令和3年度 地域国際化ステップアップセミナー(オンライン)

令和3年度 地域国際化ステップアップセミナー(オンライン)

報告書 

「地域国際化ステップアップセミナー報告書」PDF版
※当日回答しきれなかった質問への回答はこちら


令和3年度地域国際化ステップアップセミナー

「これからの地域の国際化、地域発の国際協力と地域づくり~アフターコロナに向けて考える~」

主 催:一般財団法人自治体国際化協会 市民国際プラザ

日 時:令和4年2月2日(金)1330分~1630

形 式:ZOOMウェビナー

参加者:147

(自治体、地域国際化協会、NGONPOJICA、大学教員、学生、企業等) 

<プログラム>

13:30-13:40


挨拶・主旨説明  一般財団法人 自治体国際化協会 
交流支援部長 山中 浩太郎


13:40-13:55

導入講義 「これからの地域の国際化、地域発の国際協力と地域づくり」
公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 
アドボカシーヘッド 堀江 由美子 氏


13:55-14:20

事例紹介1 
「国際協力の先に見据える経済面での繋がり ~北海道滝川発、モンゴルのアグリビジネス振興プロジェクト」
一般社団法人滝川国際交流協会 参与 阿部 孝志 氏
プログラムコーディネーター ナンザド ガンチメグ 氏


14:25-14:50

事例紹介2 
「長野県佐久市とタイ、チョンブリ県における町ぐるみ高齢者ケア包括プロジェクト」
学校法人佐久学園佐久大学社会連携・研究支援センター客員教授 束田 吉子 氏
客員講師(元佐久市福祉部長) 坂戸 千代子 氏


14:50-15:15

事例紹介3
「カンボジアにおけるスポーツを通じた開発 ~岡山からの草の根支援と交流」 
認定特定非営利活動法人ハート・オブ・ゴールド 事務局次長 井上 恭子 氏



15:30-16:30

パネルディスカッション及びQ&Aセッション
モデレーター  堀江 由美子 氏
パネリスト   阿部 孝志 氏、 ナンザド ガンチメグ 氏、 束田 吉子 氏、
        坂戸 千代子 氏、 井上 恭子 氏

導入講義
「これからの地域の国際化、地域発の国際協力と地域づくり」

公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン アドボカシーヘッド 堀江 由美子氏

 

セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン(以下SCJ)に勤務し、この10年は国際的な政策提言活動に力を入れている。2015年から家族で愛媛県内子町に移住し、地域の良さと課題の両方を感じながら、仕事ではグローバルな課題に関する政策議論に関わっている立場から話したい。地球がこのままでは持たないという危機感からSDGs2015年に国連で採択されたが、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、もともと脆弱な立場に置かれていた人々が最も大きな影響を受けており、SDGsの後退も懸念される。国際的な研究機関発行の2021年版報告書によると、日本のSDGsの取り組みは165か国中18位であり、特にジェンダー平等が著しく遅れている。日本は一般的に平和だと言われるが、実際には深刻な相対的貧困、根強い差別、児童虐待が毎年過去最高を記録しているといった現状がある。日本は世界第4位のODA大国である一方で、支援分野や内容に課題もあり、市民社会からは脆弱性の高い人や国に対する基礎社会サービスへのアクセスや貧困削減、人道支援、民主化や法の支配、市民社会の参画につながる無償支援の増加を求めている。

