする」と述べます。OASISでは英語と中国に対応していますが、こちらは、タガログ語やネパール語といった言語にも対応可能な方々が在籍します。

 次に菊池さんから伺った団体名は「にほんごのもり」。200211月に設立され、こちらも約20年の歴史を誇ります。「にほんごのもり」は仙台多文化共生センターで週2回の日本語教室を開催しており、毎回30名から40名程度の外国人が参加するとのこと(なお、現在は活動を休止中。詳しくは下記記載の同団体ウェブサイトをご確認下さい)。ボランティアの方々が、会話や学習の支援を行う日本語教室は、それ自体非常に重要なものです。そして同時に、日本語学習者が、菊池さんたちの相談窓口に訪れることも。もともと窓口に来るつもりはなくても、日本語を勉強しているなかで、ふとしたことで自分の悩みと向き合うことになり、菊池さんたちに話を聞いてもらい、問題の解決に繋がった事例も。なにがきっかけとなって悩みを抱えている方と「つながる」のか、分かりません。日本語教室もまた、つながっていない人をつなげる、大切な機会の1つです。

 また、菊池さんから、在仙台ベトナム人協会(SenTVA/セン・ティー・ヴィー・エー)というベトナム人のド・バン・トゥアン氏が立ち上げた団体についても、お話を伺いました。仙台多文化共生センターを拠点に、土日にベトナム語教室と日本語教室を開催しています。前者は日本の方が中心に、後者にはベトナムの方が中心に参加する関係で、日本語・ベトナム語の学習を通じた相互交流に従事するほか、新型コロナ禍で生活困窮する人びとへの食糧提供、住居提供などの活動も行っています。


【ご参考】
・外国人支援の会 OASIS は コチラ から。 
・にほんごのもりは コチラ から。 
・在仙台ベトナム人協会(SenTVA/セン・ティー・ヴィー・エー)は コチラ から。


 他にも、新型コロナ関係で生活が困り果て、支援を求める人々を助けるフードバンク仙台には、場所や多言語情報等を提供する協力関係にあるとのこと。また、外国にルーツを持つ子どもたちを対象とする「外国人の子ども・サポートの会」という団体も、同センターにとって重要な連携先です。

 行政機関や関係組織との連携も大切です。例えば、(公財)宮城県国際化協会との連携。菊池さんによれば「基本的には、宮城県国際化協会が仙台市以外の宮城県域をカバーし、同センターが仙台市を守備範囲する」とのこと。しかし、高校進学支援といった教育分野では共催で事業を実施し、また医療通訳分野(外国人支援通訳サポーター)に関しては、宮城県国際化協会からの支援を仰ぐように、分野や地域ごとに協力することもあるそうです。仙台市との連携については、交流企画課が同センターの所管元。同課を通じて、周知依頼や情報提供のほか、行政内での調整にもご協力頂いているそうです。

 多岐にわたる様々な問題。1つの組織だけで解決することは、現実的とは言えません。市民団体、行政、外国人コミュニティ、様々な機関・団体が協働することで、仙台市では、多文化共生の1つの形が作られていきます。

3. 新型コロナ禍での仙台多文化共生センターの事業について

 このことについて、菊池さんは率直に「仙台多文化共生センターの活動に新型コロナが与えた影響は大きい」と述べます。仙台市でも、3月ぐらいに外国住民の方のクラスターが発生し、菊池さんたちも、多くの方からの連絡を受けることになりました。「感染した外国人住民と一緒に居た方、つながりのある方、あるいは感染したかも知れないと不安に感じる方からの連絡が多かった」とのこと。多言語情報はもちろんですが、新型コロナ自体の情報が少ないなか、無理はありません。菊池さんをはじめとして、同センターの職員の方々とつながることが、どれだけの相談者の方々にとって心の安心となったのか、想像に難くありません。

 新型コロナ関係の相談窓口となった宮城県の健康電話相談窓口は、宮城県と仙台市が共同で運営する組織。しかし、当初は外国人対応ができていなかったため、菊池さんたちが、担当職員と外国人相談者との間に入り、3者間通話を行ったそうです。また菊池さんたちは、PCR検査の実施機関や保健所などで、来訪する外国人の方々へのコミュニケーション支援にも携わりました。

