第21回自治体とNGO/NPOの連携推進セミナー報告書をUPしました!

お知らせ

2018.09.01

多文化共生
外国人の多様性を活かし、活躍できる地域社会を目指して
~外国人集住都市・地域の成果や課題から学ぶ~
SDGs目標10:人や国の不平等をなくす 目標11:住み続けられるまちづくり

開催日:平成3083日(金) 13001720

会場:(一財)自治体国際化協会 大会議室  

      (東京都千代田区麹町1-7相互半蔵門ビル1階)

参加者数:53名(自治体、地域国際化協会、NGONPO、企業、研究者、学生等、関係者) 

※クレア職員・当日運営スタッフ含65

はじめに

(一財)自治体国際化協会 市民国際プラザでは、自治体等とNGO/NPOの連携・協働の促進を図ることで、より多くの連携事業が生まれ、国内外の課題解決に繋がることを期待し、自治体NGO/NPOの連携推進セミナーを継続的に開催しています。

21回自治体とNGO/NPOの連携推進セミナーでは、日本が多様な国や地域の様々なバックグラウンドを持つ人が生活者として、就労者として、地域社会の一員として暮らすようになり、住民の50人に1人が外国人になりつつある中、全国各地で日本人住民と外国人住民との共生を図り、安全で快適な地域社会を築く取り組みが始まっていることに着目し、多文化共生取組の先達となる外国人集住都市会議会員都市の成果や、各地での多様な担い手による取り組みを知る機会としました。

基調講演 外国人集住都市会議設立からその成果と課題について

浜松市企画調整部 国際課・専門監 原川知己氏

本日は、外国人集住都市会議の概要、浜松市における多文化共生の取り組みについてご説明します。外国人集住都市会議設立の背景としては、日本では1980年後半から所謂バブル景気による深刻な労働力不足、ブラジルでは政情不安と雇用環境悪化による日本国籍を持つ人々が日本に出稼ぎに来られ主に工場の生産ラインで働くようになりました。その後、1990年施行の出入国管理及び難民認定法の改正により日系3世とその家族の入国が容易になり、「デカセギ」のはずがやがて外国人市民として長期滞在するようになりました。輸送用機器等の製造業集積地を中心に南米日系人が急増する中、労働、社会保障、教育、外国人登録など様々な問題が生じ、定住化が進む一方、法律や制度が追い付かない状態となりました。言語、コミュニケーションの問題、ゴミ出し、夜中に大音量で音楽を聴くなどの騒音、駐車場など文化習慣の違いからくる地域のトラブル、教育に関しては不登校・不就学の問題、健康保険や社会保険など社会保障の問題、不安定な雇用形態、外国人登録など根本的な法制度の問題があり、浜松市でも一地方自治体の取組では限界となり、国による根本的な法律や制度の整備が必要となったという背景から2001年に外国人集住都市会議が設立されました。

2000年の準備会の後、200157日に浜松市、磐田市、湖西市、豊橋市、豊田市、四日市市、鈴鹿市、大垣市、可児市、美濃加茂市、太田市、大泉町、飯田市の13市町で外国人集住都市会議が設立されました。第4回会議として1019日には、東京で関係省庁の関係者に直接出席していただき公開の首長会議を開催し、宣言・提言を行いました。

設立趣旨は、地域に顕在化する様々な諸課題は広範かつ多岐にわたるとともに、就労、教育、医療、社会保障など、法律や制度に起因するものも多いことから、必要に応じて首長会議を開催し、国・県及び関係機関への提言や連携した取り組みを検討していく、こうした諸活動を通じて新しい都市間連携を構築し、今後の我が国の諸都市における国際化に必要不可欠な外国人住民との地域共生の確立を目指していくことです。

2001年に外国人集住都市会議が採択した「地域共生についての浜松宣言」です。

 ニューカマーと呼ばれる南米日系人を中心とする外国人住民が多数居住している私たち13都市は、日本人住民と外国人住民との地域共生を強く願うとともに、地域で顕在化しつつある様々な課題の解決に積極的に取り組むことを目的として、この外国人集住都市会議を設立した。

 グローバリゼーションや少子高齢化が進展するなかで、今後我が国の多くの都市においても、私たちの都市と同様に、地域共生が重要な課題になろうと認識している。

   定住化が進む外国人住民は、同じ地域で共に生活し、地域経済を支える大きな力となっているとともに、多様な文化の共存がもたらす新しい地域文化やまちづくりの重要なパートナーであるとの認識に立ち、すべての住民の総意と協力の基に、安全で快適な地域社会を築く地域共生のためのルールやシステムを確立していかなければならない。

 私たち13都市は、今後とも連携を密にして、日本人住民と外国人住民が、互いの文化や価値観に対する理解と尊重を深めるなかで、健全な都市生活に欠かせない権利の尊重と義務の遂行を基本とした真の共生社会の形成を、すべての住民の参加と協働により進めていく。

 以上、13都市の総意に基づきここに宣言する。

外国人集住都市会議の歩みについての詳細は、外国人集住都市会議のウェブサイトをご覧ください。一部ご紹介しますと200214都市共同アピールを採択、その後会員都市数も最大で29都市となり、同様の課題を抱える自治体が多数あったことの表れであり、外国人との共存に向けた全国的な取組と言えると思います。2015年に浜松市が二巡目の座長都市となり、改めて中央官庁に総合的な外国人住民に係る調整組織の必要性を提言しました。当初座長都市は2年交代でしたが、シンポジウムや会議開催の負担を軽減するため2015年からは1年交代に見直すなど運営面でも改善をしています。現在の会員都市数は15となっています。