世界の課題と日本の課題を同時に取り上げたが、グローバル化の進行した世界では、コロナや世界的な気候変動の影響が示すように、地球規模の課題と我々の足元の課題はつながっている。日本の少子高齢化は日本の持続可能性における深刻な課題であるが、課題先進国である日本の今後は世界が注視していると言える。不安定、不確実な世界において地域発の国際協力の意義を4点あげたい。1国と国の関係を超えた交流による平和構築。平和を脅かす緊張関係が世界の各地で見られ、日本も緊迫した状況に取り囲まれている。政治や外交を超えてローカルからローカル、民間レベルでつながり、連帯の輪を広げることは重要である。権威主義的な国では市民社会への弾圧が見られるが、市民が活動できるスペースを広げることが重要となる。2対等なパートナーシップによる相互の学び。地域レベル・民間レベルでは支援者と被支援者といった固定化した関係性ではなく、それぞれの強みを持ちより、対等なパートナーとして共に学び合い、共通課題に取り組むことで様々な気づきや価値が生まれる。実際に途上国で活動した経験から強く思う。3地域における「普遍的な価値」の浸透。これは国際人権規約などの基準の浸透を意味するが、国際協力で海外の人と関わることで自分の地域の課題を見つめなおすことができる。真の国際化とは、言語習得や文化の受容だけでなく、ジェンダー平等、差別が無く、誰一人取り残されず、人権が尊重されるといった、普遍的価値が地域に根付くことと捉えている。4足元の課題と世界の課題に取り組む主体的な人づくり。人口減少の波の中で、地域における人づくりは重要である。国際協力を通して多様な人々や多様な文化に触れることで、日本や地域の相対化が可能となり、格段に視野が広がると考える。若い世代を積極的に巻き込み、他者と協働しながら主体的に行動できる人づくりがますます求められている。世界の課題、日本の課題を自分ごととしてとらえられるような活動や教育をもっと地域レベルでも進める必要があると考える。

事例紹介1
「国際協力の先に見据える経済面での繋がり
~北海道滝川発、モンゴルのアグリビジネス振興プロジェクト」

takikawa

一般社団法人滝川国際交流協会 プログラムコーディネーター ナンザド ガンチメグ氏

モンゴルからの留学生として来日し、10年前からは滝川市に在住。初めは国際交流員として、5年前からは滝川国際交流協会のプログラムコーディネーターとしてモンゴル支援事業に関わってきた。滝川でのモンゴル支援は2010年白鵬関が滝川市観光大使に任命されたことがきっかけである。2011年からは(一財)自治体国際化協会の自治体職員協力交流事業(LGOTP)を継続的に活用しモンゴルから研修員を受け入れ、その後、自治体国際協力促進事業(モデル事業)を活用し、農業、自動車、建設分野の支援も実施した。2017年以降はJICA草の根技術協力事業・地域活性化特別枠を活用し、たまねぎ栽培の技術移転を行った。3年間のプロジェクトの結果として、たまねぎの単年度収穫を実現させ、生産量が増えた。成功の秘訣は、2011年からの現地との長い交流により関係が深まる中で、現地のニーズをきちんと把握することができたことが大きい。また、一連の事業を通じて滝川市とモンゴル間で様々な分野での交流が進んでいる。

フェーズ2として2020年からは5年間のプロジェクト、JICA草の根技術協力事業(草の根パートナー型)「玉ねぎの品種改良による新ブランドの確立とフードバリューチェーンの構築」が採択され、たまねぎの品種改良のプロジェクトを実施している。たまねぎの安定栽培を実現し、農民の収入向上をめざしている。1年目はモデル農園の立ち上げを行ったが、予定地はジャガイモ畑のみで、水も電気もない場所でスタートした。10年の活動を15分で説明しているので、実際には多くの課題、苦労を一つずつ乗り越えての現在であり、多くの方々の支援を得て実施している。今後も課題にぶつかりながら乗り越えて進めていくことになる。コロナ禍の工夫については阿部より説明する。

一般社団法人滝川国際交流協会 参与 阿部孝志氏 

モンゴル支援事業が実現したのは、モンゴル人のコーディネーターを採用したことも大きく、またJICAにプロジェクトが採択されたことも大きい。コロナ禍での事業の状況はJICAWebサイトを参照してほしい。

https://www.jica.go.jp/sapporo/topics/2021/20220114_2.html

国際協力、国際交流においては人と人とのつながりが大切であり、コロナ禍で工夫はしているが、直接的な交流の必要性を改めて痛感している。前述の通り本プロジェクトの基盤が整いつつあるので、今後は現地の人々と共に魂を入れる活動になる。専門的な人材による直接的な指導によって、実際に示して見せながら、事業終了後のイメージを現地の人に伝えることに努めている。共に活動してくれるメンバーを増やすには、成功体験を積んでもらうことが重要であると考える。