 こうした初期対応が落ち着き始めた頃、今度は、生活苦や家賃問題といった、新型コロナの感染拡大が引き起こした社会問題への対応に、菊池さんたちは駆り立てられることになります。一番多く寄せられた相談内容は、社会福祉協議会による生活福祉資金制度による緊急小口貸付等の特例貸付。いいかえれば、学費が払えない、家賃が払えない、食べるものに困っている、といった生活困窮に関するご相談が、多く寄せられたのです。他にも、PCR検査や「感染したかもしれない」と不安に感じる方からのご相談も、多かったそうです。

 なかには、誤報も含まれていました。上記で取り上げた社会福祉協議会の特例貸付は、給付ではなく、一定の金額を申請者に貸し付ける制度。しかし、外国人コミュニティの間では「貸付」ではなく「給付」という噂が広まっていました。そのため菊池さんたちは、外国人の方々からの問い合わせの際には「これは借りるものであり、いつか返さなくてはならない」と説明しました。

 菊池さんによれば、例年春先には、粗大ごみの処分の手続き、水道料金の減免手続き、免許の切り替えといった、生活手続きに関するものが多く、同センターまで寄せられるそうです。しかし、今年は新型コロナ。そして、社会不安や生活不安を反映した内容が、菊池さんたちのもとまで、届きました。多文化共生センターとしても、5月までは電話や電子メールでの相談対応を実施し、また市民活動スペースの貸出などを休止したそうです。

4. 防災と外国人支援について

 最後に菊池さんから伺ったお話は、菊池さんが専門とする災害時における外国人支援の問題。市民国際プラザがインタビューを行った時期は、九州地方を襲った「令和27月豪雨」の直後。このことについてお話をふると、菊池さんからは「災害時の外国人支援というと、他の支援活動とは異なるもの、という印象を受けるが、決してそのようなことはない」というお返事が。そして、菊池さんは、以下のとおり述べます。

 「災害直後は、確かに特別な対応が求められることもある。しかし、その後は、少しずつ日常へと戻っていく。つまり、福祉、教育、生活など、我々が日常的に支援している問題が必ず浮上する、ということだ。災害時の通訳ボランティアとて同様である。被災者から寄せられる相談内容は本当に様々。災害対応についての専門性が必要な問題も確かにあるが、文化、習慣、生活のことを、幅広く理解する知識を身に着ける必要がある」

 加えて菊池さんが強調したいことは、日ごろからのネットワークの形成に基づく信頼関係の構築。外国人という区分から、文化や言語の違い、という側面に着目される傾向があります。しかし、菊池さんは、とりわけ緊急時では、避難を誘導する人と避難を誘導される人との間に、前もっての信頼関係が構築されていることが大切だと主張します。

 「なにかの災害が発生し、その場所から離れなければならない状況があるとする。その際に、例えば「高台に避難」という日本語が難しいので「高いところまで逃げる」という簡単な日本語表現を用いることが推奨される。しかし、自分は、例えば「手をつかんで逃げる」という単純なアクションもまた重要だと考える。たとえ言葉が通じなくても、手をつかまれた人が、手をつかんだ側の誘導に従う、そのような関係を構築できていれば、災害時でも非常に心強いのではないか」

 菊池さんがご指摘したとおり、新型コロナの感染拡大以降の災害発生は、まさに「複合災害」そのもの。地震対応だけでなく、水害対応も喫緊の課題となっている状態です。そのなかでの外国人支援。日本には「備えあれば患いなし」ということわざがありますが、日常からの備え―物資備蓄や体制構築、信頼関係の構築―を目指していく必要があると感じました。

 他にも、菊池さんからは、多文化共生分野の「次」に向けたお話(後進の育成、専門職の確立など)についても伺いました。すべてをご紹介できないのは残念ですが、これからも相談事業でのご活動を中心に、菊池さんたちの活躍は続きます。

※仙台多文化共生のセンター入口です。