主な提言内容と国の対応の例としては「日本語教育の充実」→日本語教育事業、「子どもの教育の支援」→外国人児童生徒のための教員加配措置、「社会保障制度整備」→日伯社会保障協定の締結、「外国人登録制度の改善」→住民基本台帳制度への移行、「防災」→多言語情報提供、「外国人庁の設置の要望」→内閣府定住外国人施策推進室の設置などが挙げられます。そして、外国人集住都市会議として、「課題解決や外国人の支援」という視点のみならず、「外国人の持つ多様性を生かしたまちづくり」という考え方に着目し、2015年に規約に追加しました。

本会議も18年が経過し、一定の成果を得たとの認識を持つ都市もいます。一方で、国の骨太の方針により更なる外国人の受入れ方針が展開される中、引き続き国と連携を取りながら現場である基礎自治体として多文化共生を進めていく必要性があると感じています。

スライド後半の浜松市の取組は参考資料としたいと思います。浜松市は依然としてブラジル人住民数が全国最多の都市であり、定住化が進んでおり、今年外国人の子どもの数が過去最高となっています。日本生まれの外国人の子供の割合も7割を超えています。市では外国人の子どもの教育にも力を入れており「不就学ゼロ作戦事業」という浜松モデルを展開しています。また、2017年にはアジアの都市として初めてインターカルチュラル・シティ・ネットワークに加盟しました。今年はSDGs未来都市に選定されました。今後SDGs未来都市として、3か年の事業計画を立てて推進して行く予定です。

<質疑応答>

1.日本語ボランティアの育成について浜松市はどのような取り組みをしていますか。

回答:外国人学習支援センターという拠点施設において、日本語ボランティア養成講座を行っています。日本語教師のサポーターとしてのスキルを学びます。受講後は、同センターの日本語教室におけるサポートや教育委員会と連携し学校現場に入っていただいたりしています。

2.外国人集住都市会議において外国人の方の声はどのように反映されていたのか、反映されていないのか教えてください。

回答:外国人集住都市会議にはブロックが3つあり担当者レベルの会議を多くて月12回行っています。それぞれの自治体が外国人の声、現場を踏まえて施策、国に対しても提言を行っています。浜松市では外国人市民共生審議会という場を設け在住外国人の方に2年の任期で参加してもらい市長に提言書を渡しています。また、浜松国際交流協会の相談窓口でニーズを把握し、当会議の提言などに反映しています。

事例紹介1 グローバル人財サポート浜松の目指す、未来を担う多様な人材の育成。

堀永乃氏

一般社団法人グローバル人財サポート浜松
代表理事 堀 永乃 氏

少子高齢化と言われますが、どのくらい労働力が足りないのでしょうか? グローバルな社会になり、移動や物流が容易で職業選択にも自由があります。日本の企業の7割が労働力不足と認識し、例えば浜松市のIT企業では日本人の採用ではなく優秀な外国人を求めている実態もあります。日本全体で見ても圧倒的に外国人労働者が増えています。

ここで日本における外国人施策の変遷を振り返ってみましょう。1980年代までは特別永住者や中国残留邦人等への対応が中心でした。1980年代からは経済大国として国際交流の推進、姉妹都市や市民レベルでの交流が推進されました。1990年代に入ると入管法が改正され「デカセギ」と呼ばれる南米系外国人の増加に伴う課題への対応が求められました。並行して経済大国として国際的な役割を果たすため開発途上国への支援が推進されました。2000年代からは外国人集住都市会議の設置等、外国人住民施策の体系化が始まり、2006年には総務省による「地域における多文化共生推進プラン」が策定されました。

外国人の受け入れには製造業の発展も関与しており、浜松市でもそのステージが変わるたびに外国人労働者が増加しています。例えば1994年にプレイステーションや携帯電話が発売、2008年にはiPhoneの発売が始まるため更に労働力が必要となりました。2009年リーマンショックでは帰国支援金制度が設けられ、外国人労働者の数は減少したものの技能実習制度を活用して外国人労働者は増えました。2010年には外国人の看護や介護分野の受け入れが開始し、2017年には技能実習制度に介護の職種が追加されます。今年、日系4世の受入れ制度が発表され2019年には「骨太の方針」として新制度が創設される予定です。そこには外国人留学生も含まれます。これまで長期的なスパンでの受入れでは無く、一時的な労働力不足を補うための受入れだったことにより問題が生じているとも言えます。留学生も増えていますが、純粋に日本語学習を目的としているというよりは、アルバイト労働者として来日しているケースも少なくありません。そして日本政府は2025年までには50万人の外国人を受け入れる計画だと言います。大変な数です。

いずれにしても、外国人財は労働力の調整弁であるべきではありません。本日ご参加の皆様には賛同いただけると思いますが、そのことを是非周囲の方々に伝えてください。そして、私たちグローバル人財サポート浜松のような存在を活用してください。

私たちは「人は地域の財産」を基本理念に活動しています。2011年の法人設立当時、既に介護の必要な外国人が浜松に70人いらっしゃいました。外国人の生産人口年齢は減少していても外国人の高齢化が進んでいることがわかりました。労働者として来日したのに認知症等で日本語も理解できず帰国できなくなっている外国人高齢者の方々を母国語で支援する介護人財が必要。その人材を育成する組織が必要であるという強い思いから設立に至りました。そのため本団体は「人々が有する国籍や言葉、宗教、文化などのあらゆる違いを乗り越えて、誰もが安らかに生命の営みができ、活躍できる社会の実現」に取り組んでいます。日本に暮らす外国人の高齢化も進んでいることから、外国人介護人材の育成を行ったり、外国人労働者を対象とした企業内日本語教室を行ったりして、外国人自身が日本でも自己実現を果たすことのできる支援を行なっています。