滝川国際交流協会は行政から独立した組織であることが特徴。人口4万弱のまちで国際交流が盛んな理由としては、市の総合計画に「世界に誇れる国際田園都市」を将来都市像として掲げているためである。海外から受け入れた研修員やJETプログラムの実績は統計のある1997年以降100か国から約1800人に上る。コロナ禍では、JICA課題別研修や高校生の海外との交流をオンラインで実施しており、外国人への食糧支援プロジェクトを(公財)北海道国際交流・協力総合センター(HIECC)との連携で行っている。文化庁の地域日本語教育スタートアッププログラムで地域日本語教室も立ち上げた。日本語のできる外国人を増やすことは、地域社会との接点を増やし、主体的に活動する人を増やすことに繋がると考える。支援者育成のためのやさしい日本語講座も開催している。新たに国際交流員のオンライン交流セミナーも開始した。

滝川市の人口減や産業の継続性を考えると、外国人の存在はこれからも大きくなる。海外での外国支援の輪、足元の外国人支援の輪、共に外国人を含めた地域コミュニティの意識づくりをしっかりもって地域づくりを行うことが将来を見据えた活動や交流につながると考えている。

事例紹介2
「長野県佐久市とタイ、チョンブリ県における町ぐるみ高齢者包括ケアプロジェクト」

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学校法人佐久学園佐久大学社会連携・研究支援センター客員講師(元佐久市福祉部長)坂戸 千代子氏 

佐久市では2015年から『ジャパンブランド「健康長寿」推進事業「SAKU Health-care model」』を開始した。地域の強みを生かし、健康長寿の国内外の発信により、地方創生の実現、超高齢化社会を乗り越えるモデルを世界に広げるための海外からの研修員受け入れと、海外展開の推進、保健医療関連産業の活性化を目的としている。

背景として佐久市では、1960年代まで脳卒中の死亡率が高いという課題があったが、行政、医療、地域連携による保健予防活動の成果により地域に改善の変化が見られた。こうした佐久市の取り組みが国際協力に活かせるとの気づきから本プロジェクトに発展した。日本では佐久市、佐久大学、市立浅間総合病院、佐久総合病院、近隣の高齢者施設・病院等がOne Teamとなり、タイではサンスク町、バンセン市、ブラパ大学、ブラパ大学病院、近隣の私立・公立病院によるOne Teamが形成された。佐久市への波及効果としては、市民への本プロジェクトの紹介や市民の啓発、プロジェクト関係者については多職種が関わり、プロジェクトのオーナーシップが生まれた。また、各自の経験をタイで伝え、共に課題を考えることで、自己研鑽となり応用力、分析力、指導力を持つ専門家として成長するなどの成果がでている。

学校法人佐久学園佐久大学社会連携・研究支援センター 客員教授 束田 吉子氏

JICA 草の根技術協力事業 地域活性化特別枠として2016年より第一フェーズ「タイ、チョンブリ県における町ぐるみ高齢者ケア・包括プロジェクトサンスク町をパイロット地域として」を開始した。佐久大学がブラパ大学で実施した「国際看護論演習」で地域の高齢者ケアの実情を見たことがプロジェクト立案の契機となった。先行調査によりデータを収集し、JICA草の根に申請、現在は第二フェーズを実施中(2020年~2023)である。

タイでは国の高齢者福祉政策の整備に先立って高齢化が進行するという課題がある。介護保険も国民年金も無く、高齢者支援の主体を家族と位置づけ、それを国家が保障支援するという仕組みになっている。地域の高齢者介護の担い手は、家族と、日本の民生児童委員にあたる「ヘルスボランティア」である。プロジェクト開始の2016年当時タイでは「健康に老いる」という意識が低く「寝たきりがつくられている」こと、訪問ケアが体系化されていないこと、住民は世間体も意識し在宅ケアを強く希望していた。保健医療分野の人材と施設も不十分で公的な高齢者施設が無いこと等が課題であった。サンスク町で高齢者ケアを担う看護師はわずか8名。不足する人的リソースを補うためヘルスボランティアに着目し、看護師をサポートする存在として彼らの能力強化を図ることとした。日本の専門家の協力を得て、佐久市で看護・介護・リハビリテーションに関する研修を行い、帰国後、地域の高齢者の全戸訪問による現状把握が行われた。日本の取り組みが様々に応用され、一例として日本のハザードマップを参考にした高齢者の介護度区分ごとの高齢者マップ作成などがある。

