外国人ヘルプライン東海②(愛知県名古屋市)(多文化共生 / 生活相談・外国人コミュニティ支援)

「地域に飛び出す市民国際プラザ」 団体活動インタビュー

◆外国人ヘルプライン東海 (2020723日@ZOOMオンライン)


 相談対応、通訳派遣、書類翻訳、研修などの分野で日々、外国人の方々への支援に尽力する外国人ヘルプライン東海。今回は、同団体の代表を務められる後藤美樹さんから、オンラインでお話を伺いました。実は市民国際プラザでは、2019919日にも後藤さんにインタビューをさせて頂きました(過去のインタビュー記事は コチラ から)。あれから約1年。現在の活動状況や課題について、ご紹介させて頂ければと思います。



※外国人ヘルプライン東海が実施する相談会※

◆外国人ヘルプライン東海と活動状況について


 外国人ヘルプライン東海は、もともと厚生労働省の「よりそいホットライン事業」で集まった仲間の有志で立ち上げた、外国人支援のための任意団体です。事務局5名のほか、通訳、翻訳、相談に従事するボランティアの方々が80名ほど在籍し、日々活動を行っています。登録ボランティアのなかには、外国人ヘルプライン東海だけでなく、(公財)愛知県国際交流協会などの他団体にも登録し、幅広く活躍されている方々もいらっしゃるとのこと。

 後藤さんは「ボランティアの方々の熱意は様々な形で現れる。当団体だけでの活動では足らず『ボランティアをもっとやりたい』という方もいらっしゃれば『もう少し通訳としての経験を積みたい』という方も在籍する」と述べます。様々な方々の熱意を可能な限り尊重すること、これが外国人ヘルプライン東海の基本方針です。続けて後藤さんは「市民一人ひとりが、自分のペースで自分らしく活動してもらえれば、うれしい」と言います。

 外国人ヘルプライン東海の主な事業は、まずは外国人相談、通訳の派遣、書類の翻訳。そして、多岐にわたる様々な研修-通訳者のスキルアップ、外国人の困りごとへの対応方法、外国人の実情や支援の重要性、具体的な支援方法を行政に伝える啓発活動など。外国人向けの相談事業は、定例としては月1回。他に電話相談を毎週火曜日、木曜日、土曜日に受けつけています。対面形式だけでなく出張相談の形式も取っています。英語、日本語、中国語、ネパール語、ベトナム語、ミャンマー語などの多言語対応も可能です。

 相談者の方々は、過去の相談者からの紹介や通訳者からの紹介などを経て、外国人ヘルプライン東海の門を叩きます。また留学生系の方々は外国人同士の口コミで来訪する印象とのこと。時には(公財)名古屋国際センターなどからの連絡を受け、相談対応をする事例もあります。外国人ヘルプライン東海を知る入口は本当に様々。ですがやはり課題も。繋がっていない人を如何に繋げるのか、アウトリーチの問題です。後藤さんは「もっと頑張って広報して、少しでも当団体の相談事業を知って欲しい、相談の種類に制限はない。どのような内容であっても対応する」と思いを込めて語ります。

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【ご参考】

※同団体の活動内容について、より詳しくお知りになりたい方は、あわせて下記をご確認下さい。
Gaikokujin Helpline Tokai - 外国人ヘルプライン東海
 フェイスブック・ページ: コチラ から
・外国人ヘルプライン東海の紹介ページ
 (特活)名古屋NGOセンター・ウェブサイト: コチラ から
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新型コロナ禍での諸活動とその影響



 次に伺ったのが新型コロナの影響。今年度のインタビューを実施するにあたって、この問題を避けては通れません。外国人の方々から寄せられる相談件数について後藤さんは「急増という状況ではない」と言いながらも「着実に増加している」と懸念を示します。また後藤さんは相談員の立場として名古屋国際センターの相談対応事業にも参加しました。相談内容については、総務省の特別定額給付金や新型コロナの感染拡大に伴う労働問題に関する事例が多いとのこと。後藤さんは「日本人の方でも厳しいのに、外国人の方なら、なおさら不安が強いと思う。少しでも手助けしていきたい」と述べます。