具体的な事業としては、自動車部品工場での企業内日本語教室、技能実習生の日本語能力試験対策講座、留学生を対象にした日本語講座(就職前支援)、技能実習生・留学生による異文化講座や、在住外国人の就労支援として外国人介護職員初任者研修、大学生による多文化共生推進活動として就学前学校体験教室「ぴよぴよクラス」として、日本生まれでお幼稚園や保育園等の集団生活経験の無い保護者と子どもを対象に、就学時の文化の壁を軽減する取り組みとして、登下校、持ち物、和式トイレ、給食など日本独自の学校生活について事前に学習してもらう機会を提供します。

フィリピンの学校支援、国際交流イベントの企画運営なども行っています。20代前半の外国人労働者と日本の学生の交流イベントとして、インドネシアで再放送されている昔の日本のバラエティ番組の企画を再現し川で遊ぶ企画なども行いました。留学生を支援する学生団体とコラボし、地元のバス会社や高齢者が運営するNPOなどの協力を得て、1週間前の告知にも関わらず120名を集めるという大盛況に終わりました。様々なセクターが集まったことで実現した企画です。私たちはあくまでも裏方であり、機会を創出し後方支援に回ることで「プレイヤー」を育てることが重要だと考えています。あらゆる人々が関わることで、コミュニケーションが生まれ、コミュニケーション能力が育まれます。良好なコミュニケーションは良好な人間関係を築くことにつながると思っています。お互いの顔が見え、対話し、相互に理解することが必要です。

企業の採用担当者に、コミュニケーション能力と日本語能力どちらを重視するか伺うと、大抵コミュニケーション能力と仰います。日本語教育が必要と声高に言われますが本当に日本語教育が必要なのでしょうか? むしろ受入れ側の意識が問題で、それを変えていく必要があると感じています。

外国人労働者を受け入れ活躍してもらうために、ステークホルダーは様々ですが、その真ん中をつなぐ役割、それぞれのセクターをよい塩梅でつなぐ役割が少ないと感じています。日本語教室も人材育成としての日本語教室でなくてはいけないと思います。私たちグローバル人財サポート浜松は、様々な課題に対してノウハウや実績をもとに、受け入れる社会と外国人人財をつないでいます。是非活用していただきたいと思っています。社会総働的に動くことでグローバル人材の育成ができると考えています。

事例紹介2 愛知県豊橋市の多文化共生施策について

藤江大光氏

豊橋市役所 市民協創部多文化共生・国際課
課長補佐 藤江 大光 氏

本日は豊橋市の定住外国人等就労支援事業の取組をご紹介させていただきますが、まずは本市の概要から簡単にご説明いたします。豊橋市は日本のほぼ真ん中にある城下町、東海道五十三次の宿場町として栄えました。愛知県といえばイメージされるのは名古屋市か、豊田市かと思います。豊橋市で有名なのは路面電車や手筒花などがあります。手筒花火発祥の地と言われており、お祭りに欠かせないものです。三河港は自動車輸出港となっており、国内外の自動車メーカーが集積しています。某海外自動車メーカーの日本本社もあります。豊橋技術科学大学の留学生や造船所をはじめとする様々な事業所で働く外国人も多く暮らしています。県内の住みたい街ランクでも5位です。前出のメーカーの方からは東京にも大阪にも移動しやすく、都会でもなく田舎過ぎずこのままでいて欲しいとのコメントをいただきました。

総人口は377,071人、外国人は16,354人で4.3%、国籍数は71か国。上位はブラジル、フィリピン、中国、韓国・朝鮮の順となっています。外国人人口推移については平成2年入管法改正以降増加し、ピーク時は2万人、平成20年リーマンショック後の帰国支援事業や東日本大震災で年々減少しましたが、平成28年からまた少しずつ増え、最近は技能実習生が増加しています。今後も技能実習生の増加が予想されますし、豊橋技術科学大学はスーパーグローバル大学支援事業に採択されており、留学生3~4倍増を目標としており留学生の増加も予想されます。

次に豊橋市の多文化共生推進計画についてご説明いたします。H213月に策定しH25年までの5年間を終え、次のH26年~30年度に入っています。「互いの国籍や文化を認め合い、誰もが安心して元気に暮らせるまちづくり」を基本理念に、4つの基本目標があり、二つの施策方針、目標指標を設定し54事業を実施しています。これからご説明する定住外国人等就労支援事業はH28年度から実施しており、計画の中では就業環境の改善・就業支援施策に含まれ、基本目標は夢を持てる社会づくりです。

豊橋市の外国人意識調査を見ますと定住したいという方が年々増加しており、半数近くが永住希望という結果が出ています。日系ブラジル人の全国一位は浜松市ですが、日系ブラジル人の永住資格取得者はなぜか豊橋市が一位となっています。国籍は多様化しておりブラジル人のみ増加しているのではなくフィリピン、ベトナムなど東南アジアからも増えています。日本は危機的な高齢化社会となっていますが、多くの外国人住民が暮らす中、彼らを地域の一員として捉え、その多様性を地域の財産とし、市の活性化、高齢化社会の打開につなげることが全国的な課題だと思います。

本市の就労支援についてご説明いたします。外国人住民は日本語の読み書きができないことでそもそも広く就労先を見つけるための情報収集が困難です。文化的背景の違いから日本の就労環境がわからないというケースもあります。就業先の選択には賃金の高さが第一条件かもしれませんが、派遣など見た目の単価が高い就労先を選ぶ傾向があります。生涯賃金が派遣よりも高い正職員の方が安定した生活につながるなどの情報を知らない可能性があります。安定した雇用は生活の基盤であり家族の生活の安定や子どもの教育にも影響します。生活に余裕がなければ地域の活動にも参加できないと思われます。つまり、安定した生活基盤を確保し、地域で活躍できる環境を広げていこうという取り組みです。