プロジェクトの成果としては、日本のチーム医療の強みをタイへ伝承していることである。介護記録用紙の整備による多職種による記録の開始、従来タイでは考えられなかった高齢者、患者、家族の希望を聞くなど介護の質も向上している。以前は良い介護=全てを介助だと思っていたが、患者の残存機能を維持する介護、待つ介護が必要だと気付いたとの声が寄せられた。個別事例では日本の専門家の尽力で、脊髄損傷で寝たきりの高齢者が座れるまでに回復するなど成果を上げた。その他に、佐久市が古くから取り組む健康啓発の「病院祭」をタイでも開催し、住民の健康への意識啓発に努めてきたが、2020年からコロナ禍で開催できていない。

ヘルスボランティア、患者本人や家族へのアンケート結果も効果を裏付けている。保健分野の施設と人材についても、高齢者ケア施設が初めて設置され、ヘルスボランティアは469名に上った。サンスク町長はヘルスボランティアから看護師、医師までがこのプロジェクトに取り組んでいることに驚き、佐久市長は国際協力の現場で浅間総合病院と佐久総合病院の医師、看護師が一緒に協力している。佐久市では見られないことである。専門家は、自分たちのやっていることが、役に立って嬉しく、楽しいという声や学会等でも活動を積極的に発表している。

事例紹介3
カンボジアにおけるスポーツを通じた開発 ~岡山からの草の根支援と交流

認定特定非営利活動法人ハート・オブ・ゴールド 事務局次長 井上 恭子氏

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ハート・オブ・ゴールド(以下HG)では、スポーツを通じた開発として体育科教育と障がい者スポーツ、青少年の自立として日本語教育と養護施設運営を行っている。今日は体育科教育支援について発表する。最初のきっかけは、HG代表である元オリンピックメダリストの有森裕子がカンボジアのマラソン大会に招聘されたことである。このマラソン大会をとおして、カンボジア教育省が体育科教育やスポーツの重要性に気づき、カンボジア政府から協力要請を受け、JICA草の根等を活用して支援を継続してきた。2006年から小学校体育科教育支援を開始し、その後中学、高等学校の体育科教育に移行、2022年現在は国立体育・スポーツ研究所体育科コースの4年制大学化のプロジェクトと、小中高の一貫した体育科教育支援を実施している。これまでJICAや外務省の他に、岡山県や岡山市とも緊密に連携を図り助成金、補助金を得て活動してきた。2005年に岡山県の「ローカル・トゥローカル技術移転事業」を活用し、教育・青年・スポーツ省より半年間岡山に体育担当の行政官を研修生として受け入れた。彼は後に「ナショナル・トレーナー」の1人として、カンボジアの体育科教育を牽引する人材となった。

主要な自治体との連携事業は2011年「体育教育関係者短期招聘事業」と2013年から2015年の「小学校運動会実施支援事業」、(20112015(一財)自治体国際化協会 自治体国際協力促進事業(モデル事業))である。「体育教育関係者短期招聘事業」はHG提案の岡山市との連携事業で、岡山市国際課、県・市の教育委員会保健体育課、スポーツ振興課、岡山大学等、各所との調整で実施した。県内の小学校から大学まで体育授業や部活動の見学、保健体育課職員による行政の役割の説明、岡山大学では講義や教員養成システムの説明も受けた。小学校訪問時運動会を見学し、児童も運営に関わっていることや大勢の保護者が応援していることに研修員らが感銘を受け、カンボジアでの開催に意欲を高めた。2年後、運動会の協力要請を受け、HGと岡山市が調整し、岡山から専門家派遣を決めた。岡山市はESD(持続可能な開発のための教育)に関するユネスコ世界会議を控え、市役所や市民の国際協力への理解が進んでいる状況も後押しとなった。岡山大学の教員の他、岡山市教育委員会保健体育課職員と、県内小学校長2名の公務派遣が実現した。現地の体育モデル校で12月にPEフェスティバルとして開催するため、1週間前に現地入りし、困難もありながら準備を行い、当日は大成功を収めた。また、実施後は教育省を訪問し体育科教育への予算拡充等についても提言を行った。2015年の支援事業終了後も運動会開催校が増え、自立開催に至っている。更に、2016年には運動会支援に参加した派遣者が中心となり、サブナショナルトレーナーの技術向上のための招聘研修、教員から教員への実技講習会実施のための教員派遣について、岡山市からの提案を受け、再びモデル事業に採択され実施に至った。