 他にも影響を受けているのが、外国人ヘルプライン東海が実施する通訳者の研修事業。もともとは3回シリーズでの企画。対面式で実施しても良いのか否か悩みはつきません。後藤さんの希望は対面式。研修とは、知識を共有することだけが目的ではないからです。ワークショップといった実践的な側面もあれば、受講者同士の交流も行われます。どのような職業であれ、職務を遂行するにあたって悩みはつきもの。お互いがお互いの悩みを共有し、支援者同士がお互いに「寄り添うこと」も、支援者たちが長期にわたって躍動頂くには大切なポイントです。親しい人に聞いて欲しいことも、詳しくは知らない方だからこそ、相談できることも。そして、その分野の専門家だから、その職務の専従者だから、分かることもあります。後藤さんは、新型コロナ対策を図りながらも、こうした機会を失わない形での研修の実施を試みています

 今年度、新型コロナ禍でも大きく変化したことは組織基盤の強化。20199月の取材で伺った際に後藤さんは「全員がボランティアであるため、どうしても事務局業務が追いつかないことが課題」だと述べました。今年度は、事務局員として、有給スタッフやパートタイムスタッフの雇用を開始できました。また(公財)アジア教育福祉財団より、ミャンマーから愛知県名古屋市への第三国定住難民の受け入れ支援事業を受託したことも活動に影響を与えました。具体的には対応言語にミャンマー語が追加されたこと。難民の方々に、少しでも日本での生活に慣れて頂き、日本での生活に生きがいを感じて貰えるよう、後藤さんたちはきめ細かく対応しています。それでも新型コロナの影響は、少しずつ団体経営にも影を落とします。後藤さんは「今のところ深刻な影響はないが、今後更に影響が出る可能性を懸念」しています。

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【ご参考】
※上記で言及したアジア教育福祉財団の定住支援については、
 同財団ウェブサイトの該当ページ(「難民とは」)をご確認下さい。
 アクセスは コチラ から
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◆多文化共生における言語の意味について

 最後に後藤さんから伺ったお話は、コミュニケーションの一環としての言語の問題。現在、外国人の方々との主な言語上のコミュニケーションの手段は、日本語とやさしい日本語、そして外国語(通訳、翻訳など)の3つ。団体としての外国人ヘルプライン東海は、このうち外国語に重きを置く諸活動に特徴があります(もちろん、日本語とやさしい日本語も重要な要素です)。そのなかで、あえて伺ったのは通訳や翻訳の意味です。

 もちろん、この質問には、外国人ヘルプライン東海を始めとする様々な諸団体の活動を否定する意図があるわけではありません。通訳や翻訳は非常に重要です。ただ、なぜその方の言語で説明する必要があるのか。そこにはどのような思いが込められているのか。今回のインタビューの最後に伺ったのは、外国人ヘルプライン東海として活動する後藤さん個人の思いです。

 市民国際プラザから、このことについて問いかけると、後藤さんはすぐに「私たちはコミュニケーションを大切にしている団体」と答えてくれました。続けて後藤さんは、以下の通り、おっしゃいます(少し長い引用文となりますが、後藤さんのご発言をそのまま掲載し、今回のインタビュー記事を終える形とさせて頂きます)。

 「相談者の方々が日本語ではなく母語で自分の話をする。いいかえれば自分の慣れ親しんだ言語で自分自身の悩みや課題を最大限に表現してもらう。このこと自体が、コミュニケーションとして本当に重要な行為だと考える。多くの外国の方々にとって日本語を母語のように表現するのは簡単ではない。相談者のなかには日本語が不得手で、自分の本当に言いたいことを表現できず、そのためにストレスを感じてしまう方もいらっしゃると思う。

 自分たちは直接、相談者の方々の課題を解決できない。自分たちができることは、課題を抱える人々と課題の解決を導けるかも知れない人々を繋ぐこと。それしかできない。ただそのなかで、少しでも相談者の方々に自分の言葉で自身を表現してくれれば、と思っている。そのための社会支援を行える団体として、自分たちは在りたい。

 日本国内で生活を営む外国人の方々のなかには、残念ながら社会的な権利が保障されてない、人権保障を得られていない人々もいる。新型コロナの感染拡大とともに、外国人の方々の状況は、さらに厳しくなった。日本国内で受けられる様々な社会的な権利や、人として受けられる様々な権利に関する情報は、日本語表現だけでは十分とは言えない。その国の方々に深く理解してもらうには、その国の言葉であった方が良い。自分たちの言語で、きちんと理解して貰い、そこからやっとスタートする。自分はそのように考える」

※実際の相談会の様子※