具体的には、定住外国人等就労支援事業として日本語研修等を提供し、市内企業とマッチングを行っています。2か月程度日本語教育と日本社会でのビジネスマナー研修、履歴書の書き方、日本の習慣の習得、その後、研修修了者と市内企業で面接会を実施し、23か月程度有期雇用契約を締結し就労します。その後、労働者の適正を見てもらい正規雇用や無期雇用につなげます。有期雇用契約終了後は市内企業に対して雇用に関わる経費に対し補助金を支払います。本事業は国の地方創生事業として実施しています。相互のミスマッチを防ぎ、安定終了につなげることが目的です。研修期間が短いため、既に一定の日本語力を持っている方が対象となりやすいという反省点もあります。

本事業はブラジル人の自助組織であるNPO法人ABT豊橋ブラジル協会に委託を行っています。本市のブラジル人コミュニティの中心的な役割を果たしており、ブラジル住民のみならず多くの外国人コミュニティとの広範なネットワーク、豊橋のみならず日本中に広がるようなネットワークを持っています。こうしたネットワークや外国の文化的背景を熟知しているNPO法人に参画してもらい、知識や経験を活用することで、参加者の応募から研修、そして雇用開始後も労働者側、企業側者側の取組に対してのきめ細かいケアをお願いできる点が強みです。

H29年の事業実績と成果としては、日本語研修参加者22名、マッチング会参加者21名、参加企業11社、マッチング成立47名、成立後正規雇用に至った方は33社でした。中小企業では人手不足感が強いのですが、業務の遂行にあたり通訳の配置等の対応が難しいため、日本語がまったく話せない方の採用は難しい状況です。就労に結び付けるためには継続した日本語教育の提供が必要と感じています。また、冒頭でお伝えしたように、見た目の待遇が低いのでそもそも正社員に魅力を感じていない人も多いことが分かりました。

今後の課題としては、日本語研修受講者の日本語能力の一定水準の確保が大事だと思います。次に、マッチング精度の向上です。研修受講者と雇用主の求める働き方に差があると、就労体験を行っても次につながりません。両者の希望をしっかり把握する必要があります。また、選択の幅をより広げるためにも、募集する事業者はできる限り多くの職種から参加してもらう必要もあります。外国人の就労意識は文化的背景が異なることから、例えば土曜日は礼拝があるので製造業の仕事だとシフトで入らなければならないといったマッチングの不具合もありました。日本的就労意識、就労体系も理解していただかないと就労の選択肢の幅も広がりませんし、受け入れ側にも外国人の就労意識を理解いただくことが必要です。

今後の展望としては、NPO法人ABT豊橋ブラジル協会の自主事業として継続できないかと考えています。市内の事業者は雇用需要が大きいことも分かっており、外国人でも一定の日本語能力があれば採用につながりやすいと感じます。継続した日本語教育やライフプランのセミナーを開催しながら就労を希望する外国人の日本語能力の向上に努め、職業紹介を行っていきたいと考えています。そのためには、財源の確保が必要です。事業者からは人手不足を解消するために資金は提供するとのご意見もいただいているので、事業者が求める就労者をNPO法人と協力しながら紹介できればと思っています。具体化するため経済団体、事業者、NPOの連携を強化していきたいと思います。

事例紹介3 将来を見据えた栃木県鹿沼市の多文化共生施策について

清水直紀氏

鹿沼市 市民部地域活動支援課
主任主事 清水 直紀 氏

これまで登壇された方々は国際課のご所属ですが、私は市民部地位活動支援課に所属し、市民活動推進、協働のまちづくり等の中間支援、自治会活動支援、多文化共生のまちづくり推進、国際交流、そして鹿沼ヒーロー計画というボランティア団体で研究開発本部に所属し絢爛郷土カヌマンというヒーローに「変身する市民」のサポートを行ったり、マラソン大会に参加したり、変身する方がいないときは自分が変身しています。

鹿沼市は宇都宮市の西側県央部に属しており、東京から100キロ圏内です。今日も東京まで1時間40分程度で到着しました。平成28年には鹿沼市がいちご市宣言をしましたが栃木県全体でいちごをPRしています。彫刻屋台の「鹿沼秋祭り」はユネスコ無形文化遺産にも指定されています。鹿沼市の花は五月、新しい名物料理としてそばとニラを合わせた「ニラ蕎麦」があります。

鹿沼市で多文化共生が推進された背景をご説明します。現在外国人住民数は1,097名、率としては1.1%、ベトナム人が最も多く次が中国人です。鹿沼市は外国人比率が低いのになぜ多文化共生なのかと思われるかもしれません。平成23年当時1%の外国人のために対策は不要との意見が多数派でしたが、少ないから問題が表面化しづらいだけで、見えない問題を解決するために政策を取る必要があると訴えた職員の熱意で政策が進められたと聞いています。その後、中国人が3割の状態からわずか5年にベトナム人が逆転するなど外国人の構成が大きく変わるという状況もありました。そのためにも、国籍を問わず対応できるようになる必要があります。また、人事異動で担当者が通常23年で変わるため担当セクションだけが担うと担当者が異動すると対応できなくなってしまうので、それを防ぐ意味合いもあります。そして、外国籍市民の問題は日本人でも直面する問題であるというとの考えでプラン策定に至りました。一時的滞在ではなく定住化永住化傾向となり、外国人住民を地域活性化のキーパーソンと捉え、また、外国人が住みやすいまちは誰もが住みやすいまちであるとの考えが背景にあります。