HGでは、国内でもイベント開催、小学校から大学への国際理解教育出前授業を行い、カンボジアでの活動と共に、日本の子どもたちの豊かな心を育むために活動している。また、行政だけでなく、地元企業や市民も巻き込んだ活動を展開している。以上のようにHGは、できる人が、できることを、できるかぎり行っている。

パネルディスカッション
モデレーター 堀江 由美子氏
パネリスト  
阿部 孝志氏、ナンザド ガンチメグ氏 
束田 吉子 氏、 坂戸 千代子 氏、 井上 恭子 氏

堀江氏:パートナーと強い関係を構築し、息の長い支援をしている事例を伺った。プロジェクトの実施において、様々な関係者、ステークホルダーを巻き込んでいること、また波及的な活動に繋げていることが印象に残った。

1地域で国際協力に携わるきっかけは何か?どのように地域の理解を取り付け、地域を巻き込んでいかれたのか?

ガンチメグ氏:きっかけは2010年白鵬関が観光大使になったこと。以前からモンゴル以外の交流活動は行っており、地元短大でモンゴルからの留学生受け入れをしていたが、農業交流は白鵬関の思いにこたえることがスタートだった。その後、モンゴルとの交流が広がっていった。

坂戸氏:歴史的に佐久では海外視察の受け入れをしていたので、「海外に貢献する」という素地はあったと思う。また、地域の強みとして健康長寿、地域医療、農村医療を推進してきており、このプロジェクトへの理解もしやすく、行政の中でもきちんと説明することで理解が得やすかった。

井上氏:HGは地方自治体ではないため団体としての説明になるが、立ち上げ当初から支援者が活動に関わってくださっていた。それぞれの思いをそれぞれの形で広げてくださったことが岡山という地域を巻き込むことにつながった。HGが仕掛けたというよりは、支援者ができることを申し出てくれた。岡山市はESDが活発であったことから後押しになったこともある。岡山以外の地域でHGクラブ(長岡、福島、飯田等)があり、地域に合った活動をしている。有森が参加したマラソン大会がきっかけで支援者が生まれている。

堀江氏:きっかけは様々だが、元々地域にある強みや特性と、きっかけとなる機会があり化学反応を起こしたという傾向が読み取れる。

2取り組みの中では様々なご苦労もあると思うが、活動を継続するための工夫や、課題をどう克服されたのか、教えて頂きたい。また、コロナ禍でどのように活動を継続されているか?

束田氏:プロジェクト始める際、現地のデータが無いことが一番困った。データがなければJICA事業に申請できない。そこで申請の前年度に調査活動をした。そのためにサンスク町長とスタッフに佐久市に来てもらい行政が詳細なデータを蓄積していることを見てもらったところとても驚かれた。その後、タイ側に必要な情報を依頼できるようになった。「百聞は一見にしかず」やって欲しいことは現場を見せるとよい。

井上氏:運動会事業の際、学校の校長が欠席していたため、教頭先生以下に集まってもらったところ「運動会など本当はやりたくなかった」といわれた。よくよく話をきいたら説明が不足しており、発言者の先生が後にリーダー的存在になってもらい運動会が実施された。コミュニケーションと確認が必要。

ガンチメグ氏:JICA草の根技術協力事業は一つ一つの事業がスムーズに実施されているように見えるかもしれないが、パートナー型スタートまで3年を要した。提案書作成だけで1年以上かかっている。現地をずっと待たせてきたところでコロナとぶつかってしまったが、どうにかして今できることを始めようという思いで継続している。みんなで工夫ししながらやってきた。渡航規制の中モデル農園の設置に苦労した。乗り越えた今だから話せるが、農業は時期を逃すと年の栽培ができなくなるため、必要な物資の調達、移動規制などに悩まされた。あらゆる手を尽くして工夫して進めてきた。

堀江氏:新しいことを始めるのは非常に大変だ。データ整備、初の運動会、モデル農園の設置など、新たな取り組みでエネルギーを要する中でコロナ禍も重なり様々な苦労があったはず。

オンラインの利用など、コロナ禍での工夫について何か補足はあるか?