プラン策定にあたっては、行政のみならず外国人の意見も取り入れる必要があることから、まず平成22年に1年かけて外国人市民の意識調査を行いました。そして多文化共生推進計画策定委員会を立ち上げ、ボランティア団体、学識経験者、外国籍市民、議員、公募市民、関連団体をメンバーに全市民一丸となって平成23年に策定に至りました。

多文化共生プランの基本目標は4つ①コミュニケーション(お互いを理解しあうまちづくり」)②生活(安心して暮らせるまちづくり)③多文化共生の地域づくり(ちがいを生かし 学びあうまちづくり)④多文化共生の推進体制整備(「よりそう心を大切にするまちづくり)で、それぞれの達成のための事業の実施主体は関連する団体も参画しており、市役所だけの計画ではない点、そして策定委員会が継続して進行管理を行っている点が特徴です。

平成29年には第2期かぬま多文化共生プランを策定しました。第1期策定から第2期までの間に外国人人口は大きく変わっていませんが、国籍別の構成比、在留資格別の構成比は大きく変わっています。在留資格も永住者が多かったところから技能実習が増えているため、第2期プランは人口構成の変化に合わせて事業を変えています。役目を終えた事業などは精査し、現在は49事業となっています。

基本目標①コミュニケーション:学校や保育園からの文書や、税金に関する行政文書の多言語化を国際交流協会と協力して翻訳を行っています。毎月広報誌を要約し多言語版を5言語で発行しています。10年ボランティア団体と外国人住民が行っています。ごみの捨て方も多言語資料を作成しています。日本語学習支援は、昼と夜に行い、運営は2つのボランティア団体にお願いしており、市としては日本語ボランティア養成講座を行っています。国際交流協会自体が日本語教室を開催もしている他、コミュニティセンターで日本語教育を行っているところもあります。その他に、外国人住民の方に料理教室などの講師をしていただく場も設けています。

基本目標②生活:国際交流協会が生活相談支援のための外国人相談業務を多文化共生コミュニティセンター「コミニーテ」で行っています。当初は市役所の3階の奥深くにありましたが、平成24年に国際交流協会の移転に伴い「まちなか交流プラザ」という誰もが気軽に立ち寄れるパブリックスペースとなったため相談件数が倍増し、相談員一人で年間500件以上受けている状況です。色々な人が訪れる場所なので外国人と日本人市民が触れ合う機会が増えたと思います。

平成28年には「かぬまくらしのガイド多言語版」の動画(6か国語:英語、中国語、ポルトガル語、ベトナム語、スペイン語、日本語)を製作しました。ホームページに掲載し、誰でも観れるようになっています。

多文化共生推進プラン策定委員会が企画運営し、外国人市民への理解を促進するための様々なイベントも実施しています。平成23年から職員対象に多文化共生研修を行っています。1週間連続の講座を5年目の職員を対象に行うものです。その他に、外国籍市民のための施設見学会として給食体験や、市長と語る「かぬま夢談議」などの場の提供も行っています。

今後の課題としては、外国籍市民とかかわる市民が限定的になっているので、どのように広げられるか、直接関わる人々のニーズの把握、例えば消防、医療関係者等、そして、日本語教室がまだまだ少ないので、地域における日本語教室の拡大が必要と考えています。今後は、各地域の自治会の皆さんが日本語教室と外国人住民の母国語を教えてもらうなど相互交流を図ることができると理想的だと思います。そして、より多くの市民に'多文化'に関わってもらいたいと考えています。

事例紹介4 共に創り上げる、住み良い越前市を目指して

若泉学史氏

公益社団法人武生青年会議所 多文化シナジーを生み出す委員会
委員長 若泉 学史 氏

始めに越前市の紹介をします。人口83,000人、外国人が約4,000人で外国人の割合は5%です。今年の始めは4.3%くらいだったのですが今回の準備をしている段階で5%に増加しました。ブラジル人が特に多く約3,000人です。次いでベトナム人、中国人も多いです。背景としては村田製作所、アイシン・エィ・ダブリュ工業さんなどの大企業が外国人の雇用を拡大しているからです。越前市は2060年に少子高齢化の影響で人口が6万人になる見込みです。日本人人口は減少傾向なので外国人人口の割合が更に高くなることが予想されます。減少する生産年齢人口を外国人がカバーしている状況です。

私はそんな越前市をよくしようと頑張る武生青年会議所(JC)に所属しています。JCとは20歳から40歳の青年経済人で構成された奉仕団体で、まちづくり、青少年事業などを行い越前市の発展のために頑張っています。2015年度から越前市の外国人在住者の現状課題を考慮し多文化共生委員会を設置しました。JCは単年度制なので毎年違う者が多文化共生の担当をします。

過去の活動をご紹介します。2015年「実はこの町グローバル」という事業を行いました。今回もお見えの堀さんによる講演会と市役所の防災安全課の方、JCメンバーによるパネルディスカッションを防災をテーマに行いました。2016年は「つながろう やさしい日本語で」として、講演とワークショップ「読めないお知らせ」―どのようなお知らせにすると外国人に分かりすいか、を行いました。2017年「交流を強化する」ための外国人とフットサル、楽器作り、ハロウィンパーティなどの交流事業を、1年を通じて実施しました。

まずは今年度を担当している私の思いについてご説明したいと思います。越前市は日本でも有数の外国人の多いまちで、多くの外国人と触れ合う機会が増えています。そんな越前市だからこそお互いに住みやすいまちにする必要があります。そこで、多文化シナジーを生み出すまちとすることを目指しました。委員会名は担当者が決められるので、協働することでシナジーを生み出したいと思ったことから「多文化シナジーを生み出す委員会」という名称にしました。

今年度の事業は検討の結果「グローバルサミット越前~共に創り上げる住み良い越前市~」を行うことにしました。これまではJCが準備したイベントに当日参加いただく形でしたが、今回は協働をテーマにしたので、事前準備設営から外国人に参加をしてもらい、共にサミットをつくりあげることを目指しました。第一部はパネルディスカッション「交流の一歩先に行くために必要なこととは」、第二部は「感じよう世界のVIBES」と題したイベントを行うことにしました。

なぜ交流が一歩先に進むのが難しいのか考えた時、もっと相互理解を深める必要があるとの考えから、Google Formで事前アンケートを行いました。しかし、ブラジル人の方はQRコードを使わないことが分かり直接聞き取りをするしか方法がありませんでした。自分の開業する歯科医院に治療に訪れる患者さんやブラジル料理店等に出向いてお話を伺い意見を集めました。

当日は、多文化共生マネージャー全国協議会理事の土井佳彦氏をコーディネーターにお迎えし、パネリストとして名古屋市観光交流局国際交流課主幹の青木直人氏、ふくい市民国際交流協会理事の飛田幸平氏、ブラジル人市民のジニスマイコン氏によるパネルディスカッションを行いました。質疑応答も活発に行われ、ブラジル人男性からもっと遊べる場所やストレス発散の場所がほしいという越前市への改善への要望も出ました。

運営上配慮したこととして外国の方とゼロから創ることは難しいと考え、イベント内容は大きく3項目「シナジーフード」、「シナジーステージ」、「出展ブース」に絞った上で外国人の方と実行委員会形式で準備を行いました。心がけたこととして外国人の意見をしっかり引き出し、形にすることで一緒に作り上げると仲間と思ってもらえるようにすることです。

イベントは7月に設定し、3月に実行委員会を立ち上げ初回会議を行いました。それ以降当日まで5回会議を実施し、委員会メンバーの他に一般の日本人、ブラジル人と外国人市民が510名程度参加してもらい、当初の心配をよそに外国人の方からも会議で非常に活発に意見が出ました。

シナジーフード開発部門ではブラジル人のあんこ嫌いを考慮し代わりにチョコレートを入れたチョコいちご大福や日本人向けにアレンジを加えたパステルなどが採用されました。事前PRのために行った地元テレビの告知コーナーに外国人の方も出演してくれました。

当日は地元メディアの他、ブラジルのテレビ局がYou Tube放送なでも行われました。パネルディスカッション中は子どもが退屈しないために別会場に越前和紙を広げたお絵かきコーナーを設け好評でした。シナジーフードの一つ「シュラスコ山うに蕎麦」はイベント後地元食堂で通常のメニューとなり、今後のイベントでも提供予定です。「日伯大福」もイベント後にも協会で販売したところ評判がよかったそうです。シナジーステージでは、日本人とブラジル人のペアでクイズをしてもらったり、地元教会の方による歌とダンスや和太鼓演奏なども盛り上がりました。その他に、一般のブラジル人市民の手作りの民芸品販売するブースや竹馬など日本の遊びを体験したもらうブースなども出展され好評でした。

来場者1000人以上、事後アンケートの満足度も高く、反省点はたくさんありましたが、日本人と外国人が協働し共に創り上げる住み良い越前市へ向けてまちがいなく一歩進めたのではないかと思っています。そして、外国人も活躍する場、自分を表現する場を求めていると感じました。日本人、外国人お互いが歩み寄り協働していけば共に住み良いまちを創り上げていくことができると確信しました。これを機に外国人の方も越前市を自分のまちととらえ積極的にまちづくりに参画できるようになればよいなと思っています。

<パネルディスカッション>

ファシリテーター一:般社団法人グローバル人財サポート浜松 代表理事 堀 永乃 氏

<パネリスト>

浜松市企画調整部 国際課・専門監 原川知己氏

豊橋市役所 市民協創部多文化共生・国際課 課長補佐 藤江大光氏

  鹿沼市 市民部地域活動支援課 主任主事 清水直紀氏

公益社団法人武生青年会議所 多文化シナジーを生み出す委員会 委員長 若泉学史氏

堀氏:皆様からたくさんの質問をいただきましたが、共通する質問事項も多かったので4つに分類させていただき、それにお答えする形式とします。

質問1:外国人住民の地域参加を促すためにあなたはどのような工夫を行っていますか?

堀氏:若泉さん、実行委員会に参加する外国人をどのように集めましたか?

(回答)若泉氏:外国人の方が本当に集まるか不安でした。まずは国際交流協会に相談し、学校に勤務する友人がブラジル人児童の支援員をしている人たちと親しかったので相談しました。また、(地元でブラジル人の方などが多く通う)フリーメゾジスト教会にも相談し紹介を受けました。

堀氏:2009年の上智大学の調査で外国人の皆さんに図を書いてもらうと必ず教会が描かれるという結果が出ています。また、教会で活動されている方はボランティア精神にあふれているので教会をターゲットにされたことはとても素晴らしいと思います。

質問2:外国人の多様性を生かして活躍できる地域社会のために、その担い手をどのように育成していますか? その活動は市民のボランティア任せでいいのでしょうか?

(回答)藤江氏:非常に難しい質問ですが、個人のボランティアだけに任せるべきではないと思います。地方公共団体や国も汗をかくべきです。個人的には地域の担い手は、「発掘されていない」だけで多数いると思います。外国人や地域の活動をされている人と、仲良くなることを心掛けていくとそこから色々な方と連鎖的につながり、眠っている人財を発掘できると感じています。思いはあるが行動できていない人にきっかけをつくることも行政の役割だと思います。

堀氏:行政職員には限界もあるので、地域国際化協会、国際交流協会の役割も重要だと思います。会場からもご意見を伺いたいと思いますが、国際交流協会の職員の方いかがでしょうか?