井上氏:HGでは派遣者を帰国させ、ローカルスタッフしかいない状況になった。従来は日本人から言われたことに応える形になっていたことがよくわかった。オンライン会議では直接見えないことをどう説明すればオンラインで理解を得られるかを考え、先読みができるようになり、ローカルスタッフが非常に成長した。コロナでマイナス面が強調されるがプラスの面も大きかった。

束田氏:オンライン研修に変更し、思考錯誤中である。当初はオンラインだからとヘルスボランティア100人規模で実施したが満足度が低くなったので、その後少人数で試行している。ただし、リハビリテーション、介護分野の演習はオンラインでは伝わりにくい部分があり、対面研修の方が良い。そのような中、SDGs推進の流れで長野のセイコーエプソン社からプロジェクター提供のオファーを受けた。この小型プロジェクターをタイの現場でどのように使うのか日本側の演習が終了したところである。色々なよい取り組みが波及している状況である。

ガンチメグ氏:コロナ後どうなるか、今の計画のまま実施できるのか心配である。コロナ以降、更に大変になる可能性があるため、今できることは今やる。

堀江氏:コロナ禍の在り方は学びの過程にいる。オンラインで世界が小さくなるメリットもあるが、直接会えないため新たな関係性の構築は難しいと感じる。コロナの終息が見えない中でどうして克服するか課題であると思う。

3地域発の国際協力によって地域で得られる意義やメリットにはどのようなものがあるか? また、「地域の強み」を国際協力に活かす秘訣はあるか?地域づくりにつながる国際協力や、過疎地での活性化につながる取り組みはあるか?

自治体にとって今後必要となる国際協力、国際貢献はどのようなものだと感じるか? 

井上氏:岡山は新幹線が停まる政令指定都市。本部が岡山のため首都圏のセミナーは参加しづらいなどデメリットも多い。小さな都市なのでネットワークもコンパクト、顔が見え結び付きやすいメリットもあり、それを活かしている。地域の新聞も活動を取り上げてくれる機会が多く、活動を知ってもらえる。昨年JICA理事長表彰をうけた際も紙面に大きく取り上げてもらい、お祝いのメッセージをいただいた。堀江氏の言われる通り、各人が対応なパートナーだと感じる。国際理解授業を受けている生徒もカンボジアのカウンターパートも皆対等なパートナーであることが大事だと思う。

阿部氏:テーマが大きく今回の事業だけでなく協会の取り組みから感じていることを話す。コロナ禍で動きがとまっているが地域振興を考える際に外国人の受け入れは必須と考えている。日本語教育スタートアッププログラムを始めた。町内会役員に外国人へのアンケートをしたところ、「地域住民として特別視することは無い。地域に溶け込んで普通の生活をしてもらえればよい。外国人日本人問わず地域社会に貢献してもらえる人には更に活躍してほしい。課題は外国人も日本人も同じ」との回答。特別視していたのは自分だったと教えられた。

滝川では1995JICA青年招聘事業開始しスリランカの青年教師を受け入れた。農業では2000年マラウイ研修事業を始めた。最初から受け入れが進んだとは言い難い。当初は国際交流協会の関係者に受け入れてもらった。滝川の農家の苦労がアフリカに役立つ技術だったことや、研修員の真面目に努力する姿に共感してもらい支援の輪が広がり、長い歴史と共に今に至っている。人と人との関わりが大きかったと30年を経て感じる。

国際協力は技術や知識を提供するというイメージが強いが、実際には外国の方から学び教えられることも多い。

地域の強みを活かす秘訣があったら私たちも教えて欲しい。最近は支援の際にメリットや短期間で成果を求める傾向があり残念でならない。種をまかないと実らない。できることを地道に一歩ずつが私たちの考えである。