(回答):私の団体は4月から活動を開始したばかりです。区としてはボランティア登録者はいたものの活動はしていませんでした。4月以降は協会独自でボランティアを募集し現在までに200名が集まりました。今後カテゴリーに分けて研修を行う予定です。

堀氏:クレアでは多文化共生マネージャーを養成し、つなぎ手を育成しています。多文化共生マネージャー(通称タブマネ)の方、タブマネになろうと思った理由を聞かせてください。

(回答):日本語教師をやっていますが、外国人にとって日本語を学ぶメリットが見えない、それは企業の就労機会が少ないのが理由ではないかと思います。地域で外国人の雇用を作っていくことが必要と考えています。

堀氏:豊橋のABTさんは外国人自助組織として自分たちの困りごとを自分たちで解決しています。広島県呉市にもそうした日本語教室があり、呉市が西日本豪雨災害はひどい状態の中参加者する外国人留学生などがボランティア活動を行っており、高齢化が進む呉市の強い味方になっています。ボランティアだけでなく意識のある人々とまちをつくろうという気持ちも大事ではないか思います。また、支援する側とされる側の実際のニーズがマッチしていないことがあり、ボランティア活動自体がボランティアを行う者自身の自己満足になっているのではないかとよく言われます。

質問3:外国人当事者の声をどのように収集していますか?

堀氏:鹿沼市の清水さん、具体的な方法を教えてください。

(回答)清水氏:まずはアンケート調査をしましたが回収率は23%でした。そこで、国際交流協会に相談にこられた人々、日本語教室の参加者などにアンケートの回答を依頼しました。教会に出向いてお話を伺うこともしました。

堀氏:浜松市には外国人市民共生審議会があります。審議会は市の行政の施策にどう影響しているのか、どのような人が委員になっているのか、原川さん教えてください。

(回答)原川氏:公募で外国人市民の方に委員になっていただきますが、主婦、就労者など住民として暮らしている人たちで、比較的意識の高い方が多いと思います。選考の際は日本語の作文を書いてもらい審査を行います。委員は10名で任期2年、年に56回会議を行い行政に対して意見や要望、例えば「街中で多言語情報が少ない」、「外国人コミュニティ同士の横のつながりが不足している」などの意見をまとめて市長へ提言書として提出してもらいます。その後市の事業や政策へつなげていきます。

堀氏:外国人市民共生審議会の内容は必ず新聞報道され一般の方の目にも触れるようになっています。また、浜松市では4年に一度市民の意識調査も行い多文化共生施策の浸透状況等把握に努めています。鹿沼市は立地条件がとても似ている駒ケ根市と連携し調査項目を作り日本人にもアンケート調査もし、外国人のところに出向いてアンケートを作り両市を比べながら多文化共生推進プランを策定しました。こうした取り組みは基礎自治体への波及効果があり、例えば自治体国際化協会の力も借りながら佐賀県基山町は駒ヶ根市を例に、多文化共生推進プランを今年作ります。人口規模や町の大きさに関わらず、似たような環境下にある基礎自治体同士が協力することも素晴らしいと思います。次に市民の意識について原川さんにお伺いしたいのですが。

質問4:地域住民への意識啓発に向けて、取り組んだ事例のうち、「失敗したな~」という取り組み事例はありますか?

(回答)原川氏:失敗事例はすぐには思い浮かびませんが、市として多文化共生都市ビジョンや国際戦略プランを「作ったこと」に満足してしまい、それをいかに市民に浸透させられるか、ということまで意識できていないかもしれません。大事だと思うのは啓発です。ねばり強く、現場で市民に直接働きかけることが必要であり、根気強く継続して行うことが大切だと思います。それが遠回りのようで実は結果につながる近道だと思います。

堀氏:静岡県では、日本人大学生も外国人留学生も他の都市に流出する傾向があります。豊橋市で就労支援事業のマッチング率が思ったほど上がらなかったというお話がありましたが、藤江さん、何が課題だったのでしょうか?

(回答)藤江氏:ちょうど事業の途中で日本最大の売り場面積を誇る量販店が開店しました。大量に外国人を採用したので、多くの外国人をとられてしまったのです。マッチングに参加した事業者は日本人でもなかなか入れないような優良企業なのですが、当座の時給などから量販店が選ばれてしまいました。

堀氏:私が以前浜松国際交流協会に勤務していた際、就労のための日本語教室事業をスタートしました。中国帰国者援護協会の協力を得て「求職日本語」を短期間でポルトガル語とスペイン語に翻訳し、日本語指導をしました。しかし、参加者100名中就職したのは7名でした。これでは費用対効果がありません。なぜそのような結果になったのか、それは現場を知らずに実態に則してしないカリキュラムだったためです。つまり、現場をつなぐプログラムが入っておらず、どういう現場であれば外国人も活躍することができるのかをきちんと把握してなかったからなのです。その後2009年厚労省より日系人就労準備研修事業受託の話をいただき、浜松市側でカリキュラムを組めることになったので、現場に則した講習を提供することで参加者約1000人中8割の就労を達成することができました。それは、実際に雇用する側の人たちに彼らの努力や姿勢を直接見てもらう「職場体験」があったからできたことだと確信しています。

次に、若泉さんに伺います。経営者の視点から外国人の採用には壁がありますか?