坂戸氏:事業を通して佐久の少子高齢化が進行し、介護力が低下していることを目の当たりに感じてきた。タイとのやり取りの中でタイ側は技術を学び、我々はタイの人とのつながり、日本で失いかけているものを知ったことが成果として大きかった。決して技術だけの提供ではなく相手国から得るものもたくさんあることを学んでいる。佐久の健康長寿、地域医療をタイの方に直接見て、触れて、感じてもらうのが何よりもの学習になっていたと感じる。行政としても国際貢献、協力の事業を行うことが役割であると思う。地域の活動の根底には市民、国民の安全、暮らしやすさがベースにあって色々な活動が展開されている。常に基本に立ち帰りながら活動することが、国際的に貢献することが自分たち自身のためになると感じる。

堀江氏:短期的なメリット、成果を求めることもあるかと思うが、それだけではない、地域における息の長い交流による多文化共生社会に向けた取り組みになるという意識が必要と感じた。地域における外国の方の存在がこれからますます重要なテーマとなると思われ、学ばせてもらうところが多いと感じた。内子に居住して6年、行政、企業、教員もみな町民、住民として課題に共に取り組みやすいと感じる。メディアにも取り上げてもらいやすい。国際協力は、国内で外国の方々とどう共生していくのか考えるきっかけにもなると感じる。

参加者からの質問

・事業に関わっていない市民が、事業から得た影響、学んだこと、実施前と後で意識の変化があったか? 外国人の方への意識や行動の変化があったか?

阿部氏:直接かかわっていない方がどう感じているか答えるのは難しいが、20年の間に1800人が一時滞在し、夏にアフリカから10数名1か月滞在することが日常の姿になっている。海外の高校生と地元の高校生をマッチングさせる事業もあり、直接関わる生徒と間接的に関わる生徒がいるが、その後の長い人生の中で影響はあるだろう。また、交流が増えれば進学先への視野が広がるという実態もあるため、少しずつ地域の住民に浸透していくのではないかと思う。

束田:タイのプロジェクトであるが、佐久には日本人と結婚したタイ人の方々がボランティアとして協力してくれている。関わっていない日本人もパネル展示等で活動を知り、コメントをもらうこともある。何等かの市民への周知の役割も果たしていると思う。

井上氏:活動に関わっていない多くの方からも活動支援の依頼や、紹介を受ける。カンボジアからの留学生がHGを知り、なぜ日本人がカンボジアでボランティアをするのか不思議に思い、実際に参加したが当時はピンと来なかった。その留学生は、現在岡山で貿易会社をしており、コロナ禍で現地に物資の持ち込みが難しくなった今、輸送に協力してもらえるようになった。カンボジア人が日本で、カンボジア人のために活動するというケース。すぐには影響が無くても、知ることによっていつかボランティアにつながるケースもある。

堀江氏:直接の影響でなくても波及効果、変化につながっていくことが多いと自分自身も感じている。

・移住者が地方で国際交流に関わりたい場合 地元の学校や海外の学校を繋ぐなど。一般の住民もあるかもしれない。移住者、住民 国際交流、協力に関わりたいときどうした入り口があるか?

阿部氏:学校間交流の質問であろう。地元の学校がどんなところと交流したいのかによる。ハードルを下げながら交流を行うには(一財)日本国際協力センター(JICE)のJENESYS事業などはアジアの青少年と地域の青少年が手軽に交流でき、着手しやすい事例。また、各市町村では姉妹都市をもっているところが多いので、そこを足掛かりとして相互交流できる学校を見つけていくことも可能ではないか?

束田氏:佐久では行政が国際交流フェスタを開催している。佐久大学もブースを出しており、海外から佐久市に住んでレストラン経営する方、NGO、日本語教室の方々などが出展をしている。多くの子どもや興味のある人が訪れている。そうした場に出向いて自分に合った活動を見つけるとよい

井上氏:岡山県でも国際交流協会があるが、各地の国際交流協会でネットワークが探せると思う。HGにも相談があり、HGの活動に適切なものがあれば参加してもらい、他のNGOに繋ぐこともある。国際交流フェスタは岡山でも行っている。

堀江氏:内子にも国際交流協会がある。地域でキーとなる団体や機会に足を運んで情報を入手するとよいのではいか。

・事業の継続には欠かせない資金調達。補助金、助成金の情報はどこから入手しているか?

井上氏:HG(特活)国際協力NGOセンター(JANIC)の会員なので、メールで随時情報をもらっている

阿部氏:事業ごとにパートナーが違うが、自分たちから探すもの、紹介してもらうものもある。横のネットワークからなど、多種多様なところで事業資金を得ているのが実態。

束田氏:国際協力事業には資金がかかるのでJICAのネットから申請書の情報を得ている。横の繋がりからも情報をもらうこともある。三菱、トヨタ、味の素などといった企業や財団の助成金もネットから情報が得られると思う。

堀江:ネットや地域の国際交流協会、クレアなどに情報を取りに行ってもらうことで様々な情報を得られる。

最後に一言ずつコメントをいただきたい。今後の展望や他地域へのアドバイスがあればお願いしたい。

ガンチメグ氏:ありがとうございました。少しでも役に立てる経験があればよいと思います。コロナ禍ですが、今やれることは今やる、後でできることは後回しにしましょう。やらないと始まらない、始まらないと結果も出ないので、止まらず前に進みましょう!

阿部氏:このような機会をいただき御礼申し上げる。私たちの活動に係わっている方の支援があって発表できたことを感謝している。毎日試行錯誤の連続で、何が正解か分からないが、課題が見つかったら改善する日々。今回をご縁に、様々な実践をしている方々と繋がりをもてれば活動が広がり成長できると思う。是非アドバイスしていただきたい。

坂戸氏:貴重な機会をいただき感謝。早くコロナが終息し従来の活動ができることを願っている。この活動を通して、人とのつながりが重要と感じる。タイで一緒に活動している方々もまるで親子、兄弟、親戚のように感じながら取り組んでいる。これからも人とのつながりを大事にしながら活動したい。

束田氏:身近に看護・福祉の学生がいる。若者たちに佐久の地域は世界とつながっていることを感じてもらいたい一心で取り組んでいる。また、今回他の地域で活動している皆さんの取り組みを知り、横の繋がりで、海外の研修生受け入れの場面などで相互に協力も可能ではないかと感じた。

井上氏:オンラインの良さ、リアルはリアルの良さがある。渡航できない状況で、国内でつながることも大事。このような報告機会をもらって本当に有難い。クレアのモデル事業は自治体が申請する必要があるため、パートナーとなってくださる自治体があれば是非声をかけていただきたい。HGは体育科教育以外にも、障がい者スポーツ、日本語教育、養護施設の活動を行っている。

堀江氏: 私もこのセミナーを通し多くを学んだ。コロナ禍のチャレンジはあるが、国際協力は必ずしも海外に出向くばかりでなく、地域の外国にルーツのある方々との地域づくり、コミュニティづくりにもつながり、多文化共生を育むという発展性も大きな意義ではないかと感じた。格差、差別といった足元の課題について、外との接点を持つことによって あらためて気づくということもある。こうした取り組みも広い意味で国際協力と捉えられると思った。足元の課題とグローバルな課題を繋ぐきっかけは身近なところに多くあると思う。そうした視点に気づかせてくれるということも、地域発の国際協力の醍醐味や魅力と感じた。SDGsという世界の共通目標を導入することで、課題への視点を持つ上でガイダンスや共通の物差しになるので、地域での活動に是非取り入れて欲しい。取り組みを通じて仕組みの壁や構造的な課題にぶつかることもあると思うが、地域発の生きた事例、知見、経験を提案として、自治体や国に改善や変化を求めて働きかけることも地域の活性化や自立発展性にとって重要と感じた。どのような地域に住みたいのか、どのような地域の在り方を目指したいのか、ひいてはどのような社会や世界を作りたいのか、そうしたビジョンを共有し、ビジョンの中に国際協力や、外国にルーツのある方々との関わり方を位置づけることで、地域にとって更なる意義となると感じた。

本日は貴重な機会をいただきありがとうございました。