若泉氏:歯科医院なのでライセンス系の仕事しか募集しておらず自分のところでは外国の方からの応募がありませんが、友人の会社では外国人を採用しているところもあれば、業種によって日本人ではないとできないということもあり人それぞれだと思います。

堀氏:皆様からの発表で共通するのは「場の創出」だと思います。各都市色々な機会を創出していたと思います。外国人の方だって、自分に自信を持ち、役に立ちたいと思っていると思います。地域の中に定着してきたら、その次はコミュニティの中でどう生きていくか強く考えるのではないでしょうか。私は福祉分野が専門ではありませんが、障害者の社会参加に4つのバリア(物理的、制度的、文化的、意識的)があると言われています。まずは物理的バリアです。鹿沼市では気軽に立ち寄れる拠点を作りましたがどうでしたか?

清水氏:開始時はなかなか外国人に来てもらえないと思いましたが口コミで広がりました。今では用が無くても来る人がいて相談員さんが困るほどです。

堀氏:居場所があるのは大きいと思います。外国の方は噴水や公園など公共的なフリースペースを好む傾向があります。浜松ではコンビニの前に夕方若い子たちがたむろしていることが多いですが、全部取り締まったら闇の世界に行ってしまいます。オープンスペースで居場所を作ることも必要だと思います。

次に制度のバリアです。就労にもビザの必要性、医療機関受診にも健康保険など制度が問題になることもあります。若泉さん、制度的バリアで外国人が治療を受けられないということはありませんか?

若泉氏:私の歯科医院ではあまりないと思います。皆さん健康保険に入っています。お金があっても保険料の支払いが勿体ないので実費で敢えて治療をされる方もいます。ただし、保健に加入されていない方が受診していないだけかもしれません。

堀氏:医療行為をする上で、文化情報のバリアはありませんが? 医療通訳、医療ツーリズムという言葉が聞かれるようになりましたが、日本語ができず通訳が必要というケースはありますか?

若泉氏:通訳を同行するか日本語の話せる友人と来るケースが多いです。ただし、通訳は一回当たり23千円かかるそうで、一度目に通訳を連れて一通りの言葉を訳してもらい次回以降一人という場合もあります。私も、治療に必要な言葉は一応話せるようにしています。また、普段治療に使用する言葉は翻訳者に冊子を作ってもらい指差し会話ができるようにしていますが、細かいニュアンスが伝わりにくいこともありなるべく通訳の同行を頼んでいます。

堀氏:横浜市は他の自治体に先がけて医療通訳を整備しており、通訳上のトラブルの場合、医師の保険でカバーできるよう制度を整えています。今日は医療コーディネーターの方がお見えですが、医療通訳に関しご自身の経験で困ったことはありましたか?

(回答):11歳で来し日本語がまだよく分からなかった時に3歳の弟が交通事故に遭い、それが最初の通訳経験でした。それから地域の通訳として活動するようになりますが、一人では限界があるので、チームとして行う必要性を感じました。その後会社の立ち上げにも参加しました。基本的にひどく困ったことはありません。

堀氏:オリンピックなどもあり日本でも医療通訳が広がっていますね。西日本豪雨の際、無料での電話通訳サービスを提供されましたが、そのお話を聞かせてください。

(回答):行政では契約をしていない民間企業のサービスを利用しないため利用してもらえず苦労しました。また、総務省、東京消防庁に無償提供サービスの広報を依頼しても断られました。その時JVOAD全国災害ボランティア支援団体ネットワーク)を紹介いただき助かりました。JVOAD経由でNPO等のボランティア団体に情報を広げてもらうことができました。

堀氏:原川さん、制度のバリアに関する浜松市での取組を教えてください。

原川氏:外国人学習支援センターで日本語教育の他に、「不就学ゼロ作戦事業」を行っています。住民基本台帳と連動させ、外国人学校からの情報提供なども得ながら就学していない外国人の子どもを把握し、そのご家庭を一件ずつ訪問し就学につなげています。不就学の背景には複雑な原因があり、保護者の意識や経済状況が理由となっている場合もあります。浜松市だけでなくNPO、ボランティア、教育委員会などと連携しながら対応しています。この取組は平成23年度から始めて25年度に外国人の子どもの不就学ゼロを達成しました。子どもたちは年とともに年齢が上がり対象者は変わっていくので、継続が必要です。

堀氏:最後に意識のバリアについてです。若泉さん、シナジーは生み出されましたか?

若泉:形に残るシナジーとしては開発したメニュー、蕎麦や日伯大福などが形に残っています。また、一つのことを共に作り上げることで信頼関係ができたと感じます。イベント後もまちで会えば声を掛け合い、困ったときに相談を受けたりします。一つの目標に向かって共に活動することで、意識の壁が崩れて一歩先に進めたのではないかと感じています。

堀氏:4つのバリアを超えることは、ノーマライゼーション・ダイバーシティ構想につながると思います。このテーマに関する外国のビールメーカーの取組を紹介します。LGBT賛成派とLGBT反対派や、フェミニストと反フェミニストなど相反する思想を持つ2人を対象に、バーカウンター作製という共同作業をしてもらい、その後バーカウンターに同社のビールが置かれます。帰るか、一緒に飲むかは自由です。結果、参加した全員が一緒にビールを飲みました。例え真逆の考え方を持つ者同士でも、同じ空間で共同作業することにより感動や共感が生まれるのですね。

人々の意識を変えるには、皆さんのような存在、「つなぎ役」が必要です。私自身も一人ではできませんが、行政の方、青年会議所の方たちなど色々な人たちとコラボすることで活動ができます。皆さんも是非、取り組んでいただきたいと思います。今の肩書で難しければ、2枚目の名刺を使っていただきたいと思います。これからの社会をどうするのか、今私たちにできることをできることから取り組んでみませんか。まずは、ぜひ今日の感想をお近くの方にお伝えいただければ嬉しいです。